19話 エピローグ
エニアドに青空が戻ってから幾日か経った。
デイジーと共に蛇神から貰った陽鱗を使っての槍の修理はそれなりに時間が掛かったものの、どうにか上手く行った。
そして、修理を終えた後、俺たちは久方ぶりの青空のもとで開かれた戦勝の宴に参加した。
宴では、砂の混じらぬ爽やかな風の中で、酒と食事が振る舞われていた。
それからまたしばらく晴天の下、活気あふれる街並みを楽しんだりした。
そして今、俺は、デイジーが持つ拠点の鍵を閉めていた。
「これでいいか?」
「ああ、バッチリだ。これで基本的には中に入れないし……管理は考古学ギルドに任せているし。な、ミカエラ」
デイジーが声を放った先には、ミカエラがいた。
「はい。ギルドとして責任をもって管理させて貰いますので。デイジーさんは、アクセルさん達との旅を、楽しんできて頂ければと」
「おう、ありがとうよ、ミカエラ」
「こちらこそありがとうございます。そして、アクセルさんも。この度は、救助から魔人討伐まで、何から何まで感謝しか御座いません」
ぺこり、とミカエラは礼をしながら言ってくる。
その後で、彼女は苦笑した。
「エドガーも見送りに来ると言っていたのですが、エドガーは無理し過ぎたので入院していまして」
「まあ、砂漠から帰った次の日に魔人戦で消耗してたもんなあ」
入院くらいはするだろう。
「あ、それと蛇神様からは、『図体の都合上、見送りは控えさせていただきますが、これを』と、贈り物を預かってきました」
「贈り物?」
ミカエラが手渡してきたのは小さな木箱だ。
開いてみると、中には小石ほどの大きさをした青色の鱗を、幾つも束ねたブレスレットが置かれていた。
「これは、鱗のアクセサリか?」
「はい。なんでも『私からの信頼の証です。他の土地神に会いたい時、関係者にこれを見せて下さい。話くらいは出来るようになりますので』とのことでした」
「ギルドの認印のようなものか」
「そうですね。土地神はギルドとはまた違った勢力と、特有コミュニティを持っている事が多いので。上手く活用して頂ければ、と」
「ああ、使う機会があったら、そうさせて貰うよ」
俺は懐に鱗のアクセサリをしまう。
そうしている間に、ミカエラはデイジーに声を掛けていた。
「次に行かれるのは、精霊都市、でしたっけ?」
「ああ。そこにある『精霊と妖精の泉』で、槍の修復の最終作業に入るんだ。金属部分の加工は済んだから、八割方完成してるし。あとは加護関係をどうにかすれば、完了って感じでな」
デイジーの言葉に、ああ、とミカエラは頷く。
「精霊都市……あそこは良い温泉が湧くんですよね。この都市からもそう遠くはないですし。一息吐いたら私も赴かせて頂きましょうかね。数か月間に渡る調査もひと段落した事ですし」
「ああ、別の街に遊びに行くのはいいんじゃないか。俺も、今、そうしているわけだしな」
星の都からここまで、随分な距離を旅して来たけれど、初体験な物は沢山あるし、運び屋としての仕事もまだまだ、と行った感じだし。
やる事は尽きない。
「なるほど。……アクセルさん、旅は楽しいですか?」
ミカエラはそんな問いかけをしてくるが、俺としての答えは決まっていて、
「ああ、凄く楽しいよ」
「ふふ、それは良い事です」
微笑と共に答えると、彼女も微笑んだ。
そうして、ミカエラとやりとりしていると、
「ご主人ー。リズノワールとの買い出し、終わったよー!」
バーゼリアとサキがこちらへ来た。
二人の手には、エニアドの食物やら、特産の果実やらが入った袋が抱えられている。
ただ、その袋の上には僅かに布が見えていた。
その布は、どこかで見覚えがあるというか、
「……二人とも、また、服を買ってきたのか。踊り子の服を……しかも、布の位置的に別ジャンルの」
「うん! なんだか動きやすそうだったからね!」
「アクセルに見せた時、良い感じに誘惑できそうだったから、ええ、買いますとも」
なんだか二人とも息があって来た気がする。
まあ、悪い事じゃないので、良いのだけれども。
「まあ、ともあれ、俺たちは行くよ。――じゃあ、またな、ミカエラさん」
「はい。またお会いしましょう」
そして、俺たちはエニアドを後にする。
青空の下、暖かな風が吹くようになった街を。
これにて第4章は終了。次回からは5章に入ります。
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