第十九話:背尾つかさは気が付かない
鼻歌を歌いながらタバサさんにも持っていく。
「ああ、ちょうどよかった。瓶詰めする前の薬があったら少しいいかい。指先を切っちゃってね」
「じゃ、今取ってきますから」
お店のカウンターに焼き菓子の入った深皿を置くと、ドリップ式でやや濃いめに抽出できた方の薬を木べらにとってそのまま持っていく。
すると、もぐもぐと口を動かすタバサさんと鉢合わせする。つまみ食い現場を押さえてしまったようです。
「良い匂いがしてきたからまだかまだかと待ってたんだよ」
そう言って照れたように笑うタバサさんだが、一口食べて動きが止まった。
「怪我した指はどっちですか。薬塗るんで出してください」
「ねぇ、つかさ? あんたこれにナオリ草を入れたかい?」
「はい。良い香り付けになるかと思って、端っこを少し。ダメでしたか?」
「いや、食べ物に混ぜても効果が薄いだけで、疲労回復効果もあるから悪くは無いんだけど。無いんだけど」
タバサさんは右手の人差し指をじっと見つめている。
「治った」
「え?」
「クッキー食べたら体が熱くなって、指の怪我が治った。肩こりも」
タバサさんが言うには、ナオリ草は通称:薬草。葉を良く揉んで傷口に貼り付けたり、絞り汁を舐めるだけでも多少は効果があるらしい。
それを低温で煮出した物が『下級回復薬』と呼ばれており、手間暇掛けて濃度を濃くした物が『中級回復薬』と呼ばれるらしい。
「そこまでは出回ってるんだよ。沸騰させないようにゆっくり煮詰めて濃くしたり、量をたくさん使えば中級回復薬は私でもつくれるからね。ナオリ草の在庫が沢山あるときには作る事もあるよ。でもね、クッキーに混ぜた程度の量を飲んで怪我が治るなんてことは無いね」
「という事は、どういう事なんです?」
「『上級回復薬』並みの効果があるって事だよ。このクッキー」
真剣な顔で言われるが、そんなことを言われても。
「どんな作りかたしたんだい? 上級回復薬はね、偶然できる事があるくらいで、狙って作れるものじゃないんだ。完成すると普通の回復薬とは匂いが違う。そして効果が桁違いなんだ」
「半端な部分を生地に混ぜて焼いただけですよ」
「焼いたら普通は効果が弱くなるんだよ?」
タバサさんは信じられないと言いたげに、大げさに肩をすくめて首を振る。日本人なのにアメリカっぽいオーバーアクション。
「あ、もしかしたら」
「何か思いついたのかい」
「ナオリ草を細かくサイズを揃えて使ったので、サイズの合わない端っこだけ避けておいて、それを生地に混ぜたんです。もしかしたら茎の下の方だけとか、部分によって薬効に差があるのかも」
あとはクマ動力とクマ火力くらいしか。いや、そっちこそ怪しむべきか。
「あと、クマちゃんが作るのを手伝ってます」
「……もう一回作ってみて、また上級回復薬ができるか試してみよう。狙って作れたら凄いよ? なにせ」
自分の手をクルクルと返しながら、じっくりと凝視する。
「……指のあかぎれとかも全部治っているし、魔法みたいに一瞬で肌がつやつやになった。美容効果もあるんじゃないかい?」
「それは大事ですね。ぜひ解き明かしましょう」
グッとガッツポーズを交わして美肌薬を作ろうと誓い合う。
いやいや、その前にガラス瓶買ってこないと。あと赤クマちゃんに居てもらう方法の解明と、あとクマ二人にあげるホットケーキに掛ける為にハチミツかシロップ的な物も買ってこないと。
うわぁ、やる事がいっぱいだ!
つかさのタスク
・ガラス瓶の購入
・ホットケーキに掛ける物の購入
・赤クマが消えて、クッキー君は残っている事の検証
・美容薬……じゃなかった上級回復薬の作りかたを確認する




