14話 対瀑布
最近「叛逆の血戦術士」という作品の漫画原作を始めまして。コミックス第一巻が明日、9月9日に発売されます。
是非一度、お手に取って頂ければ嬉しいです
ローリエは、目の前の光景から来る飛沫と威圧感を、その身に浴びていた。
「え……こんな滝、見た事ないわよ……」
今いるのは、大瀑布の中腹と同じくらいの高さに位置する高台だ。
そこから眺めても、高低差は優に、100メートルを超えているだろう、と一目で分かるレベルだった。
離れていても、冷たい飛沫が顔に来る。
それだけで目の前の光景が、幻想などではない事が分かる。
「元からあったのかしら。それともウロボロスの影響で、地形変動があったとか。……にしても、程があるでしょう……」
これだけの大瀑布にしては、やけに音が小さいけれども、よくよく見れば、崖の岩々に魔力を感じるものがある。
……魔石の一種……。あれのせいで、消音効果や、振動抑制効果でも出しているのかしら……。
魔石の中には、自然に魔法が発動させているものがある。
そこから人が着想を得て、新しい魔法を開発したりするので、有意義な自然現象でもあるのだけれども。
……今回は、勘弁してほしいわね……。
と、ローリエが思っていると、
「おーい、ローリエ。チェックポイントはあそこみたいだな」
高台の先に立ち周囲を眺めていたアクセルがそう言った。
彼が視線を向けたのは下方。
時分も見れば、高所から落ちた水が霧のようになっている空中に、オレンジ色の光がしっかり浮かんでいる。
神書で位置を確認しても、チェックポイントの光で間違いない。
……どうやって行くべきかしら……
位置しているのは振り落ちる自ら少し離れた、水の上。
水の中ではない。けれど、恐らく真下は滝つぼだ。
……泳いでいくには危険すぎるし……。
そう思っていると、
「――」
神書が光った。
元々は白紙のページであった場所だ。見ればそこには、
【最終チェックポイント限定条件】
との文字が刻まれた。、
「追加の、条件……?」
こちらが言葉を漏らす間にも、光の文字は続きを刻んでいき、
【三分以内に、ここにある全てのチェックポイントを、一から三の順番通りに通過して、光の渦に飛び込む事】
書くだけ書いて、光は止まった。
「な、なによ、順番通りって……」
こちらが眉を顰めて神書を見ていると、
「おおい、姫さん。なんかチェックポイントの光がまた出来たというか、色々と変わってるぞ」
と、アクセルとと共に、滝の方向を見ていたデイジーが喋りかけてきた。
「変わったって……」
ローリエは神書から目を離して、滝の方を見た。
するとそこには、
「光が、三つ……?」
オレンジ色の光が、二つ増えていた。
しかも、それぞれが、数字の形をしている。
見れば最初のチェックポイントも数字の形になっているが、
「嘘でしょ……」
滝つぼ側に「1」があり、中間に「2」が。上方に「3」があるのだ。
そして、「3」の直上の空中に、オレンジ色の光の渦があるのだ。
「ローリエ、これどういうことだ?」
いきなりの変化だからか、不思議そうな表情で、アクセルが近寄ってくる。
だから、ローリエは、今しがた神書に浮かんだ文章を見せた。そして、
「下から昇るルートでしか、入れないってこと、みたい」
「絶対に滝を登らないといけないって事か?」
「ええ、多分。そうよね、神様」
こちらの問いに答えるのは神書の光で、
【肯定】
との文字だけが刻まれた。
どうやら、言葉通りらしい。
それを見て、ローリエは深く息を吐く。
「色々と関門を突破したと思ったのに――無理難題を、ここに来て出してくるのね。ホント、神様は良い性格をしているわ」
どうしろというのだ。
それが第一に思った感想。
途方に暮れる暇はないし、意味もないのは分かっている。
だが、分かっていても、くじけそうになる。
目の前の圧倒的な壁を前にしてしまうと、考えても考えても、
……対応策が出てこないわ……。
チェックポイント一つに触れるだけでも難しいのに、短時間で三連続。その上、順序まで決められている。
正直、絶望を感じ始めていた。だが――
「ふむ……じゃあ、頑張って昇るか」
アクセルの調子は、まったく変わっていなかった。
先程から周囲を見回していて、戻ってきたと思ったら、そんなことを言ってきたのだ。
それこそ、先日のトンネルが崩壊していた時と、同じ様子で。同じことを。
確かに状況だって、言ってしまえば、変わらない。
登らなければ、いけないのだから。でも、
「山を登るのとは、訳が違うわよ。滝なのよ、今回の相手は」
普通は、登れないものだ。それも、三分以内に、という条件が付けばなおさら。
だのに、
「いけるの?」
そう問うと、
「ああ。行かなきゃ、君を指定の場所まで運べないんだから、行くさ」
と、の言葉が返ってきた。
声は、微塵も、自信のなさを感じさせないものだ。
「それは、そうなんだけど。具体的な方法は?」
「ああ。最近手に入れたんだけど、水面を歩ける運び屋のスキルがあるんだよ」
「それは……運び屋でも、かなりの熟練者でないと持てないスキルね……」
小さな川などを渡るために、使う職業者もいる。そんなスキルだが、
「でも、それがどうしたの?」
「ここを進むのに役立つだろう?」
「え?」
「滝だって、水面だからな」
アクセルの言葉を、最初ローリエは、飲み込むことが出来なかった。
確かに運び屋のスキルで水面を歩いている姿を見た事はあるけれど。それは平面でのことだ。
けれど、滝は垂直で――
「ほ、本気で言ってるの……!?」
「ああ。以前、君の宮殿の風呂場に設けられた滝で、試したことがあってな。壁を走る要領で、問題なくいけるぞ」
「壁を走るって……」
そもそもそんなことが出来る運び屋を見た事がない。いや、でも、
……ウロボロスの身体を突っ走ってきた彼ならばいける、のでしょうね……。
そんなことを思っていると、
「まあ、ただ、当然今回も君を背負う事になるだろうけれども。もしも不安があるとか、恐怖の方が勝るっていうなら、別の方法がないか、考えようとは思うが――」
と、アクセルは言ってくる。けれども、ローリエとしては、先程からの熟考で、既に答えは決めていて、
「大丈夫よ。貴方に任せるわ、アクセル」
「良いのか?」
「ええ。ここまで連れてきてもらったんだもの。最後まで信じるわよ」
ローリエの言葉に、アクセルは微笑で頷いた。
「そう言って貰えると助かるよ。それじゃあ、準備をしようか」
「ええ」
†
滝登りの準備は、滝の直下近くにある陸地に、俺が輸送袋の中身をおいていく、という形で行われていた。
そこの一帯は滝のお陰か、非常に気温が涼しく、食料品などを置いておいても日持ちしてくれる、という判断のもとだ。
そして食料品を大体置けば、輸送袋にはかなりのスペースが生まれることになり、
……これで過去輸送は出来るようになったな。
もしもの時のために竜騎士時代のスキルを使えるようにしておく。これで、俺の準備は完了だ。だから、
「待たせたな、ローリエ。デイジー」
滝を直上に見上げることのできる位置で立つローリエとデイジーの元まで行く。
「いえ、問題ないわよ、アクセル。私もようやく、心の準備を終えたところだから」
「オレもだぜー。獣への変身準備は念入りにし終えたからな!」
彼女たちは微笑と共にそう言ってきた。
こちらを気遣わせないように言ってくれているのだろうが、有難い話だ、と思いながら、俺は彼女たちの前に出る。
そして身をかがめ、背中に人を乗せる状態を作った。
「よし。じゃあ、乗ってくれ」
その言葉だけで、背中に人ひとり分の体重が、肩にカーバンクル一体分の体重が乗った。
「よろしくお願いするわ。チェックポイントを通過してくれれば、私が触れるから」
「出来るところはサポートするぜ、親友。【錬成:植物からの固定縄】」
デイジーがそう言った瞬間、俺の周囲に光る縄が生まれた。
錬金術で作ったのだろう。俺とローリエの身体を結びつける。
これで、よっぽど変な動きをしない限り彼女は落ちないだろう。
「ああ。頼む。もしもの時というか、落下時のサポートもな」
二人の言葉に、俺は言葉を返してから前を見る。
一歩前には、水面が。
視線の先には、白く霧状になった水がある。
それらを視界に留めた上で、
「それじゃ……行くか」
足を前に踏み出して、水面を、蹴った。
本来はただ沈むだけの脚。だけれども、
【水面歩法】
運び屋のスキルは問題なく発動し、水面は、反力を返してきた。
地面のようにがっしりとしてはいない、しかし間違いなく蹴れるだけの硬さあるもので、
……水面を歩けるという事は、走れて、飛べるという事……!
一歩で「1」のチェックポイントに触れた俺は、そのまま斜め上に跳躍した。
「――!」
霧状になった水の中を突き進み、更には、
……水面を歩けるという事は、水飛沫であろうとも、踏めるということ……。
その霧を踏んで、更に上へ行く。
宮殿の温泉で確かめた事だ。水滴であろうとも、反力は少なくなるが、蹴って進めるという事も。そして、
「壁面であろうが、水面として蹴れるという事も……!」
そのまま俺は、滝の水面と飛沫を使って、一気にチェックポイント目掛けて駆け上がっていく。
前書きにも書きましたが、「叛逆の血戦術士」という作品の漫画原作を始めまして。コミックス第一巻が明日、9月9日に発売されます(表紙画像↓から公式サイトへ行けます)。
是非一度、お手に取って頂ければ嬉しいです




