6話 癒しの宿
「着いたぞ、ここだ」
ゲイルと昔話をしながら歩くこと数分。
精霊都市の中央からわずかに離れた場所に、石造りの大きな建物は存在した。
大きな屋敷のような形状をしており、出入り口であろう玄関には、これまた大きな扉が付いていた。
その隣には、建物の名称を示す看板もたっていた。ただ、
「あれー? 医療ギルドって書いてあるよ、ご主人」
そう。看板には旅館という文字は一つもなく。
『医療ギルド本部』との文字だけが刻まれていた。
「ゲイル。ここが本当に宿屋なのか?」
「その通りだ。入ればわかる」
ゲイルはそれだけ言うと、扉に手をかけた。
彼がそう言うのだったらとりあえずは一緒に行くか、と俺も入ると、中にはまず広いロビーが見えた。そして、
「あら? おかえりなさい、ゲイル様」
入った目の前。
客を出迎えるように配置されたカウンターテーブルの奥に、メイド服を着た若い女性がいた。
赤茶色の髪を持った彼女は、ゲイルの姿を見ながらカウンターから出てくると、柔らかな笑みと共に声をかけた。
「今日も魔獣討伐、お疲れさまでした。お怪我はありませんでしたか?」
「ああ。問題ない。心配感謝する」
「いえいえ。医療ギルドとしては、怪我をされてない事が何よりが嬉しいですから」
ふふ、と優し気な声をこぼす彼女は、そのあとで、目をこちらへちらりと向けてきた。
「……それで、ええと、私から切り出すのも何なのですが、そちらの方々は……? 何名かは、私でも見覚えがある、魔王大戦で活躍した方々だと思うのですが……」
「勇者時代の、仲間だ。泊まる所を探しているというので連れてきた」
ゲイルの答えに、メイド服の女性は、まあ、と口を丸くした。
「まあまあ! やはりそうでしたか!! 直ぐにご部屋を用意させていただきます。ようこそ、我が医療ギルドへ、そして自慢の我が宿にいらっしゃいました!!」
そう言ってメイド服の女性――牡丹は、ぺこり、と礼をしてきた。その上で、メイド服の懐から取り出したベルを二回ほど鳴らした。
すると、それを合図としたのか、ロビーの奥で人が動き始めた気配がした。
そして牡丹自身はベルを仕舞ったあと、再び一礼して、
「申し遅れました。私、この宿の支配人にして、医療ギルドの長をしております。【家政婦長】の牡丹・グローリアと申します」
「医療ギルド長……か。なるほど、本当に医療ギルドで宿なんだな、ここ」
実際に建物の職員というか、ギルド長を名乗る人自身から言われてしまえば、納得せざるを得ない。
「はい。ゲイルさんからお話は聞いていませんでしたか?」
「旅館に泊まってるとだけ聞いたから、詳しいところは、全然聞いてないな」
「むう……他の事を話すのに集中してしまった。すまぬ」
ゲイルは申し訳なさそうな顔をするが、それに対して牡丹はにこやかな笑みで首を横に振った。
「ふふ、いいんですよ。ゲイルさんは医療ギルドの所属という訳でもありませんし、お客様なんです。詳しいところは私たちの方でさせて頂くのが当然なのですよ。――そして話の流れで軽く説明させていただきますと、ここは医療ギルドの本部になるのですが、湯治場兼、紹介制の温泉旅館として使えるようになっているのです」
「あー、湯治場、か。それだけ聞くと医療に関係してそうな感じはあるな」
温泉旅館という単語と医療ギルドという単語が微妙につながっていなかったけれども。言われてみると、ちょっとだけ印象が変わる。
「ええ。医療というのは病院だけで行うものではありませんからね。日常の生活習慣なども関係していますし、そういったもの全般を診るためにも、旅館という形態は結構使えるんです。もちろん、医療ギルドが所持する病院も、この街中にありますけどね」
この宿とは、街の中央を挟んだ反対側にあるんです、と牡丹は言う。
……医療ギルドは、結構他の街の病院とかでも見たけれど、病院以外にもいろいろとやっているんだなあ。
と、今までの街との違いをなんとなく思っていると、
「あ……ええと、ここまでお話をさせてもらった上で恐縮なのですが、貴方様の名前をお聞かせいただいても宜しいでしょうか?」
「ん? 俺か?」
「はい。申し訳ありません。勇者様たちの顔と名前は存じているのですが……貴方様もゲイル様の仲間だった方なのですよね。雰囲気でなんとなく凄い方のは分かりますが。すみません……」
「ああ、いやいや、いいんだ」
まだ自分は名乗っていなかったんだし。
申し訳なさそうにする必要なんてない。
だからさっさと話してしまおう、と口を開こうとしたが、その前にゲイルが言葉を発していて、
「この男も、己の仲間で、友で間違いない。――竜騎士の勇者、アクセルだ」
「あ、元、だぞ、ゲイル。今は運び屋をやってるんだ」
ゲイルの紹介に乗っかる形で俺は牡丹に告げた。すると、
「まあ……運び屋でアクセルということは、もしかして――空飛ぶ運び屋アクセル、様ですか!?」
牡丹は目を見開いて、俺の顔をマジマジと見てきた。
「あれ、知っていたのか」
「ええ、もちろん! もちろんですとも! 古龍すら倒してきたという今話題の運び屋様ですからね! 勇者と同じ名前を持っているので、眉唾気味の同一人物説もありましたが……それがまさか、本当だとは知りませんで。驚きましたが……」
牡丹の言葉を聞いて、むう、とゲイルが声を上げた。
「俗世を離れて己が修行している間に、そんな二つ名が世に通っていたのか、アクセル」
「いつの間にかな」
砂塵都市でもそうだったが、結構な範囲に噂話が出回っているらしい。聞いた感じでは、勇者である、という事までは確証に至ってないらしいが。
……別に知られたところでどうという事もないから良いんだけど。
人の話が出回る速度というのは、なかなか早いものだなあ、と思っていると、
「ぐ、グローリア家政婦長」
牡丹の背後から一人のメイド服姿の女性がやってきた。そして、
「れ、連絡いただいたお部屋、準備、完了しました」
「あら、早速ありがとうね」
「い、いえ。勇者様たちのお役に立てて光栄ですから。で、では、私はこれで失礼しますっ!」
メイドは若干興奮したような表情で、牡丹と俺たちに一礼すると、来た道をぱたぱたと戻っていく。それを見送った牡丹は、微笑みの表情をこちらに向け
「では皆様、こちらへどうぞ。お部屋をご用意が出来きましたので、ご案内します」
「到着してすぐに準備してもらって、悪いな」」
「いえいえ、もとよりこの宿は紹介制で、いつでも要人を受け入れられるようにキープしている部屋もありますし。何よりゲイル様のご紹介とあらば……というか、アクセル様達のような勇者の皆さまには戦時中、我々医療ギルド一同、たくさん助けてもらいましたので。これくらい当然ですとも」
そう言って、牡丹は体を半身にして、手でロビーの奥を指し示した。
「それではこれより医療ギルド一同が、感謝を込めて精一杯、アクセル様一行をお持て成しさせて頂きますね」
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そして、『竜騎士運び屋』の原作小説、最新5巻が、今月、3/19に発売します!
明後日ですね。
更に、私が連載している『最強預言者』のコミック2巻も、同時に発売されます!
どちらも面白いですので、ぜひ、お手に取って頂けますと嬉しいです。




