表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

第十一話 「ゲロ吹きのインペリオ」

 


 第十一話


 ──先行き不透明・ゲロ吹きのインペリオ


「それで?……ギレシアが戦争に勝利したのはいいが、状況は?」


 真っ白な建物の真っ白な渡り廊下の奥にあるテラスにて、三人の男が紅茶を飲んでいた。

 白のマホガニー製の丸テーブルでダニエル・カーネギーマンは座っていてそっぽを向くようにして庭園を眺めていた。雨上がりのようで水滴が花弁からポツポツと落ちていた。

 向かいには険しい表情の男。木星元首ギレシアである、彼こそが地球制圧後はこの大屋敷の現在の所有者である。

 そしてもう一人が元々の屋敷の所有者。いつでも全身真っ白な服な男。通称ホワイトマン。本名マンチェスター・チェスナッツ。

 彼は由緒正しい地球貴族の家柄で、戦争前には地球貴族、侯爵の地位にいた。100の利権団体を持ち、年間1000名の美男美女を抱き、毎日であっても世界最高レベルのパーティを開く男であったが、彼にとってセックスはあいさつであり、親しくなった相手にはそれなりに親切な男でもあった。ただし親しくない相手と一般市民は彼にとっては、エイリアンそのもので全く別次元のお伽話の中の人間であった。

 ホワイトマンは今回の星間戦争では所有する軍事企業の戦争に向けてのコンペで忙しかったのだが、戦争そのものには興味がなかった。ただ生まれてこの方やってきたことを続けるだけだからだ。

 楽観的観測と彼の周りの人間の根拠なき自信に満ちた予測を覆し、木星土星連合によって地球が陥落したときは地球貴族としては、いち早く投降し、重要参考人として今では木星側に情報を提供して地位を保証された。

 ホワイトマンが投獄されていないのは奇跡と言っても良かった、と多くの木星人たちは思っていたのだが。

 実はギレシアが戦争前に非公式に結婚した女の、父こそがホワイトマンであり、ホワイトマンはギレシアの義父にあたる。そのへんのコネもホワイトマンの地位の保証に大いに関係していた。

 彼自身は関わっていなかったが、彼の従兄弟だあるヘイスティングスという大富豪が裏で木星を支援していたことも手伝ってホワイトマン一族は投降後は打って変わって積極的に木星側の益になるよう立ち回った。

 ヘイスティング・ウォルナッツは地球貴族伯爵であり、また同時に地球協会ギャング5位の地位にいた男でもあった。と言ってもギャングでは政争に敗れ追放されたのだが、つい十年前、貧富の格差が生じ始めた地球貴族の腐敗にいち早く乗っかり陰で大金を稼いだ男だった。彼の富は地球で20番目の資産家であるホワイトマンの3倍もある。

 ヘイスティングスは木星支援に積極的で繋がりのあった地球公爵と共に打倒地球協会ギャングを裏で掲げ戦争の裏で暗躍していた、それはギレシアも望むところで、奇しくもホワイトマンが義父になったことで親族となり、彼らの目的は一致したのだった。



「状況と言われましても……、私が勝った。そして勝者は勝者としての権利を行使する、それだけです」


 ギレシアが憮然とした表情で言った。


「ギレシア、最もなことだよ。私が君に言えることは少ない、しかし……」


 ダニエルが言い淀むと、


「しかし、なんです?」


 急かすようにギレシアが言い、ホワイトマンは双方の顔色を窺いつつ、おとなしくしていた。

 義父ではあるものの見た目の上では大した違いはなかった。ホワイトマンは50代の姿で、ギレシアは40ほどか。実年齢に関しては実際にどちらが上かも、本人たちですら理解していない。

 この時代の人間は大体、見た目通り、見た目通りでない。で分けて考える、その後はプライベートなことだが、100を超えているか、いないかで次は分ける場合が多かった。ちなみにふたりとも超えていない。


「ホワイトマン。君が、むかーしギレシアに紹介した男のことなのよ、どうなの?実際さ」


 ダニエルが途端に軽い口調になり、雰囲気も変化した。と言っても二人はこれには慣れていたので何も言わない。


「ヘイスティングスのことですか……」


「あなたが、その男が気に食わなくとも!今はその男が必要なんだ!」


 ホワイトマンが不安げに親族の木星支援者の名を出すと、割って入るようにギレシアが声を上げた。


 実際ギレシアはヘイスティングスのことなど、何も思っていないが人間関係のことについては苦手だった。それに口を挟まれるのも、である。

 そして彼はリーダーとして最も苦手な部分をダニエルに強要されているように受け取ったようだった。ギレシアは一刻も早くこの無駄なトピックを終わらせたいと思ったのだ。


 わふわふ!


(ボスぅ!こいつ怪しいです!きっとこいつが犯人ですよ!わふわふ!)


 ギレシアが声を荒げてすぐにハービットが割って入るように吠えてダニエルにそう伝えた。


(はぁ?一体なんの犯人だヨ?)


 突然妙なことを言い出したハービットにダニエルが耳を傾ける。


(宇宙衝突と至高の存在であるエリエンの大量死のですよぉ!そうだ!きっとこいつに違いない、この小癪な人間めぇ!)


 ヒートアップし、許さないとばかりに吠えかけるハービットにギレシアがたじろいでダニエルを見る。噛まないか心配なのだ。


(あのな、このバカ犬。まずエリエンの魂は不滅だ、バカめ。あの外から入ろうとしてた奴らがなにかしたのはあるだろうが、それは人間の仕業じゃない。お前が言っているのはな、地震が起きて故郷が荒廃したら、その辺のアリンコを見てこいつが怪しぃー!って叫んでるようなもんだ、もうちっと論理的に考えろ、クレイジーめ。犯人なんざいねーよ!)


(はて?しかしボス、その例えの通りだとすれば、こやつが犯人というのも、十分論理的な推論に思えますが?)


 論理的そうな雰囲気で、おや?


 みたいな感じで言うハービット。


(どこがだよっ!人間が犯人なわけねーだろ!それにただの宇宙災害なんだよ!一体いつから俺が犯人探しをしてると思ってたんだよ!俺は人間の身体から安全にエリエンの同胞の魂を取り出そうとしてんだよ! 犯人はあの滅びた種だし、それ以外は災害だ! 戦争だってとっくに終わってんだよ! このすっとこどっこい!)


(でも、でもぉ!こいついきなり声を荒げて怪しかったですよぉ!)


(だから関係ねーって!)


(信じてください!おねがいしまっしゅ!本当に声を大きくしたところを見たんですって! ──あいつがっ!本当に、あいつがやったんだっ!!)


(うるせー!ていうかお前ヨォ、たまに狂ってるし、こんなにバカで、大丈夫かよぉ……)


 互いにしょんぼりとしながら見合うダニエルとその愛犬を見て、ホワイトマンとギレシアも同様に目を見合わせてパチクリとしていた。


 *


 結局ティータイムはお開きとなり、ダニエルとハービットだけになった。


 ダニエルはこの世界、宇宙の中心に位置する、根と幹の世界に可能な限り遠回しに干渉するため未来のパラレルワールドである枝葉の世界から干渉し、その刺激を逆流させるようにして根と幹の世界へ届かせようとしていた。

 まずは重要個体の魂の器であるアーサーを死なせないこと。ダニエルが見つけたなかではアーサーの魂が最優先で保護すべき魂であり、それは彼の魂がダニエルと親しい魂であること以上に、世界サーヴァントの作成者の一人であることが関係していた。

 最優先で保護すべき魂とはつまり、世界サーヴァントの鍵をもつ個体である。アーサーの中の者を解放すれば世界サーヴァントを使役できるかも知れない。そうすればこのミッションの難易度は劇的に下がるだろう。

 ヨシムニの魂も重要なのだが、この個体の魂をダニエルは幹の世界でいまだ見つけられていない。

 アーサーを死なせないために。そのために必要なこと。それは特定の魂を刺激すること。クリステン、ムニーとローガン・モーという個体として受肉している魂で、ダニエルは彼らの運命を多少変えつつ、狙った通りの刺激を与えたかった。


 枝葉の世界においてはローガン・モーの中にある魂の本体は根と幹の世界ではアーサー・ボイド・ベクスターという個人であり、ほかにも重要なエリエン個体(魂)を宿すものは捜索中である。また、エリエンの根城とするこの宇宙の管理者たる世界サーヴァントであるオールドマン、トリッカリー、ベビーカーの状態も確認したい。仮にダニエルに彼らの権能の使用許可が降りれば鬼に金棒になる。


「うまくいけばいいんだがヨォ、どうすっかな、マジでぇ……」


 情けない顔をしてダニエルが言う。


「でも、多少既定の未来は動きましたし、アーサーにも変化あるかも!わふわふ!」


「いやぁ、めんどくせぇー。ていうかよぉ、アーサーの中のヤツが作ったかも知れねぇのはオールドマンだっけ?」


 信頼できないおバカロボットであるハービットに問い合わせると──


「ブブー!トリッカリーですよぅー。間違いありませんー」


「オメェ、ほんとかよっ。信じらんねー、いっつも適当なことばっか言ってんだからヨ」


 呆れたようにダニエルが言い返す。


「いえいえ、私は常に最新のデータを取得して確証のあることしか答えませんよ!」


 心外な!


 という顔でハービットが言った。


「それからして大嘘ジャネーかヨ!はぁー、かったりぃなぁ……」


 そこまで言ったところで、ダニエル・カーネギーマンはバイト先で知り合ったヤンキーチックな先輩という口調スキンを破棄した。


「ふぅ、なかなか思うようには進まんな……」


 ***


 クロウリーのテリトリー南西部にある広大な原生林にて、グロテスクな怪物がのっそりと動いていた。この怪物こそが、伝説の人型キマイラ系エイリアンのインペリオである。


 森の中を悠然と歩いていたそれは、身の丈は3m。樹木のような皮膚は爛れていて、灰色の都アルミ色と紫。二足歩行、撫で肩、猫背で白目の部分が見えないほど黒目、しかし目がないと思われるほど目が小さい、その上、普段は目を瞑っている。頭部は縦に長く、横を向けば肩幅ほどある。口は頬まで裂けていて、牙は歪で通常のエイリアン系魔物よりも長いが、普段は口を閉じていてあまり開かず、鼻呼吸をする。


 樹木のような肌は汚れた銀と紫で歪に肥大化した筋肉が不自然につき、筋肉質であるが、同時に病人のように痩せているような印象を見たものに与える。

 時折、口を閉じるのを忘れてしまい、粘着質な紫の液体が滴り落ちて、それが落ちた地面からは、ジュワ! という音が出る。強力な酸が常に口内に湧き上がっているようだった。ひどく緩慢な動作で一歩ずつ大地がそこにあるのか確かめているかのように歩く。


 これはゲロ吹きのインペリオという伝説級の魔物で、いつからこの森にいたのかは誰も知らない。

 確かなことは、このインペリオは大変強力な魔物で、この森の主であり、ここによりつくものはいないということ。

 同じく強力な魔物である人型エイリアンの、40体以上の群れをたった一体でやっつけてしまい、その後はかれこれ数十年に渡り付近のエイリアン系魔物のボスとして君臨している。

 人間の討伐隊が組まれたこともあるが数回全滅させられてからは、放っておかれている。積極的に外に出てこないからでもあった。触らぬ神になんとやらである。

 ここらの人間が言うには、インペリオは供物を喜ぶ魔物だという。時折人型エイリアンの中で弱ったものが、姥捨山のように生贄として森に捨てられ、それをインペリオが喰らっているだとか、人型エイリアンが人間の集落を襲った時には、インペリオのために人の女を生かした状態で連れていくだとか。

 インペリオは人間の娘を犯すのが好きらしいとか、そのような噂が絶えない。

 実際にインペリオが森で人間の娘を犯している光景を見た、と主張するものは数人ほどはいたので、信じるものはそれなりにいた。そしてそれは事実であった。

 この腐った樹木人型・エイリアンの魔物はかなりの変わり者で──


 まず孤独を好み、他のエイリアン系魔物とは群れず、交流もしない。そして森の中に人間が住んでもおかしくないような掘立て小屋を木材を切り出してはいくつも作り、そこを泊まり歩いているのだ。

 広大な森の中にはインペリオが作った小屋が数十もある。

 人間の女を好み、それと交尾しようとするのだが、選り好みが激しく好みでないと食べてしまう。

 好みの女には執着し、小屋を与えて四六時中愛するのだが、行為中もできるだけ口を閉じて女に危害を加えないようにしても(そうしないと胃液が口から漏れて女を殺してしまう)インペリオの精を受けて無事な女はなく、この化け物が射精してしまえば、たちまち女は中から溶かされ死んでしまうしかなかった。

 それでもインペリオは人間の女に恋をするのだが。愛する人を一体何度殺したか、それなのに寂しくなると今度こそはと同じ悲劇を繰り返す。

 そして生涯子を持つこと叶わないであろう自身の身の上を呪ってインペリオは森で、いつも泣いていた。


 彼の森では夜な夜な、──オッ、ウォン、オッウロン!ヒッグヒッグ! と、怪物の嘆きの声が聞こえてくる。

 そんな化け物も最近では交尾自体しないようにしていたのだが、インペリオは自身の縄張りであるこの森で不思議な男を見た。

 最初、小さな犬がいたと気がついた。次の瞬間には自分が建てた掘立て小屋の中にいて、自分が作った覚えのないテーブルが置かれており、そこで茶を飲んでいる人間の姿をした男がいた。

 インペリオは化け物の勘というやつで、これは間違いなく人間ではないだろう、と思ったのだが、気づけばおとなしく男の話を聞いていた。

 その日はずっと雨が降っていたのは覚えている。


 なぜか雨降りだったはずなのに男は濡れていなかった。雨降りの森の中をくれば必ず濡れるはずなのに、男のスーツは綺麗にアイロンされたようで、なんの影響も受けていないのだ。インペリオはそれに気づくと首を傾げたが、テーブルに対面で座っても男は、窓の外の雨をずっと見ていた。

 下からすくい上げるように天を見上げていた。それがインペリオには不思議で、記憶に焼き付けられた。  

 男の犬は気まぐれで、じゃれるように足を噛んできたりしていたが、気がつくと男も犬も忽然といなくなっていた。

 その男が来てから、少しして(夢かも知れなかったが)人間の男がやってきた。今度は本物の人間だった。番いの女を連れていた、うまそうな女だった。

 インペリオは人間の男女を見て羨ましく思って涙を流して、また同時にその女を見て化け物の陰茎はそそり立ちダイヤモンドほどの硬さにもなった。。

 しかし襲う気にはなれなかった。インペリオの奥底に眠っている記憶を思い出したからであった。

 それはインペリオの使命についてだった。全体像は未だ見えないが、それは化け物にとっては十分なほどはっきりとしたものだった。


 2名の英雄を守ること、死なせないこと。

 英雄を、この男を守ること、死なせないこと。


 アーサーというらしい、ついでにこいつの女も守ってやろう。もう一人はよくわからないが、出会えばわかるだろう。こいつのように自然と、はっきりと。インペリオは歓喜した。

 ようやく自分の力をマシなことに使えるのだから、このために自分は生まれてきたのだ! という強い情動が沸き起こり、カチリと脳のスイッチが入った。

 化け物が自身を呪うことはこの日から無くなったし、誰も気が付かなかったが、森から啜り泣く嗚咽が聞こえることも無くなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ