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第十話 「ヨシムニ・ムニヨシ」

 

 第十話


 ヨシムニ・ムニヨシ


 オフィスビルと商業施設の間の道を隔てた2階から繋がる空中通路の真下、地球軍歩兵部隊と友軍の部隊の戦闘だった。

 おおよそ、地球側1200に対し、木星側、200と少々。木星連合側は数で6倍差をつけられていたのにも関わらず優勢であった。地球兵は混乱し、足並みがまるで揃っていない。

 まるで戦場に獣が入り込み暴れまわっているかのように、彼らは外から包囲するように電磁ライフルを撃ちかける木星兵よりも、内側から彼らを食い荒らすなにかを恐れていた。

 そのなにかがクリステンの──瞳に映った。

 敵兵達のど真ん中、二振りの電磁ソードで敵ロボット兵を圧倒する兵士。

 それは側から見ても、分かりやすく指揮官と示すような格好をした兵士で、野生動物も強化機械化兵も真っ青な身のこなしで、敵兵の攻撃を軽々と躱し、そのたびに逆に剣を一太刀、また一太刀と浴びせ、剣に敵が接触した瞬間、類稀なる兵器術で、その瞬間に電磁力を増幅させロボット兵を一撃で機能停止させ、ガラクタへと変えていった。

 敵兵の攻撃は奇跡でも起きているのか、というほど当たらない。何百の兵の中で大立ち回りをしても誰も彼を捕らえられない。


 電磁ソードというものは本来護身用であり、本来はメインウェポンとして戦場で使うことはほぼない武器であったが、この兵士が集団に入り込むと、ロボット兵は自然と内向きで彼を相手にしせざるを得なくさせた。

 敵兵集団の外側から彼の配下の兵たちが一斉射撃し、それに対応しようと隙を晒せば、内側の獣、この剣の達人にやられてしまう、と言うような考えられない現象が起きていた。


「おいおい、とても有効な方法だとは思えないが、……こ、これは大丈夫なのか?」


 クリステンからすれば、あまりにもリスキーな戦法だが、それ以上に彼らをどう援護するべきか、散開しようとする兵士を邪魔し、撃破するのを手伝うに留めるとそれで十分事足りた。



 戦闘が終わって──


「どうもどうも、クリステンさぁん。久しぶりだねぇ、クックック」


 見たこともないような大立ち回りをやってのけた指揮官が、おかしそうに笑いながら言った。

 演技がかった、軽くおどけたような調子。クリステンをアーマーの隕石と柳のマークですぐに見抜いてきた。またクリステンも隕石と隼のマークを見て、この類を見ない兵士が吉宗・宗義こと「ムニー」であることをすぐに悟った。


「驚いたよ、あんな闘いができるなんて……」


 それはムニーにあのような芸当ができるなんて、と言う意味と、そもそもあのような戦法であれだけ綺麗に敵を片付けること、敵の剣戟と射撃、そして戦いの最中操作している味方ロボット兵に撃たせた一斉射撃を、被弾せずに続けること自体が可能だとも思っても見なかった。の二つの意味を持ってクリステンの口から発せられた。


「どっちの意味でかなぁ? クックック、まぁ俺もねぇ、なかなかやるんですよ、こう見えて、ね?」


 最初からかうような調子で、最後は胸を張るように言った。確かに奇跡のような光景だが、クリステンはあれじゃ、昔の映像作品のチャンバラの達人だとムニーに告げ、またリスクはないのか、やら、あれでは一人何十役やっているようなものだとか、普段からあれをやるつもりなのか、などと心配しながら聞いていたが、最後はムニーが──


「まぁまぁ、そこら辺は俺はわかってやってるからいいのよ、それよりこれ。モーさんからだよ」


と言って音声を渡してきた。


 《こちらモー大将。第三傭兵団へ、ムーニーズと合流されたし、ともに制圧されたエリアから重要参考人となる役人と研究者達の一団を護衛し基地まで帰還せよ》


 続けて──


《たった今、敵リーダーが降伏、都市は陥落。我々の勝利だ!

 攻勢に参加した部隊は帰還し、報酬を受け取るべし!

 勝利の美酒に酔いしれてくれ》


 音声を聞いてムニーを見ると、ヘルメットを開け、にかっと笑って──


「ベックスの勝利だっ!なんつって!」


 ***


 人類文明が一度崩壊した世界である根と幹の世界では、アーサー・ボイド・ベクスターが病院の中を歩いていた。

 正確には市役所の中なのだが。ここを設計したという建築家が、ため息をつくほどつまらないという病院を改装してつくられた役所。その中をアーサー・ボイド・ベクスターは進んでいた。

 ナイトクロウリーの市役所として使用されている病院跡地である。敷地を区切って、横は実際に病院として使用されている。


 役所に来る機会は少なかったが、反乱を起こし、クロウリーの街を切り取ったアーサー率いる革命軍の新たな本拠地の一つだった。

 アーサーからすれば、この建物自体は新鮮で興味深かった。役人と建築家はそうは思わないかもしれないが、役所もこの規模の病院も彼には無縁な場所だった。

 役所の一角、角の方には仕切りでできたオフィス空間があり、そこが市民達の生活相談窓口の一つになっていた。

 その窓口から建物の窓まで10mほどの空間があり、そこにはちょっとした休憩スペースだ。テーブルがいくつかとコーヒーマシーンがある。外に出れば売店も近い。

 そこで座って窓を外を見ている男がいた。近づいていくと、アーサーは雨が降っていることに気がついた。


「……旦那と会う日には、いつも雨が降っている気がする」


 言いながら、アーサーが席についた。


「私の心を空が表してくれているんだよ、アーサー・ボイド」


 物憂げに旦那が言った、それでも、この男にはどこか爽やかさがあるのだが。


「旦那の心か、いつも雨なのか? それとも冗談で、単なる雨男なのか……」


 返答に困ったアーサーが頭をかきながら言った。


「さぁ、どちらかな。ところで、最近はどうだ?」


「二つの街で反乱を起こし、今はこの街も、俺が率いる革命軍が仕切るようになったな。今のところ順調だ。旦那のおかげだ」


 同じように窓の外を見ながら、いつもどおり、ミステリアスな旦那に言った。


「君のおかげだよ、別に私は何もしてない」


 当然のように旦那が言った。


「もうすぐクロウリー政府軍が攻めてくると言う報告があった」


 アーサーが単刀直入に言った。


「──勝てそうか?」


 ダニエルが返した。


「なんとかするさ。それより、せっかく街を切り取ったのに、俺だけゲロ吹きの森にいろとも言われて不安なんだが」


「あぁん? チッ。てめぇよぅ。おめぇが一番死なねぇように、助言してやってんだから、不安がってんじゃねぇよっての」


 突如として、表情と口調が変わり、ヤンキーチックな先輩口調で旦那が言ってきた。


「──いやぁ、といってもゲロ吹きがいるしな」


 引きつった顔でアーサーが懸念を口にすると──


「そっか。じゃっ、オレが修行をつけてやるよ。それでいいかよ?」


 あっけらかんとした調子で旦那が言った。


 この男のこのような変化は珍しくないが、だんだんと多重人格者なのでは? とアーサーは思うようになってきた。

 そういえば、このあっけらかんとした感じの時はジャック・ジャクソンと名乗っていたはずだ。この人格、名前は一致するのだろうか?


「うむ、それはいいが、旦那。今日はなんて呼んだらいい?」


 恐る恐るアーサーが聞くと──


「ああん? そうだな。──ケンだ。ケン・ケンシントン。ちゃんと覚えとけナ?ま、今日だけだったら覚え損だろうがヨ」


「…………」


 名前は特に一致してなかった。


 *


 ゲロ吹きのインペリオの森は、およそ地面や葉に、おどろおどろしい紫が混ざる、枯れた木の多さと黄色の空が特徴的な魔の森である。見ようによっては神秘的とさえ思える景観であるのだが、人間は誰一人として近づかない。軍隊でさえも。


 そこでコートとハットを椅子にかけ、汚れたシャツ姿になったアーサーが斧で薪を割っていた。


「三十二回、三十三回、……止め。次に行くか」


 古いコミック誌をパラパラとめくりながら、椅子にふんぞりかえる男、ダニエル・カーネギーマンが、アーサーに指示を出していた。


「次は、そうだな……」


 アーサーがうなづいた、修行は次の段階へ移行するらしい。包装されたアイスクリームバーを投げてダニエルがよこす。


「──これは?」


 怪訝な顔をしてアーサーは旦那を見た。


「それを左手に持って溶かすな、次に中腰になり斧を振らずに、触れさせて押さずに薪を割れ」


 能力者としてアーサーは不可能ではない、と思ったがなかなか高度な要求だった。

 スクワットするように中腰になり、左手にアイスを持ち溶けないように念じ、右手の斧を薪に刃を立てて置いた、薪に亀裂が入ると、薪が倒れた。アイスを溶かさないように、薪を拾い上げると……


「その薪を使うな、新しいのでやり直しだ、出来るまでやるが、出来ないなら永遠に条件を簡単にするからな、つまり言い訳と結果を出さないことを禁ずる」


とダニエルが言ってきた。


 やれやれ、これはそれなりの修行になりそうだぞ、とアーサーは思い始めていた。



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