エリーザ、死にそう
気絶したドリセアとグレンを、やっとの事で炎上する冒険者ギルドから運び出したエイヴァラルのメンバーは小さな悲鳴を聞いた。
「今、女の子の悲鳴が!」
「なんだと、まだ中に人がいるってのかっ」
「でも、こんな火じゃ、もう助けになんていけません!」
いや、と剣士セシルが首を振る。
見捨てるのか? 少女一人助けられず、英雄だと? 笑わせる。
脳裏に蘇るのは、師匠と呼んだ人の顔。既に亡くなってしまったが、彼のおかげで、絶望からの希望の光が、どれだけ眩いものかを知った。
全てを諦めたその時に、差し伸べてくれた手の温かさ。彼の強い目。背負いあげてくれた背中の広さ。何もかも、忘れることなんて出来ない。
「アルダ、少女がどの方向に居るか、聞き分けられるか?」
「出来るけど、あんた、まさかっ」
「無茶です!」
「リュウ、中にはスライムだらけだと思うが、突破出来るだけの体力は残っているか?」
「……愚問。拙者が、スライム如きに遅れを取るとでも?」
「なら安心だ。メリア、君は――」
「無理です!!」
治癒術師の少女は叫んだ。
ここまで燃え広がった所に飛び込むなんて無謀だ。
「私は、今まで沢山の人を治してきたから知ってます! そうやって助けようとして、その人も巻き込まれて怪我をすることがとても多いんです! 怪我をするだけならまだしも、―――死んじゃったら、治せないんですよ!」
涙を流して、仲間を止める。メリアにとって、エイヴァラルは人生の全てであり、仲間は家族、一人だって失えない。
そっと、セシルが頬の涙を拭う。
幼馴染である二人は、このパーティーの中でも最も分かりあえる仲だと言ってもいい。
「いいか? 俺たちがやらなかったら、誰がやるんだ?」
「それは……」
残酷な問いだった。見捨てる、という選択肢を克明に浮かび上がらせる。
「この街で一番強いのは、俺たちだ。俺たちがやらないと、あの子が死ぬ」
「私にとって、一番大切なのはエイヴァラルのメンバーです」
「女の子一人助けられないようなら、俺はエイヴァラルなんていらないと思う」
「!!」
解散するか、少女を助けるか。選べ、と言われたも同然だった。
「酷いですね、セシル」
「それがウチらのリーダーって奴じゃん」
「しかし、それでこそ我らのリーダーに相応しい」
セシルは、決意に溢れた胸が、更に別の感情で満たされるのを感じた。
「―――行くぞ!!」
他のパーティーに水魔法や氷魔法で支援してもらい、エイヴァラルは冒険者ギルドに突入した。
ギルドの内部は煙が立ち込め、視界が悪い。呼吸を満足にすることさえままならない。
耳の良いエルフであるアルダの聴覚を頼りに、少女の行方を探す。
まだどこかで助けを求める声が聞こえる。叫ぶ余裕はあるらしい。少女が生きているうちに救わなければ。
その時、すぐ傍の分厚い煙の奥から、細い叫び声がセシルの耳に届いた。
「――けて、誰か! ゴホッ、ケホッ、誰か助けて!」
エリーザは、絶体絶命、と言っていい状態だった。
煙を吸い込んで喉は痛いわ、空気は熱いわ、突然変異したスライムが襲い掛かって来るわ、もう散々である。
「……あーあ、嫌になっちゃうわ」
自分一人だとこの様か。一人じゃ、こんな簡単なことも出来ないのか。
ヴィレジーは、自分の仕事をやるように言いつけておいたのだ。こんな所で呼び戻すわけにはいかない。
失敗だらけ。そう考えると、目頭が少し熱くなる。喉の奥も熱いのは、これは煙を吸い込んだせいか。
周囲の火の勢いが強いため、キングスライムはこちらには気付いていない。キングスライムになったとはいえ、やはり火を嫌うらしい。エリーザがキングスライムから逃げるためには、わざと火の強い方へ逃げるという自殺行為をしなければならなかった。
時折、助けを呼ぼうと叫んだりしているが、そろそろ喉が限界だ。
ズルリ、ズルリ、と嫌な音が近付いているのが聞こえる。さっさと火で焼かれてしまえ、と思うが、レベル100をとうに超えたキングスライムにとって、この程度の炎は痛くも痒くもないのだろう。
余ったスライムを召喚し、火を防ぐ壁を作り、その陰に縮こまって隠れた。
「誰でも良いから、助けてよぉ……」
半泣きで呟いた、その時だった。




