第7話 赤毛の少女
「パーティーに入れてください!」
冒険者ギルドに若い少年の声が響く。
しかし、それを本気ととらえるものはいない。
「どうした坊主、迷子か?」
「パパとママはどうしたんだよ」
「「ギャハハハ」」
バカにされようが構うものか。
だが、ランク1の子供など足手まといがいいとこだ。
そこから1時間、2時間と声をかけるが、少年をパーティーに入れるものは現れなかった。
「はぁ…」
結局は徒労に終わった仲間探し。
依頼を受けなければ生きることすらできない。
ここに用はない。
そう思い、ギルドのドアを開け、帰路につこうと考えた少年だが。
「ん?」
ふと、灰色の布が目に入る。
小さく何かを覆っている。その布は、かすかに動いている。
少年の腰ほどの高さしかないが、得体のしれない物体に触るわけがない。
少年がその場を離れようとすると、
グゥー
音だ。
おそらく、腹の。
意を決して「ソレ」に話しかける。
「あのぉ」
ビクンッ
布が大きく揺れる。
「もしかして…おなかすいてます?」
布がうなずく。
傍から見たら自分が変人だ。
僕はなけなしの金で串焼きを2本買う。
脂滴る香ばしい香りだ。
決して手持ちは多くないがこれも人助けだ。
布の前にそれを差し出すと、隙間から手が伸びてくる。
ボロボロの腕だ。
泥にまみれ、ところどころに血がついている。
そこから数分。
布の中から発せられる咀嚼音がとまると、「ソレ」が立ち上がる。
「…ありがとう」
かすれた声だ。
ただ、とても元気とは言えない様子だ。
「この先に川があります。そこでいったん汚れを落としましょう」
少年は布をかぶった「ソレ」を川へと案内する。
「…あっち向いてて」
本当なら今にでも質問をしたいが、「ソレ」が言うなら仕方ない。
僕は近くの木にもたれ座り、「ソレ」の気の済むまで待つ。
「(っは!そういえば何か飲み物も渡した方がよかった?!)」
そう思った瞬間、背後からゴクッ、ゴクッと水を飲む音が聞こえる。
「(…その心配はなさそうか)」
それから十分ほどが経ち、呼びかけられる。
「もういいわよ」
そこには、先ほどのローブを腰に巻いた赤い髪の少女がいた。
「ソレ」は、いや、彼女は女だった
「食べ物の件、ありがとう」
僕は驚きを押し殺し、彼女の礼に返答する。
「いえいえ、あれぐらい当然ですよ」
「うん…でも、ほんと…に。たっ…助かったわ」
声が震えている。
恐る恐る彼女の顔を見ると。
「えっ?!」
彼女は泣いていた。
強がっているが、流れる涙が何よりの証拠だ。
「どうしたんですか?!」
彼女を近くの切り株に座らせ、話を聞く。
「私ね、おとといまで冒険者だったの」
だった?
だったという言葉が引っかかる。
「4人パーティーでね。私が『守護騎士』で仲間を守る役割だったわ」
「私は昔から頑丈だからさ、いつも最前線」
「痛いと思った時もあったわ。だけど、それが私の役割だった」
「でもね…」
そこで彼女は再び涙を流す。
「えっ、大丈夫?!」
「平気よ!!」
そういって彼女は涙をぬぐう。
「それでね、私たちは巨大蜘蛛の討伐を受けたの」
巨大蜘蛛。
体長が馬ほどある巨大な蜘蛛型の怪物である。
優れた冒険者でも単独での討伐は困難とされている。
「最初は順調だったわ」
「でも、途中から怪物たちの様子がおかしくなって…」
「私たちは徐々に押され始めたわ」
「だから私はみんなを守ったの」
「そうすれば…そうすればみんなが倒してくれるって信じてたから…」
そこから先、彼女は何も言わなかった。
その仲間がどうなったかはわからない。
死んだか逃げたか。
どちらにせよ、彼女がこんな風になっているのだ。
まともな結果にはなっていないだろう。
「しんみりした話で悪かったわね」
「そうだ、何か食べ物のお礼をしたいのだけど…」
「あいにく今手持ちがないの。近いうちに必ず返すから少し待ってもらっていいかしら?」
彼女は申し訳なさそうに言う。
しかし、彼女のその後はどうなる?
仲間も消え、話を聞く限り金もない。
そうでなければあんな路上で腹を空かせることもないだろう。
自分に人を助ける余裕などない。
ここで見捨てるという選択肢もある。
見捨てる?
否。
少年にそんな考えはもとよりない。
そもそも見返りを求めて助けたわけでもない。
「お金なんて気にしないでください」
「でもどうしてもというなら」
「僕とパーティーを組みませんか?」
僕は、初めて自分の望みを口にした気がする。




