第5話 少しの勇気と仲間
少年は宝箱を開ける。
――その瞬間。
再び部屋全体が揺れ始めた。
ゴーレムが起動したのだ。
少年は体勢を崩しながらも、必死に宝箱の中へ手を伸ばす。
そして見つけた大剣を掴み取った。
息を切らしながら入口へ向かって走る。
少年「早く!! 受け取ってください!!」
大剣使い「おう。でかしたな、少年」
少年は瓦礫の隙間から剣を差し出す。
少年「あなたなら瓦礫を壊せます!!」
少年「早く!!」
大剣使い「ああ。俺ならできるだろうな」
大剣使い「ただよ」
大剣使いは剣を受け取りながら笑う。
大剣使い「そんなので刃こぼれしたらもったいないだろ?」
大剣使い「お前はゴーレムと仲良くやってろよ」
女神官「なっ……!?」
女神官「置いていくんですか!?」
大剣使い「ああ、そうだ」
大剣使い「せいぜいそいつの最期でも見守ってやれ」
そう言い残し、大剣使いは笑いながら去っていった。
少年は理解した。
見捨てられたのだと。
怒りが込み上げる。
だが今はそんな感情に意味はない。
武器もない。
防具もない。
ゴーレムと一対一。
生き残る術すら見当たらない。
ドスン……
ドスン……
巨大な足音が近づく。
振り下ろされた拳を、少年は紙一重で回避した。
無様でもいい。
惨めでもいい。
今は生きることだけを考えろ。
少年「考えろ……考えろ!!」
幸い、足の速さだけならこちらが上だ。
十数秒。
それだけの時間は稼げる。
少年「この部屋に落ちていた剣が宝箱の中に入っていた……」
少年「確かに宝箱は軽かった……」
少年「だったらまだ……!」
少年「諦めるには早い!!」
少年は再び宝箱へ駆け寄る。
中身を漁る。
だが武器になりそうなものは見当たらない。
あるのは、
古びた革の手袋。
そして、
ボロボロになった手帳。
それだけだった。
少年「そんな……」
ここが終わりなのか。
父を失い。
母を失い。
必死に生きてきたのに。
こんな場所で終わるのか。
だがもう力がない。
ゴーレムを止める力も。
瓦礫を壊す力も。
この場を切り抜ける力すら。
ドスン……
ドスン……
終わりが近づいてくる。
その時だった。
女神官「お願い……届いて!!」
女神官「天におります至高神よ! どうか彼の者に裁きの光を!!」
女神官「『聖浄光』《ホーリーライト》!!」
轟音が響く。
少年は反射的に振り返った。
何度も聞いた詠唱。
だが、あの奇跡はゴーレムには効かない。
それでも。
彼女は自分を助けようとしてくれた。
その事実だけで十分だった。
女神官「こっちです!!」
声のした方を見る。
そこには女神官の顔が見えた。
少年「……え?」
つい先ほどまで剣一本が通る程度しかなかった隙間。
だが今は違う。
瓦礫が吹き飛び、人一人がギリギリ通れそうな穴ができていた。
少年「そうか……!」
少年「穴を……!」
女神官が最後の奇跡で瓦礫を破壊したのだ。
少年「うおおおおおお!!!」
全力で走る。
後ろからは絶え間なく足音が迫る。
少年「手間取ったら終わりだ……!」
少年「でも……!」
少年「やるしかない!!」
助走をつける。
そして飛んだ。
小柄な体が幸いした。
穴へ飛び込み、そのまま瓦礫の向こうへ転がり出る。
直後。
背後を巨大な拳が叩きつけた。
あと一瞬遅ければ死んでいた。
女神官「よかった……」
女神官「よかったです……!」
彼女は涙を流していた。
少年「助けてくれたんですね」
女神官「わからない……」
女神官「でも……」
女神官「あなたが生きていてくれて、本当によかった!!」
そう言って彼女は少年へ抱きついた。
体は傷だらけだった。
疲労で立っているのも辛い。
それなのに。
不思議と力が湧いてくる。
ギルドへ戻る道中。
不思議なことに怪物とは遭遇しなかった。
だが道端には怪物の死体がいくつも転がっていた。
きっと大剣使いが切り捨てたのだろう。
ギルド
女神官「とりあえず……お疲れさまです」
少年「うん」
少年「お疲れさま」
結局、報酬は受け取れなかった。
受付に尋ねても、
すでに代表者へ渡したと言われた。
仲間の命より金。
あの男はそういう人間だった。
だが今はいい。
生きて帰れた。
それだけで十分だった。




