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21話 正体と計画


 報告会の場にやってきたゲイルから、俺たちは、今回の事件の一部始終を聞いた。


「つまり、纏めると精霊道から龍の首が出てきたのじゃな? そして魔石を一飲みにしたあと、職員らは、そいつに襲われた。で、逆鱗を破壊しても、死なない龍。そういう魔獣だったんじゃな?」

「その通りだ、研究所長」


 カトレアのまとめに、ゲイルは頷いた。

 

「逆鱗を破壊しても死なない、龍ですか。そんな魔獣、存在するんですかね……」

 

 話を聞いていた牡丹は、難しい顔をしながらそう呟いた。

 確かに龍というものは、逆鱗が弱点であり、破壊されたのであれば死ぬ、というのが普通だ。故に、そんな表情をするのも理解は出来る。

 だが、俺は少し認識が異なっていて、

 

「そいつは黒く刺々しいウロコをしていて、目は、八個あったか?」


 聞いた。すると、ゲイルは再び肯定の返事を返してきた。


「あった。アクセル、正体を知っているのか?」

「ああ。多分、その例外的な生態で、その外見だと、ウロボロスだと思うぞ」


 俺の言葉に、最も早く反応したのは、近場にいたカトレアだった。


「ウロボロス……というと古代種か!?」

「カトレアさんも知っているのか」

「長い間生きているからの。聞いたことがあるのじゃ。魔王大戦で、何十男百もの戦士をその巨体で押しつぶした、という事例をな。合っているかの?」

「ああ、間違いはない。あいつは、かなりデカいからな……」


 俺は過去を思い返しながら言った。

 そして、俺の言葉に重ねるようにゲイルも声を発していて、


「確かに首の一部だけしか出てきておらず、足や手は見えなかった、それでも数十メートルはあったな」

「まあ、そうだろうな。ウロボロスっていうのは、両端に頭部を持った、全長十数キロもの長大な体を持つ龍だからな。首が体みたいなものでもあるし、相当でかいさ」


 そう告げると、牡丹は驚きの表情を浮かべた。


「ぜ、全長がキロで示されるだなんて。本当ですか? それは、規格外の大きさですよ……」「ああ。龍の中でも、サイズで言ったら一二を争うレベルだろうな」

「うむ……アクセルの口ぶりだと、実物を見たことがあるんじゃな」

「そりゃあ、魔王大戦で戦ったことがあるからな」


 はるか昔の事ではあるけれど。

 確かに、相手をした経験がある。


「た、倒したんですか」

「ああ、まあな。それが竜騎士の仕事だったしさ」

「すごいですね、そんなに巨大な相手を……」

「ほめてくれてありがとうよ。でも、巨大さは面倒なだけで、本当の問題はそこじゃないんだ」

「え?」

「何せ、本当に厄介なところは、体を幾ら傷つけても再生されて無駄っていう特性だからな」「ど、どういうことです?」

「簡単に言うと倒すためには、両頭にあるコアを同時に倒さなきゃいけなくてな。それ以外の攻撃は、まあ、気休めにしかならなかったんだ」 


 俺はかつての敵を思い返す。

 何度切り刻んでも、痛みで苦しみはしていたが死なず、こちらの陣営に被害を出し続けてきた巨龍を。


「体を攻撃しても意味がないのですか……」 

「逆鱗とコアを破壊しても死ななかったのは、そのせいか」


 ゲイルも得心が言ったようだ。

 

「ああ。その不思議な生態が明らかになるまで、というか、なってからも苦労したよ。ゲイルとかとパーティーを組んでいたとはいえ、出くわした時は、俺一人だったからな。バーゼリアとかサキもいない頃だったし。このデカいのをどうしたものかと思いながら、戦ってたからな」

「ど、どうやってそれで倒したんですか……。話を聞いている限りでは、突破口が見えないのですが……」

「いやまあ、竜騎士時代の話だけどな。戦場に横たわってたウロボロスを前にして、色々と攻撃して確かめたんだ。で、最終的には全力で槍を投擲して、それが着弾する頃合いで、手に持った剣で同時撃波とかやったんだよ。結局コアを二つ破壊すれば倒せるってことに気づけば、それをやればいいだけだったからさ」

「やればいいだけって……じゅ、十数キロ、槍を投げたんですか……」

「すさまじいのう……」


 牡丹とカトレアは唖然とした目でこちらを見てくる。

 そんな反応をされてもやるしかなかった状況なのだから仕方ないとは思う。


「いやまあ、遠距離狙撃用のスキルを使って半自立駆動させたから出来た事だからな。それに、一時的に片腕が壊れて散々だったし」

「……ああ。アクセルが肩から先の肉がほぼ吹っ飛んだ状態で拠点に帰ってきたときがあって、医療班が騒然としていたが、それをやっていたんだったな。己の気功で、治療補助した記憶がある」

「その時は世話になったなー。有難かったよ、ゲイル」


 そんなゲイルと俺のやり取りを聞いたからか、そっとバーゼリアとサキがこちらに近寄って、腕をつかんでいた。


「ご主人、本当に昔からそんなことをやってたんだね……」

「気を付けないと、体そのものや、命まで簡単にベッドしそうですから、気を付けていないと不味いですね、ほんとに……」 

「いやまあ、流石にそんな無茶は、あんまりする気はないからな? 他に思いつかなかったらやっただけで。それに、今はその戦法は使えないしな」


 言うと、牡丹は俺の輸送袋を見た。

 

「それは、アクセル様が竜騎士でなくなったから、ですか?」

「それもあるが……やつの居場所の方が問題だな」

「居場所が次元が異なる空間――人間界と精霊界の狭間に、体を置いているから、じゃな」


 その言葉に、ああ、とバーゼリアは納得したようで

 

「そっか……。こっちからいくら攻撃しても、次元が異なる世界にもう一つの頭がある場合、届かないんだね」

「そうだな。次元を割る一撃というのも、存在しないわけじゃないけど。……ここにいる者の中で撃てる奴がいるかっていう話になるしな」


 俺は仲間たちを見るが、

 

「私は無理ですね。国一つを覆うくらいの特大の魔法陣や、特別な魔道具があればあるいは、という感じですが」

「己も同様だ」

「オレも、そもそも攻撃能力は程々だからなキツイぜ、親友」


 皆一様に首を横に振った。

 当然だ。そんな超威力のものを、簡単に放つことは出来ない。


「そもそも次元を割る一撃を放てたとしても、当てずっぽうに打ったら大惨事だからな。どこにどんな被害が及ぶかもわからんし。……そもそも、やつのもう一つの頭が、居場所を突き止める必要はあるしな」


 そういった後で、俺は確認のために、再びゲイルに質問することにした。


「ちなみにゲイル。相手をした時、頭に角は付いていたか? 立派な大きい二本角とかさ」

「む? 角は、付いてなかった」

「となると、ゲイルが潰したのは、尻尾についた頭――第二頭の方だな」

「そうなのか?」

「ああ。ウロボロスは、頭を二つ持つが、尻尾の第二頭は角を持っていなくて、小さいんだ。サブ頭みたいなものだな。その分、防御力も弱くてコアを砕きやすいんだが」


 俺の発言に、職員たちはざわめいた。


「あれで砕きやすい……? 俺たちが圧倒されて、拳の勇者様の一撃でようやく倒せたものが……」 

「メインの頭はそれよりも硬いのか……」

 

 彼らの予想通り、メインの頭――第一頭は硬度が高い。故に、第二頭を破壊する以上の攻撃力がいる。

 

「まあ、とりあえず第二頭の方を見つけられただけでも大手柄だけどな。文字通り、尻尾は掴めたわけだし。……そいつは魔石の魔力に反応してくらいついてきたんだろう?」

「ああ」

「なら、おびき出すのは簡単なはずだ。もう一度、魔石を餌にしてやれば来るだろう。……ウロボロスは基本的に、食欲に忠実なんでな」

「だが、もう一つの頭はどうする? そちらを砕かねば復活するのだろう?」


 ゲイルの疑問も最もだ。けれど、そちらもどうにかする術はあり、


「そこも何とかなる。一か所、精霊道から奴の頭が出てきたのならば、その頭の繋がる体をたどって、もう一つの頭を見つければいいんだ」


 そういうと、カトレアが目を見開いて立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと待て。すると、何じゃ? アクセルは、第二頭から繋がる龍の体を走っていくことを想定しているのか?」

「ああ。首長の龍は結構いるし、似たような戦い方は何度もやってきてるからな。スキルなしでも、それ位は出来るし」

「な、何度も。……マジで言ってるんじゃな……。凄い無茶をやってるのう……」


 カトレアは口をぽかんと開けて、椅子にゆっくり腰を落とした。無茶も何も、確実な方法だと思うのだけれども。


「確かに、それならもう一つの頭がつながっている限り、確定で見つかる、か……」

「そういうことだ」

「――ならば、作戦は決まりだな」


 ゲイルはそう言って、俺の目を見た。


「こちら側に頭が一つ現れた時、それは己らが撃破する。そして――」

「残るもう一つの頭を、俺が走って見つけ出して、倒す。これだな」

「いや、待て二人とも。それでも、討伐のタイミングはどうするのじゃ? 同時に倒さなきゃ、復活するのじゃろ?」


 カトレアはそう言った。確かにその点も重要だ。けれども、


「そこは、ボクに任せてよ! なんたってご主人の相棒なんだから!」

「ええ、妻である私であれば、アクセルの動きが見えなくても合わせることは可能ですから。たとえ次元の離れたところでも、問題ありませんし。だから、第二頭を倒す役割は、私たちに任せてくださいな」

「……己は、アクセルの攻撃を振動や、魔力の波動でつかめる。故に、合わせるのは容易だ。それにもしもタイミングが合わずとも、倒し続けるのは、可能だ」


 バーゼリアとサキ、そしてゲイルがそう言った。


「んで、そうするとオレは親友の懐を定位置として、第一頭を追う際に、サポートをする、だな。もしも落ちそうなときは、ウロボロスの首に鎖でも突き刺して親友を引っ張り上げる位は出来るし」

「はは、そいつは頼もしいな。んじゃあ俺は、なんの心配することなく、ちゃんと第一頭を仕留ればいい、と。……うん、俺たちの作戦は、こんな感じだな、カトレア」


 カトレアにそういうと、彼女は、口を何度かパクパクさせた後、しかし何やら納得したように微笑んだ。


「ふむう……大分計画そのものがぶっ飛んでいるが、勇者たちというのは、そういうコンビネーションも規格外なんじゃな。――ああ、そうじゃ。ワシらには代案が思いつかぬし。あいわかった。その作戦でお願いしたいのじゃ」


 そういったあとで、彼女は、姿勢を正して改めてこちらを見た。


「この作戦によってウロボロスが討伐されることで恩恵を受けるのはワシらじゃ。じゃから改めて、この人間界の精霊都市の住人たるワシから、勇者たちにウロボロスの討伐依頼をさせて貰うのじゃ。――そしてアクセル。精霊道を走り抜けられるのは、現状、お主だけじゃ。――だから、精霊都市の住人として、お主に最も重要な仕事を、頼んでもよいか?」


 精霊都市の住人としての改めての依頼を、真面目な表情でカトレアは言ってきた。

 それに対する返事は、俺の中ではもう決まっていて、


「ああ。任せてくれ」

「……ありがとう。とても助かるのじゃ」


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