第十二話 「ビッグバン・オペラ 金星の戦い」
第十二話
ビッグバン・オペラ
金星の戦い
その後、4年間に渡り戦争は続いた。
2年経過した頃には勝敗は決したように誰しもがが感じていたが、地球軍は月の狐の活躍により、予想をはるかに上回るほどに木星土星連合の手を焼かせた。しかし、その必死の抵抗も終わろうとしていた。
金星では、立て篭もった地球軍が最後の悪あがきをしているところだった。
木星側が開発した有機体巨大人型ロボット「ティターン」が新たな戦争の形態を示し、地球軍も合わせて残りの資源と技術を結集し、金星は、遥か遠い昔に地球で流行っていた古典SFアニメさながらの巨大ロボットひしめく戦場だった。
このティターンの特徴は、それが文字通り人から型をとっているということである。実際のところ、これは人間を培養し、それを巨大化させ、脳を残し、それ以外の肉体を都合よく機械化したと言う代物だった。倫理的な問題もあったが、それ以上に戦争において有用だった。
まず、ティターンは人間をベースにしていることで、魂を有している。つまり、ほぼハック不可能なのである。
人間には魂魄があり、魂魄はハックできない。そして人類も、魂魄を利用し、個人のセキュリティを厳重にすることに合意し、技術を発展させてきたことで、兵器やシステムは乗っ取れるが、魂魄の性質を利用したソウル・プロテクトシステムはハック不能であったし、ティターンの指揮下に入った戦艦群も同様あらゆるハックから守られた。
それを逆手に取り、人権や人件費の問題を倫理を無視することで、クリアし開発されたのが、人工の巨人兵器ティターンであった。
ネックとしては、必ずティターン自体に選ばれた人間パイロットが搭乗しなければいけないこと。強制的に操縦していると言うよりは、ティターンに言うことを聞かせられる相性の良いパイロットがお願いする形で動かせねばならないからだった。
このようにティターンを動かすには適正のあるパイロットを必須であったが、見返りはそれ以上に大きかった。このロボットは強力なハッキング能力を持った自立した戦争兵器であり、戦闘機でありながら情報戦の基地にもなり、空母旗艦に近い役目をこなした。
戦争初期では土星製ティターンが敵戦艦を多数ハックし、ティターンにはティターンをぶつけるべし、という流れが生まれ地球軍も躍起になって開発した。
サイズは戦争中にさまざまなものが生み出され、スタンダードになったのは20m級のティターン、80m級などもあったが、不必要なサイズであり、大量には生産されなかった。
さらに巨大な500m級は人型ではなく見た目の上では宇宙戦艦であった。これは船底にティターンを寝かせる形で埋め込まれて作られたが、ティターンはパイロットを選び、代わりの人間が見つからないケースが予想されたので、あまりに巨額の資材を投じて作るものにこの技術は不向きと結論づけられた。
またティターンは長期間動けないことでストレス反応を示し、扱いが難しくなったものも確認された。
土星ではティターンの産みの親である、ニュートン博士主導で戦時には3艇の巨大人型動力宇宙戦艦が作られたが、これは確かに強力でありつつも、常にパイロット次第で航行不可能になってもおかしくないリスクがついてまわった。
金星での最終決戦の前には4つの大きな戦いと16以上の小中規模の戦いがあり、それぞれローガン・モーとヨシムニ・ムニヨシが時にはタッグを組み、時にはそれぞれの軍を率いて戦った。
地球側が勝利した戦いは、この二人がいない場所での小中規模の戦いのみで、それもたった一人の地球側の将軍、【月の狐】の異名を持つヒューゴ・ラインハルト少将が指揮をとった時ばかりであった。
ラインハルト少将は2度にわたってヨシムニ・ムニヨシ率いる「ムーニーズ」と引き分けたことから木星軍と歴史が唯一認める、地球側の稀代の名将と言う評価を不動のものとした。
木星側の英雄、ローガン・モー大将は流星と赤い薔薇の蕾のマークで知られ、木星軍最強師団を率いた。また後半は自身専用タイタンと戦艦を使い分けながら巧みに戦った。
ちなみに、モーの専用機は名を「カー」といい、ムニーの専用機はそれに対する意味を込めて「パー」とムニーが名付けた。無論ふざけているのだが、由来を知っているものは限られていた。
*
4度にわたる大勝利を得て、金星を木星、土星軍が包囲していた。地球軍は徴兵制を復活させ、ティターンを大量生産。
パイロットに自爆装置をつけてまで行われた決死の抵抗に最終戦の総指揮を任された英雄、モー将軍は焦らず時間を使い攻勢をかけることを決定。
地球軍は包囲したまま積極的に攻めてこない木星軍を見て、資源が枯渇することを厭わずに兵器とティターンのさらなる生産を決定。
その総数は大小合わせて5000機にも及んだ。そしてその殆どが適正のないパイロットに無理矢理にティターンを操縦させ、この時、地球軍のティターンは本来の能力の10分の1も発揮できなかった。
数としては、包囲している木星、土星連合軍の人型ロボットの数が300機程度であることを考えれば異常であり、それだけ地球軍は追い込まれていた、ということを暗に告げていた。
そして最終決戦が始まろうとしていた、その矢先……
*
地球軍、金星本部にて、──それは起きた。
白兵戦用ロボットと共に兵士たちが軍幹部のあつまる集会所に雪崩れ込んだ。また同時多発的に主要施設にも。突然の事態に基地内は阿鼻叫喚の地獄絵図となり、金星司令部は血に染まった。
「──何をする!ヒューゴ!」
一際大きな声をあげてラインハルト少将に怒声を浴びせた恰幅の良い男が、会議室で射殺された。
「もうウンザリなのだ、バカに従うのは……」
引き金を引いた、ラインハルトの端正な甘いマスクは同じ男でも見惚れるほどだが、瞳は氷のように冷たかった。ラインハルト少将とその一味は自らの意に従わないすべての将校を拘束、または場合によっては殺害した。
金星の地球残党軍を完全にヒューゴ・ラインハルトが掌握。少将はこの戦争は決した、と宣言し木星土星連合に連絡。交渉に入った。
しかしギレシアは一切の条件を飲むつもりはないと通告。ギレシアからすれば、この降伏はあまりにも遅すぎたし、そもそもギレシアは皆殺しにしたほうがやりやすいとさえ思っていた。
ギレシア自身が裏切り者も、投降したものも、信頼するべきでないと考える男だった。そもそも戦争前に裏切ろうとした地球軍の将軍ですら、利用価値がなければ拒絶したような男なのだ。
ギレシアに言わせれば、戦いは奪い合いであり、勝利のパイを分け合う必要はないのだ。勝てなそうだから投降?
命だけは許してもいいが、人権は認めない。今ここに残っている抵抗勢力の人員の全てに対してである。
それがギレシアからの通達であった。会議室は重苦しい空気に支配された。たった今、ギレシアから降伏しても玉砕しても差して変わらない内容の通告がされたのだ。その場にいる誰もが少将の決断を待っていた。
ヒューゴ・ラインハルトが沈黙を破って話し出すまでに数分かかった。
「……諸君。……ここまでズルズルと、本当に、やってきてしまった。その上バカどものケツまで我らが拭かねばならない。もっと早くクーを起こすべきだった、そもそも最初から地球貴族などに軍人を辞めてでも従わなければよかった」
その言葉に軍人たちが息を呑んだ。
「政治家が決めたこと、司法が決めたことに愚直に従い、最後は、これだ。疑問に思っても、ただ目先の軍人としての義務だけをこなし、それでいいと思っていた。主体性なく自分自身が兵器となり、望みもしない戦争をして……。意義なき戦いに悪役として参戦し、なんの意味もない最後の戦いを迎えている。私は、ギレシアが憎い!地球貴族に協会ギャングどもが憎い!全て奴らのせいでこうなっているからだ! そしてここでふざけた結末を迎えるなどと、そんなことは許せない!受け入れられないのだ!我らが何をした!?我らが木星を圧迫し、搾取した?違うそれは軍がやったことじゃない!他の奴らだ!何故我らがスケープゴートにされるのか!なぜいつも軍人が死に、これらの張本人たちがのうのうと生きているのか!」
これまでラインハルトが激昂したところを軍で見たものはいなかった。常に冷静沈着でやるべきことをやる男だった。最後もあまり何も言わず格好よく去るのだろうと、ここにいるものはそう思っていた。それが覆された。
この男は最後に正直に自分の思いを言っている。他の将校たちも共感できた、しかし諦めていた。
部屋にいる数人の涙腺が緩くなった。暗い部屋でラインハルトがいった。
「……もう、なんの義務もない。地球も何も関係なく。俺たちのグループを作ろう」
下を向いていた将校たちが顔を上げた。
「武装放浪集団となるのだよ、我々は、この宇宙のな……。我らの戦争は市民のためでなく始まり、たった今!──政治家、企業、秘密結社!宗教!のいかなる部外者のものでもなくなった!我らは我らのためだけに闘うものなり!」
*
地球の英雄ヒューゴ・ラインハルト少将が首謀者となってクーは成功した。
しかし、時すでに遅し。とギレシアからの通達。これを受けてラインハルトは新たな勢力を発足。
勢力名【ナイツ・オブ・リバティ】
通称:K・O・L
金星での最終決戦は地球軍が総崩れになって終わった。
土壇場で仲違いした地球軍は多くの幹部が既に内輪もめで射殺された後で、月の狐と地球軍残党は戦争中に逃亡。
残った僅かな兵士たちと殆どの市民が降伏し、太陽系戦争は幕を閉じた。
ナイツ・オブ・リバティは、その後勢力を拡大し、木星軍と380年にも及ぶ小競り合いを繰り広げることになるのだが、それはまた別の話となる。




