第二十二話:背尾つかさはちょっと不器用
弟のカルダさんが採取してきたシオニ石という白い石を砕き、いろいろな処理をして炉で溶かした物がガラスになるらしい。
だけれど、今日は全部すっ飛ばして溶けたガラスがこちらに用意してあります。
まるで料理番組だけど、楽しいところから開始するのは嬉しい。
材料や作り方が、動画で見た地球でのやり方と同じかどうかはわからない。でも、棒の先に水飴のようにトロリとしたガラスがついている感じは同じように見える。
この溶けたガラスを巨大なストローのような棒に付けて息を吹き入れて膨らませる。簡単に言ってしまえばそれだけだ。わたしは炉の中で『ぐっじょぶ』と前脚を上げる青いクマちゃんに小さく頷くと、息を吹き込んだ。
それから数時間後。
「つかささん、あなた……」
目の前には芸術的な作品が並んでいた。
ただし、余人には理解できない前衛的なタイプの。
「あなた……不器用なのね」
ズバッと言われた!
「待って下さい! もう一度チャンスを! もう一回やればひょうたん型じゃないやつが作れますから!」
「いやいや、最初のは形は悪いけどちゃんと膨らんでたじゃない。悪化してるのよ?」
何故だろう。最初に作ったのは棒から外すときに穴が大きすぎたのと、時間が掛かりすぎてガラスが垂れたせいで厚さが偏った。
もう一度やらせて下さいと頼んでの二度目では、柔らかすぎてくにゃくにゃに。
さらにもう一度やらせて貰ったら、手早く膨らませようとして破裂した。
一度目以外は形にすらなってない!
「これはね、ドツボにハマってるのよ。やればやるほど失敗を積み重ねる流れよ。一旦休憩しましょう? 冷静にならないと……」
この工房内は暑いので、建物の外に出てベンチに腰掛けて冷たいお茶を飲む。しばらく休んでようやく冷静になってきた。
「なんか申し訳ありません、材料もたくさん無駄にしちゃって」
「いや、それはいいの。誘ったの私だし」
やってみたら凄く面白かった! 上手くは出来なかったけど。
「もしガラス工芸気に入ったなら、蜻蛉玉も今度作ってみる?」
「絶対ハマる気がします」
くつくつと嬉しそうに笑うシーナさん。同好の士が増えたのが嬉しいのかとても楽しそうだ。
「蜻蛉玉の中に入れてる色のついたガラスも自作なんですか?」
「そうだよ。そっちの材料は簡単に手に入らないからドワーフから買い取ってるけど」
ガラスの中に花や模様が埋まっているように作る細工が蜻蛉玉だ。まるで本物の花を沈めているように見えるのだが、そんなことをしたら燃える。ガラスの高熱を思い知ったから断言できる。
それでようやく色ガラスであることに気が付いた……のだけど。ドワーフ!
「やっぱり居るんですね」
「ここは山に近いからねぇ。彼らは『穴掘るのが好き』『鍛冶が好き』『鉄が好き』で、凄い人になると『仕事が好き』だからね。倒れるまで没頭するらしいよ。そんな人達だもの、鉱山の無いところには住めないよ」
ファンタジーな世界だからやっぱり居るんですね、という言葉が思わず口から漏れたのだけど。ハイホー!イメージ以上にワーカホリックな人達みたい。
「ドワーフ達は鉄やミスリルを掘り出したいみたいだけど、ついでに他の鉱石も出てくるからね。絵の具の材料になったり、色ガラスの材料になるようなのを売って貰うんだよ」
シーナさんの首に下がっているネックレスのペンダントトップになっている蜻蛉玉に目を向けると、真紅の大輪の華が埋め込まれている。
「この赤も、鉱石から作られるんですか?」
「そうだよ、植物か鉱石かだからね。絵の具はみんな欲しがるけど、色の材料にまでは気にしない人も多いよね」
いや、そうじゃ無い。子供の頃に図鑑で見たのだけど、染料は様々な材料から作られていて、その中には……
「虫から、とか作らないんですか?」
初めて知ったときはひいっ!と悲鳴を上げた。一部の染料は虫から作られるものがあるのだ。
「むし? 色喰蟲のこと? そんなのから作れるなんて話は聞いたこと無いね」
良かった。この世界の染料……皆の呼ぶ『絵の具』には虫は使われていないらしい!
しかし、今の話からどうも色喰蟲以外の虫も居なさそうです。虫は苦手だから、これから森を往復するだろう事を考えると大歓迎だけど。花の受粉とか大丈夫なのかな?
いや、蝶々は見かけた気もする。生態系は地球とはだいぶ違うのかな。当たり前か。
そのまま少しおしゃべりを続け、定期的にガラス瓶を買うことと、蜻蛉玉を改めて買いに来ることを約束したのだった。
誤字修正、ありがとうございます!




