12話 突入準備
夜。俺は宿屋に戻って、明日の準備を整えつつ、作戦会議をしていた。
「というわけで、明日の精霊界突入チャレンジが決定したけれど……とりあえず、精霊道に突っ込むのは俺とデイジーで良いな」
宿に戻ってから話し合った結果を改めて言うと、まずサキが吐息と共に首を縦に振った。
「仕方ありませんね。速度重視の仕事となれば、私たちは少し足りませんし」
「うん……。僕も竜の姿になって突っ込めたら付いていけるかもだけど、小回りが利かなくてどこかにすっ飛んで行ったら不味いしね」
精霊道を通るために必要なのは、適度に小回りの利く速さと、強風の中を突っ切れる体だ。だから、俺がこの中だと一番向いていそうだという結果になったのだ。
「あとはデイジーだけど、胸元に隠れるってので大丈夫か?」
「そこひゃ心配しなくてオーケーだぜ親友。それに、精霊の泉についても、修繕に詳しいヤツがいなかったら、それこそ本末転倒だしな」
「ああ、助かるよ。――で、バーゼリアたちも、ゲイルたちと一緒に、魔獣退治するのは任せたぞ」
宿に帰ってくるまでの間、少しカトレアと話をして分かったのだが、精霊道が出現した後も、魔獣はちらほら出現するらしい。
そいつらに突入の邪魔をされても何だという事で、突入ギリギリまで、魔獣退治をする役が必要、という話になったのだ。
「ええ。まあ、アクセルの前に魔獣が立ちふさがろうと難なく倒せるでしょうが――まずは行くことに集中してもらいたいですし」
「そうだね! ご主人の道は、ボクたちが確保するよ!」
こんな感じで、明日の方針は決まった。
なので、あとは明日に備えてゆっくり休もうか、と部屋で茶を飲んでいると、
「アクセル様。入ってもよろしいでしょうか」
扉の方から、ノックと牡丹の声が聞こえた。
「牡丹さん? 大丈夫だぞ」
「ありがとうございます」
声を返すと、扉が開けて牡丹が入ってきた。今回もワゴンと共にだ。
しかし載せてあるのは、お茶などではなくて、
「こちらにあるのが、カトレア様から依頼された、精霊界に持ち込んでほしい物を詰めたコンテナになります」
一抱えほどはある、木製のコンテナが一つ、ワゴンの上に置かれていた。
「おお、ありがとう。でも、なんで牡丹さんが渡してくれるんだ?」
カトレアが精霊界に物を運びたい、という事を俺に伝えたのはついさっきだし。そう思っていたら、
「それはですね、魔術研究所と医療ギルドの両方ともに渡してほしい物品があったからなんです。前々から輸送したいものは打ち合わせていまして、今回は共同でこの箱を用意した、という形になるのですよ」
「ああ、なるほどなあ」
事前に、輸送できそうなチャンスがあったら、用意するという形になっていたのか。
何度も突入を試みているといっていたし、その辺りはしっかり準備してあるのだろうな、と考えていたら、
「どうか、よろしくお願いします。もうしばらく向こうとは連絡が取れていないので。……医療ギルドの支部は精霊界にはありませんが。知り合いも多くいますので」
牡丹は、少し困ったような笑みで告げてきた。
その表情からは心配の感情も伝わってくる。
「なんというか、アクセル様が突入を試みる前に、渡れるかどうかも分からない状態で、プレッシャーを与えるような感じに言ってしまって申し訳ありませんが……」
「いやいや、別にそこはいいさ。俺は出来ることはやるだけだからさ。……まあ、少しでも期待に添えるようにやってみるよ」
そう伝えると、牡丹の笑みが柔らかいものに変わっていき、
「……はい。ありがとうございます」
そんな感じで、突入前夜の時間は過ぎていった。
〇
早朝。
日の光がわずかに差し込む中、俺は草原に立っていた。
場所としては昨日、魔獣たちを蹴散らしたところだ。
そこで俺が手足を軽く振りながら、精霊道の出現を待っていると、先程まで草原に来た研究所職員たちと会話をしていたカトレアが近寄ってきた。
「準備は万端かの、アクセル」
「ああ、ちゃんと、装備はチェックしたし。輸送袋の中身も問題ない。懐のデイジーは――」「――もちろん、問題ないぜ、親友!」
「よしよし。んで昨日、牡丹さんから受け取った、コンテナも入ってるし、万全だよ」
「うむ。良かった。もしも向こうにいる者に渡すときは、魔術研究所と医療ギルドからの物品です、とでも言っておいてくれると助かるのじゃ」
「了解だ」
そんな風に、俺がカトレアと喋っていると、
「所長! 魔獣が出てきました!」
職員らが声を上げた。
見れば、草むらを走る魔獣たちがどんどん近寄ってきていた。
「おうおう。今日も景気良く集まるのう。では総員、予定通り討伐を開始――」
せよ、カトレアが号令を出し終えるのとほぼ同時に、
「フリーズ・レインドロップ!」
「【煉獄の竜息】!」
氷のつららの雨と、横薙ぎの炎が魔獣たちを一掃した。
俺から見て左右に分かれるようにして配置された、バーゼリアとサキが一瞬のうちに、魔獣を倒しつくしたのだ。
「……へ?」
カトレアや職員たちはそのような驚きの声を上げるが、こちらとしては予想通りで、
「はい。終わったよー、ご主人!」
「とりあえず肩慣らしはこんなところですね。突入中に魔獣が出ても、今のように処理するので、安心して行ってきてください」」
「ああ、ありがとな、二人とも」
昨日立てた作戦通り、しっかりと魔獣を払えたようで何よりだ。
「……こ、これが勇者様たちの魔法なのね……」
「昨日は昨日でやばかったけど、今日もすげえ物を見れちまってるな……」
などと、職員たちからは感嘆の声が上がり始めた。そしてカトレアもだいぶ、目を丸くしているようで、
「いやはや、竜王の魔法は言わずもがなじゃし、サキも、魔法大学で見慣れていたと思ったのじゃが、さらにパワーアップしておるのう。アクセルが平然としているのも、それはそれで凄いのじゃが……」
「まあ、俺は俺で見慣れてるからな。……でも、サキは魔法大学の、教え子だったんだろ? サキの魔法については俺より見てるんじゃないか?」
そういうと、カトレアは苦笑した。
「いやまあ、それがな、入学して最初の数か月、ボッチだったあの子を教えたら、あっという間に抜かれてしまった上に、勇者として戦争に行ってしまったのでな。正直、見るたびに成長していて、常に驚かされてるといった方が良いの」
「そうだったのか。その頃から、サキは魔法使いとして凄かったんだなあ」
「わはは、そうじゃな。まあ、アクセルに夢中になってあの時とは性格面でも変わったようじゃが――そういった昔話はまた今度させて貰うとするのじゃ」
「――ああ、話しているうちに、精霊道が出てきたしな」
魔獣が討伐されて数分。
精霊道は、確かに昨日とほぼ同じ位置に出現したのだ。
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