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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第5章

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5話 別方向の出会い

魔術研究所から出た俺たちは、再び精霊都市の大通りに来ていた。

 

「さて、カトレアさんから色々とお勧めの温泉を教えてもらったけれど、まずは宿探しから始めるか」

「了解だよ、ご主人ー」

「一応、この辺りに宿泊場所は集まっているのでいくつか回ってみますか? 温泉付きの宿などもありますし」

「ああ、それもいいかもな」


 別に泊まりたいところがあるわけではないけれど。

 折角だから、そういったこの街特有の設備を持った宿に泊まるのもいいかもしれない。

 

 ……それも旅の醍醐味だしな。

  

 なんてことを思っていると、

 

「……親友。なんか人の動き、おかしいな」


 デイジーがそんなことを言い始めた。

 言われて、デイジーの視線の先を見ると、大通りを歩くたくさんの人々がいた。だが、確かに先ほどとは、どことなく動きに違和感がある。


「うん、何か避けているような動きをしているな」

「親友もそう思うか。向こうに何かあるのか?」

「魔獣が侵入したってわけでもなさそうだが……」


 街中に魔獣が入ってきたのだとしたら、もっと慌ただしい動きになるはずだし。もっと騒ぎになるはずだが、今はざわめきがある程度だ。


 ……なんかのイベントか?

 

 と思っている間に、大通りの人混みが割れ、彼方が見えた。

 

 すると、そこにいたのは、

 

「……」


 頭に二本の角を生やした大柄な男だった。

 それも、顔面と上半身を赤黒い血で塗れた状態の、だ。

 

 異様な雰囲気を持ったまま、無言で大通りの中央に佇んでいた。

 

 そんな姿を見えたからか、俺の近くでもざわめきの声が発生していて、

 

「な、なあ。大丈夫なのかよ、あの鬼族の人。全身血塗れだぜ……?」

「あー、そういやお前、この街にきて日が浅いもんな。あれは、最近の光景としては有り触れてるから、全然問題ないぜ」

「そ、そうなのか? いや、確かに街の皆も、それとなく避けて歩いているだけで、特に気にしてないみたいだが……でも、ほ、本当に大丈夫なのか……?」


 などといった会話が聞こえてきた。

 それを耳にして、俺は隣にいたデイジーとサキに尋ねる。


「精霊都市に血塗れの鬼が出るっていうのは、よくあるイベントなのか……?」


 二人はこの街が初めてという訳ではないらしいし、何か知ってるだろうか。そう思って聞いたのだが、


「さあ。オレがいた時は、そんなイベントはなかったと思うぜ、親友」

「私もそんな話は聞いたことがありませんね。というか、温泉街で血塗れの鬼を出す必要性があまり見当たらないですし」


 デイジーとサキも知らないらしい。

 普通に考えれば彼女たちの言う通りだ。

 そんな催しは無いよなあ、と思いながら俺は再び血塗れの鬼に目をやる。

 

 顔から体まで、色々な箇所が血で汚れていて、中々見づらい。だが、

 

「……ん?」


 ふと気付いたことがある。

 

「……ねえねえ。ご主人。あれって……」


 バーゼリアもそれに気付いたようだ。


「そうだな。多分、俺たちの知ってるやつっぽいな」


 と、俺とバーゼリアが話していると、


「……む……そこにいるのは……」


 血塗れの男はこちらを見た。

 そのままどしどしと歩いてきて、数メートルほどの距離まで近づいてくると、


「……竜騎士アクセル、か?」

 

 低い、しゃがれた声を掛けて来た。

 その声には聞き覚えがあった。昔は良く聞いていたものだ。だから昔を思い出しながら俺は言葉を返す。


「今は竜騎士じゃないけどな。そういう君は、……ゲイルだよな?」

「やっぱり、【拳帝の勇者】だねー。おひさー」


 俺とバーゼリアの言葉を受けた大男――勇者時代の同僚であったゲイルは、その場でうむ、と一度頷き、


「……己を知っている、アクセルだな。……だが、本格的に話す前に、……構えてくれ……いつものだ」


 ゲイルはこちらの目を真っ直ぐ見ながら言ってくる。

 そういえば昔もこんな感じの物静かな喋り方だったな、とかつてを思い返す。そして、当時からやっていた事も。


「いつものって……アレか。いいぞ」


 過去を思い出しながら俺はそう言葉を返した。

 すると、ゲイルは僅かに腰を落とし、


「――ズアッ……!」


 息を吐くと共に、気合いを発した。

 その瞬間、ゲイルの右腕から、魔力でかたどられた拳が発射された。

 それだけではない。

 

 右腕を発端に、透明な分身が抜けるように出てきたのだ。

 拳を真っ直ぐに構えた分身は、そのまま俺の方へ向かってくる。勢いよく、一直線に。

 それに合わせる形で俺も片腕を前に突き出し、

  

 ――バシン!

 

 という音を響かせながら、俺は片手の掌で分身の拳を受け止めた。

 分身の拳が生み出した衝撃で、ぶわっと、俺の周辺に風が舞う。


 けれどそれは直ぐに収まり、そして、風が抜ける頃には分身も消えていた。

 それを見て、そして受け止めた己の掌を見て、俺は、うん、と頷く。

  

「久々に受けたけど、やっぱり早いな、ゲイルの拳は」


 俺は手のひらを見せるように振りながらゲイルに声を飛ばす。

 すると彼も彼で頷いており、


「……この速度を受けきる……となると、騙りや変装ではない……己の知る本物の、アクセルだな」


 と、何だか納得した様な言葉と共に、更にこちらへ歩み寄って来た。

 

「ああ。勿論そうだぞゲイル。というか、俺の名前を使ってる人に、まだこの確かめ方を続けていたのか。相変わらず過ぎて普通に対応したけどさ」


 昔から彼は、俺が本物かどうか確かめるためにこの手法を使っているのだ。


「……無論だ……。君を騙るものは、仁義にもとる……。それに、怪我をさせ過ぎない、ギリギリの加減は、常に守っている……。実際に、拳は、振るっていない……」

「いやまあ、確かに魔力……というよりは、気合による分身の一撃だったけどな。威力も少なめて、速さ重視だったし」

「そうだ。それならば……当たっても、気絶で済む……。己の拳を振るっては、破壊してしまう。それよりはマシだ……」

「そりゃあそうかもしれんが。そもそも、俺の顔、見たことある人ほとんどいないから、顔を見れば分かるだろう?」


 昔は似たような兜を作って、俺の名前を使っている者もいたけれど。今は普通に顔を晒している訳だし。そう言うと、


「…………」


 ゲイルは目線を遠くにやって固まった。

 

「あ、考えてなかったな」

「む……否……そうではない。……君の顔を……己たち勇者以外の人間が、ほとんど見たことはないから、変装の類という線はないとは思ったのだが……念のためだ……。……そも己は、人を顔でなく、技量と筋肉で覚えている……」


 若干苦しい言い訳にも見えるが、後半は恐らく事実だろう。

 

 ……ゲイルはあまり愛想が良いとは言えない事と、顔が厳ついのを自覚してるから、人の顔をじっと見ないようにしてるしな。


 だから、基本的に人の顔を覚えるより、体つき、筋肉、持っているスキルで判断するのだ。そしてそんな彼を知っているのは俺だけではなく、


「相変わらずですねえ、この男は。堅物なのに少し抜けているところとか、昔とおんなじです」

「ああ、この光景は久々に見た気がするぜ」

「ボクたちまで懐かしくなってくるよ」


 俺の近くにいたサキ達も、口々にそんな感想を言っていた。

 そしてゲイルはそれらの声を聞いて、む、と声を上げた。


「……その魔力は、魔術の勇者とカーバンクルと竜王か」

「ホント……アブソルウェントは、私たちの持っている技術や特性でしか覚えてないんですしね」

「……すまぬ魔術の勇者。覚える努力は、しているのだが……」

「ええ、知ってますよ。覚えようとしても先に力の方に目が行く性格だというのは。……まあ、私としてはアクセルの顔と名前を憶えているだけで、良いんですが」

「そういやそうだな。なんで俺だけ顔は覚えてるんだ?」


 前々から気になっていたことだ。

 だから改めて問うと、ゲイルは眉をわずかに下げて、


「う……む。それは、忘れん。あの素早い兜の開閉時間で顔を覚えるのは、目の訓練になったのだから……。訓練に紐づけされれば、流石に、覚える……」


 そんな答えを返してきた。

 

「まあ、一秒も脱いだままでいられなかったからな、あの兜……。最高でもコンマ何秒だったし」

「ボクたちみたいな身体能力が高かったり目のいい人じゃないと、視認すらできなかったからね……」

「うん。オレやサキが頑張って魔法をかけても、バーゼが兜を押さえつけようとしても、一瞬でアクセルの頭に戻ったからな」

「愛するアクセルの顔を目に焼き付ける為に、色々しましたものね。それ自体はいい思い出です」


 皆、若干、苦笑いを浮かべている。

 今となっては過去の話だから、そういう表情で済むということだろう。


「うん……まあ、あの兜については、もう脱げたのだから、置いておくとしよう。俺もあんまり思い出したくないし。それより今はゲイルの話だ。……なんで血まみれに? 君の血……ではないよな」


 聞くと、ゲイルは自分の両手や体を見た後、まず背後を指さした。


「向こうの平原で、魔獣を狩ってきた。ただ、倒しても魔石にならないタイプの大型魔獣だった。故に――」


 ゲイルは直ぐ近くにある街の建物――冒険者ギルドの支部を見た。そこから視線を自らの身体に落とし、


「冒険者ギルドの引き取り所まで担いで運んでいる最中、街を血で汚さないようにしてたら、こうなった。しかし、この風体は、見てくれが良くない。……だから、引き取り所を出たら、掃除をしようと思っていたところに、君達を見た」

「ああ、それで、掃除を後回しにして声を掛けてきた、と」

「うむ……。二度と会えるか分からないから、直行した。……目的通り、再会は出来たので、予定通り、掃除は始める」


 ゲイルはそう言うなり、自らの両掌を地面に向けた状態で、腰元に備えた。そして、


「【転換】(コンバート)……!」


 唱えた。

 瞬間、ゲイルの体が僅かに白く輝く。


 その光は、あっという間に彼の全身を覆い、彼の体や衣服に付いていた赤黒い血に触れた瞬間、


「――」 


 付着していた血液は、赤い光へと変換された。更に、光となった血液たちは、ゲイルの体へと吸収されていく。


「ねえねえ、リズノワール。前から思ってたんだけど、アレは何をしてるの? ボク、未だに拳鬼の勇者の魔法が分かんないんだけど」

「浅学ですね……と言いたい所ですが、あれは東洋系の魔法ですから、貴女が知らないのは無理もありませんね。簡単に言いますと、気功術の一種ですよ。ほかの生命体の血を魔力に変換して、自分の体に取り入れて、回復と魔力補給とするのです。戦争時もやっていたの、見ていたでしょう?」

「へえー。戦争時にも血塗れで、『赤鬼』とかいう二つ名が付いてたのは、なんでだろーって思ってたけど。やっていたのはそれだったんだー」


 そんな風にサキとバーゼリアが話している内に、ゲイルの体から光が消えた。それに加えて、赤黒かった上半身からもすっかり血が消えていた。


「これで、よし……」

「流石。さっきの拳術といい、相変わらずの腕前だな」

「まだまだ修行が足りぬ己だが、褒めてくれて感謝だ、アクセル。……とはいえ、幾カ所か走り回って汗と泥で汚れてはいる。だからこれから汚れと疲れを洗い流しに、風呂に行くつもりだ。このあたりの温泉は、浄化作用もあるから、素晴らしい……」

「おお、温泉か。いいな。俺も入ろうと思ってたんだよ」


 いうと、ゲイルは数秒考えるように目をぱちぱちとした後、


「む…………そういう事なら、君も、来るか……? もう少し話をしたい」

「俺も? 結構広い風呂なのか?」

「己が世話になっている宿が、この近くの温泉旅館ゆえにな。大浴場もあるし、個別の風呂もある。よければ紹介も、するぞ? いい宿だから、己からしてもお勧めだ」

「おー、旅好きなゲイルがそこまで言うなんて、相当なところなんだな」


 勇者時代からそうだったが、修行と称してよく旅に出ていた。各地の街々を泊まり歩いているからか、宿の目利きもかなりのモノだったはずだ。

 その彼が勧めてくれるのだから、間違いはないだろう。その考えは、他の皆も同じらしく、

「拳帝の勇者お勧めかー。どんなところなんだろうねー」

「意外と繊細な目を持つ男ですからね。良い所ではあると思いますよ」

「だよなー。結構楽しみだぜ」

 

 結構乗り気のようだ。だから、 

 

「うん。じゃあ、頼めるかゲイル?」

「了承した。……こっちだ」


 そうして、昔の同僚に出会った俺たちは、久々の再開を楽しみながら、精霊都市への宿へと向かっていく。

いつも応援ありがとうございます!

面白いと思って頂けましたら、下のブクマ、評価など、よろしくお願いします!


そして、『竜騎士運び屋』の原作小説、最新5巻が、今月、3/19に発売します!

あと一週間後くらいですね。


更に、私が連載している『最強預言者』のコミック2巻も、同時に発売されます!

どちらも面白いですので、ぜひ、お手に取って頂けますと嬉しいです。

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