13話 チャレンジ
「ふう……大分緊張するのう……」
カトレアは真面目な表情で、十数メートル先に現れた精霊道を見つめながら、思わず両手をぎゅっと握りしめていた。
これまで研究所の職員が何度も何度も失敗してきた精霊界への突入だ。
果たしてうまく行ってくれるのか。表には出さないが、正直、かなりの不安がカトレアの中にあった。
……もう何日も、向こうにいる仲間と連絡が取れてないのじゃ……。
向こうの状況がどうなっているかも掴めていない。
こちらとしては、不安定な精霊道が存在するという事実しか、データがない状態なのだ。
仲間の心配や、状況に対する理解が追い付かない現状が、焦りや不安を生んでいた。
長である手前、常に余裕をもって対応しなければと思っているが、それでもだ。
……そんなときに、アクセルという逸材が来てくれたのは本当に幸いだったのじゃ。
元勇者で、とんでもない速度の運び屋。
そんな存在が教え子と共に来てくれた。
なんという僥倖かと思った。
希望も抱いた。だが、それと同時に
……これで駄目だったらと思うと、怖くて仕方がないのじゃ……。
自分が見た中で一二を争うほどの速度を持った彼でも、向こうに行けなかったら。そう思っただけで冷や汗が止まらない。
そうなったら、再び策を考えるだけ、と理性では思うけれど。
一度希望を抱いてしまったからには、感情的には、どうしても、それだけでは済まなかった。
だからこそ、固唾を飲んで、カトレアはアクセルを見ていた。すると、
「さて、それじゃあ、速度重視で行くか」
彼は普段通り、一歩を踏み出した。
本当に、普段の徒歩のような、気軽な一歩を。
「……え? あ、あの、もっと何か、ダッシュの準備とかは――」
その行為が、あまりに普通過ぎて、そう言おうとした瞬間。
――ドン!
という破裂音が響いた。
「!?」
それは、アクセルが大地を蹴った音。
それが理解できたころには、アクセルはもう光の中に突っ込んでいた。
瞬きするよりもさらに短い時間で、十数メートルを駆けたのだ。
……な、なんじゃあ、の加速は……!
その思いをカトレアが抱くと同時、精霊道の光の道が前方に展開された。
もちろん、人を跳ね飛ばすようなレベルの向かい風も、来る。
普段は職員たちがチャレンジし、そして純粋な力業での進行は不可能だと、思い知らされてきた道が目の前にあった。
だが、目に映る光景は、今までとは大きく異なり、
「――!」
アクセルは、風に振り落とされることもなく、それどころか、身をブラすことなく、突き進んでいた。
「なんだあれ……スピードが、落ちてねえ……!」
「すげえ。あの風の中だぞ……!」
それを見た職員たちは感嘆の声を上げる。
彼らの声が風に乗ってカトレアの耳に入るころには、すでにアクセルの背中は小さくなるほど奥へと行っていた。
そして、彼が光の道を渡り切り、一歩、向こう岸を踏んだ瞬間。
――バッ!
と、光の道は掻き消えた。そして、
「これは……上手くいったのじゃな……!!」
アクセルの姿は、そこにはなくなっていたのだ。
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