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捨て駒の罠師  作者: ポコナムチン


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第2話 アマチュア冒険者

「よし。じゃあお前は今日からここで寝泊まりしろ」


「はい。ありがとうございます!」


少年は冒険者たちと共に、冒険者ギルドの宿へ泊まることになった。


もちろん金など持っていない。

宿代は借金という形で立て替えてもらっている。


「明日はギルドで冒険者登録をするぞ」

「寝坊するなよ?」


そう言うと、大剣使いは部屋を出て行った。

残された少年は一人、簡素な部屋の中に座り込む。


昨日まで家族と暮らしていた。

それなのに今は一人だ。

これからやっていけるのだろうか。




否。




やれるかどうかではない。


やるしかないのだ。


少年には選択肢など存在しない。


死ぬか。

生きるか。


残された道はその二つだけだった。


「それにしても優しい人たちで良かったぁ……」


安堵と疲労。

その両方に包まれながら、少年は泥のように眠った。


ーーーーー


翌日、少年は冒険者ギルドで説明を受けていた。


「おめでとうございます!」

「これであなたも冒険者です」


ギルドの受付嬢から形だけの祝いを受ける。


「冒険者にはランクがあり、一級から六級までの六段階となっています」

「依頼の達成や、ギルドからの緊急招集への参加によってランクが上がります」

「依頼は自分の実力とランクに応じてお選びください」


説明が終わると同時に、大剣使いが叫ぶ


「よし。早速行くか!」


そう言って大剣使いは、すでに手に取っていた依頼書を受付へ差し出した。


「えっ!?」

「仮にも初心者冒険者が同行する依頼とは思えないのですが……」


受付嬢はたじろぐ。


依頼書にはこう書かれていた。


『洞窟内に大量発生したスライム討伐及び原因調査 推奨ランク三級』


「大丈夫だって」

「俺たちなら子供一人くらい守れるさ」


「……そうですか」

「ではお気をつけて。いってらっしゃいませ」


依頼地へ向かう馬車の中。


「あの……僕は今回何をすれば?」


「後で説明してやるよ」


「防具とか装備は……?」


「そんなもんなくても大丈夫だって!」


そうは言われても初めての依頼だ。

少年の胸には小さな不安があった。


「でも……」


「大丈夫だって」


その瞬間。

背筋が凍った。


大剣使いから向けられたのは紛れもない殺気だった。


「……はい」


「分かればよろしい」


「そろそろ着きますよ」


女神官の一声。

そこは、一見すると普通の鉱山だった。


レール。

トロッコ。

岩壁。


ここでどのような仕事が行われていたのかが一目で分かる。


「じゃあ俺が先頭」

「少年が真ん中」

「お前が後ろな」


もっとも安全なのは中央だ。

少年は少しだけ安心した。


それと同時に自分にできることは何か。

何か役に立てることはないか。

そんなことを考えていた。


「じゃあ少年。これを持ってろ」


そう言って渡されたのはランタンだった。


「前を照らしてくれ」


ついに役割が与えられた。

これなら自分にもできる。

そう思った。


「ついでに俺の荷物とあいつの荷物も持て」


「いえ、私の分は――」


「いいから渡せ」


「ひっ……はい……」


少年は荷物を受け取った。


重い。


まるで石でも詰まっているかのようだった。

十四歳の少年が運ぶには重すぎる。


「やっぱり代わります!」


「おい」

「俺の言うことに異議があるのか?」


「ですが……」


「できるよな?」


「でき……ます……」


少年はそう答えるしかなかった。


二人の様子がおかしいことは分かる。

だが今の自分に何かを言う勇気はない。


「おい少年」

「灯りが下がってるぞ」


「はい! すいません!」


荷物の重さが肩へ食い込む。

ランタンを持つ手は震える。


その度に大剣使いは苛立った声を上げる。


「こんなこともできないのか?」


「すいません……」


「くだらない真似したら置いていくからな」


「……すいません」


険悪な空気のまま、一行は洞窟を進む。


すると――


「人ですよ!」


ランタンの灯りの先。

岩陰から人の足が見えていた。


上半身は見えない。

だが間違いなく人間だった。


「大丈夫ですか……?」


「あっ……」


少年の口から声が漏れる。


「……やはり遅かったですね」


女神官があきらめたように言う。


「スライムだらけの洞窟で倒れてるんだぞ」

「生きてるわけねぇだろ」


シワだらけの作業着は、その人物が最期まで必死に抵抗したことを物語っていた。


上半身はスライムによって溶かされ、骨だけが残っている。


少年は思わず目を逸らした。


女神官は祈りを捧げる。

名前も知らないその遺体へ。


「おいおい。こんなことで落ち込んでんじゃねえ」

「お前がああならないようにしてやるんだからな」


その言葉の意味がよく分からなかった。


自分がああなる?

考える間もなく、大剣使いが言った。


「よし」

「少年。ランタンをあいつに渡せ」

「今からお前が先頭だ」


少年は言葉を失った。


初心者が先頭?

武器も防具もないのに?


「それじゃ彼が!!」


「いいんだよそれで!!

「もし捕まったら俺が引き剥がしてやるからよ」


なるほど。

この人は自分を囮にするつもりなんだ。


「分かりました」

「僕が先頭に行きます」


どう考えても危険だ。

先ほどまでの位置と違い、一歩踏み出すごとに死の匂いがする。


「(……少し湿っぽくなってきた?)」


そう思った次の瞬間。

左手に何かがまとわりつく感触があった。



スライムだ。


「熱っ!!」

「早く!! 早く切ってください!!」


しかし、大剣使いは動かない。


スライムは消化液で少年の腕を溶かしていく。

肘から先が飲み込まれていく。


激痛。

呼吸ができない。

痛みで地面を転げ回る。


だめだ。


こいつは――


自分を見捨てるんだ。


「天におります至高神よ!」

「どうか彼の者に裁きの光を!」

「『聖浄光』《ホーリーライト》!!」


洞窟内が一瞬だけ昼間のように輝く。


次の瞬間。


「あっ……あああああああああ!!!」


左腕に激痛が走った。


火傷だ。

先ほどの光がスライムごと腕を焼いたのだ。


だが、スライムはいなくなっていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「偉大にして寛大なる水の女神様!」

「どうか彼の者の傷を癒し、再び地を駆ける力をお恵みください!」

『大奇跡』(グレート・ヒーリング)!!」


再び光が溢れる。

すると大火傷を負った腕が、まるで何事もなかったかのように元へ戻っていった。


「ごめんなさい……」

「でも、こうするしか思いつかなくて……」


「何してんだお前!!」


パシンッ!!


「きゃっ!」


乾いた音が洞窟に響いた。


大剣使いが女神官の頬を叩いたのだ。


「なんで俺の許可なく奇跡なんか使ってんだ!!」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「ごめんじゃねえだろ!!」


「待ってください!」

「全部僕のせいです!」

「だから彼女は許してください!!」


自分が捕まったせいだ。

だから彼女は奇跡を使った。


そして今、殴られている。


「……チッ」

「次はねぇぞ」


そう言い捨てると再び歩き出した。


「……大丈夫ですか?」


「ごめんなさい……」


「大丈夫です」

「彼も……たぶん許してくれてます」


「本当にごめんなさい…」

「腕は大丈夫ですか?」


「はい!」

「見ての通り、ばっちりです!」


少年は左腕をぐるりと回してみせた。

袖こそ焼け落ちていたが、腕は元通りだった。


死ぬよりはずっとましだ。


「いつもこんなことを?」


「……はい」

「いつもは私が先頭で敵の注意を引き付けています」


「えっ……」


「あなたが来る前は、もう一人いたんです」

「でも、その人も囮にされて……」

「死にました」


「……そうですか」


「私は助けませんでした」

「怖かったんです」

「あの人が……」


「じゃあ、なんで僕は……?」


「分かりません」

「ただ……あなたみたいな子供が死ぬのを見たくなかっただけかもしれません」


女神官もまた被害者なのだ。

少年はそう思った。


何か彼女を慰める言葉を探した。


しかし。


「おい!」

「何してる!」

「お前が先頭だろ!!」


その一言によって、現実へ引き戻される。

少年は再び囮として歩き始めた。


それから何度もスライムに襲われた。

その度に大剣使いが助けてくれる。


だが剣はわざと自分の体にも当たるように振るわれた。


重い荷物。

傷だらけの体。

気が付けば、あの日と同じように全身がぼろぼろになっていた。


「よし」

「こんなもんだろ」

「帰るぞ」


結局大量発生の原因は分からなかった。


だがスライムは全滅したらしい。

こうして依頼は終了した。



ーーーーー



「よし。報酬を分けるぞ」


少年へ渡されたのは銀貨一枚と銅貨四枚。


「初日の飯代と宿代は引いといたぞ」


そう言い残し、大剣使いは酒場へ消えていった。


これでは宿に泊まることもできない。

明日の食事すら怪しい。


少年は重い足取りでギルドを出ようとした。


「待って!」


女神官が呼び止める。


「せめて……せめて傷の手当てだけでも」


そう言って彼女は『小奇跡』を使った。


疲労は取れない。

だが切り傷や打撲は綺麗に消えていく。


それだけでも十分ありがたかった。


「ありがとうございます」

「それじゃあ僕は……」


「食事だけでも出させて!!」


二人は小さな食堂へ入った。


決して豪華とは言えない食事。

だが今の少年には十分すぎるご馳走だった。


「その……ありがとうございます」


「いいのいいの」

「それに腕のこともあるしね」


「お礼を言うのは僕の方ですよ!」


そうして二人は会話を続ける。


話の途中。

少年はふと疑問を口にした。


「あの人とはいつも冒険を?」


「はい」

「……あの人の機嫌次第ですが」


「……あまり良い関係には見えませんね」


「私があの人とパーティーを組んでいるのは、信頼とか、そういう理由ではないんです」

「ただ……」

「ただ怖いんです」


「なら、どうして逃げないんですか?」


「……言えません」


「そうですか…」

「なら、深くは聞きません」


彼女には何か事情がある。

だが、今は聞ける空気ではなかった。


重い空気のまま食事を終え、宿へ戻る。


なんだか体が重い。

つい数時間前まで死にかけていたのだ。


明日もこんな日々が続くのだろうか。

そんなことを考えながら、少年は静かに眠りへ落ちていった。

修正→セリフの前のキャラの名称を削除しました。


その他演出や言い回しを変更しました。

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