1話 プロローグ
お待たせしました。第5章開始です。
暗闇の中の円卓。
コカクは、一人卓の上で幾つもの巻物を積み上げ、そして中身を眺めていた。
「勇者アクセルの身辺情報は、殆どが隠蔽されているか、世に出て来ていない、か」
調べても情報は出てこない。
不可視の竜騎士とはよく言ったものだ。
業績だけは知られていて、本人に対する情報は見えないのだから。
しかし調べていく中、一つ思い当たった事がある。
それは一つの記録にあったモノ。
降神祭にて、地に降りた神に攻撃を加えようとした人間が、下位の職業に転職することになった、という経緯が掛かれたものだ。
「もしも、だ。竜騎士アクセルがこのケースに当てはまるとしたら、あやつは――神に、手を出したのか……。それも、降神祭では無い時期の、神域にいる神に……」
あくまで可能性だ。
推測でしかない。
そうは分かっているが、コカクの胸は躍った。
「ああ、会いたい……。会ってみたいぞ、竜騎士アクセル。あやつが、我らが宿願の一部を成し遂げたというのであれば。あやつが、我らが本懐を遂げるための『経験』を持つ者であるならば……!」
そしてコカクは立ち上がる。
「我々も神に挑むために。その顔、拝見させてもらいに出向こうぞ、竜騎士アクセルよ……」
●
とある建物の一室は今、暗闇に包まれていた。
窓のない部屋の中、ぼんやりと明かりに照らされた玉座がある。
そこに座るのは、黒い靄で出来た仮面で顔を隠した人のような姿だ。
「今日の報告は以上だな?」
玉座に座る者がそんな声を聞かせたのは、目の前で膝を付く、浅黒い肌をした耳の長い青年だ。
そして青年は、玉座の者の声に即座に頷いた。
「はい。コカク様。先に話したのが、かの古代種についても、そして人間たちの動きについても。現状で得られた全てになります」
青年の返しに、コカクと呼ばれた玉座の者はふむ、と頷くと、
「よろしい。では、これにて解散だ。下がっていいぞ」
「了解しました。このあとは食事の準備でも――」
「――ああ。それは必要ない。私も用事があるのでな」
そういって、玉座を立った。
そして、己の顔に仮面のように張り付いた黒い靄に触れた。
瞬間、仮面の一部が黒く輝き、コカクの手に一着の服が生まれた。羽根のような物を何重にも組み合わせた外套だ。
それを羽織りながらコカクは青年に向けて言葉を放つ。
「今宵は、ここで失礼させて貰うよ」
「その服を着られるという事は、コカク様。これから、外に出られるのですね」
「ああ。ちょっとした散歩だ。都市の方へな」
「……では私と部下もご一緒に――」
青年の言葉が終わるよりも早く、コカクは首を横に振った。
「必要ない。付いてきたところで、やる事はないだろう」
「しかし、護衛は……」
「それも、だ。お前たちの今の力では、私の護衛は出来ないだろう?」
言われ、青年は何かを言おうとして、しかし首を縦に振った。
「……そうですね。コカク様より力を扱えておらず、未だにサポートを務める事が精々でしかない我々では、不可能です」
「ああ、感情に惑わされず冷静な分析が出来ていているのは良い事だ。偉いぞ。……あの奔放で、感情でしか動かない、傲慢な神のような振る舞いをするよりも何倍も良い」
「有り難いお言葉です、コカク様。全てはこちらの力が足りないのが原因だというのに……」
「なに卑下する事はない。いずれキミたちも強くなる。それに元より今回は、都市へ行って、大まかな情報を集めてくるのが目的だ」
「情報……例の勇者と、神々について、ですね」
「それだけ、というわけではないがな。何にせよ、今回はむしろ大勢で行く方が、動きづらい。故に私だけで良いのだよ」
コカクの言葉に、青年は静かに頷いた。
「……かしこまりました。それでは、お戻りになるのをお待ちしております。私は私で、予定通り、情報収集を続けていきますので」
「ああ。任せたよ。……では、行ってくる」
言いながら、外套を羽織ったコカクは、青年に背を向ける。そして、
「……彼が今どこにいるか、正確には分からぬが、折角の機会だ。一度会えたら嬉しいのだけどもな。……ああ、なんにせよ、楽しみながら行くとするか」
微笑むような、僅かに弾む声を発した後、一瞬のうちに闇へと身を溶かすように、その姿を消したのだった。
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とても面白いので、ぜひ、お手に取って頂ければ嬉しいです。




