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推しを殺すラスボスに転生してしまった  作者: 心音瑠璃


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22.

 私を部屋の外へと連れ出したリベリオ殿下は、扉を閉じると息を吐く。


「ふぅ。これで二人ともやる気になってくれれば良いんだけど」

「!? 先ほどのはわざと……?」


 私の言葉に、リベリオ殿下は「話は歩きながら」と私の手を引き歩き始めてから答えた。


「当たり前でしょう? まあ、本音と言えば本音だけど。『練習を見て欲しい』なんて言っておきながら、お互いの呼吸がまるで合っていない……というよりは合わせようとしていなかった。君もそう思ったでしょう?」

「……えぇ」


 確かに、エレナとランベルト、二人が踊っている姿はお互いに距離があるように思えた。

 エレナは自信なさげに俯き気味で、ランベルトはそんなエレナをリードしようとしているのが逆に空回ってしまっているように私の目にも映った。


「そして、上手くいっていない理由は十中八九エレナ嬢にある。エレナ嬢自身もきっと踊っている際に違和感を感じて、君に見てもらって指摘してもらおうと考えたんだと思う。

 だけど、それは甘えだと僕は思うし、エレナ嬢自身が克服すべきことだ。……見たところ、技術面ではなく、心理的な要因に見えたしね」


 リベリオ殿下の言う通り、エレナは生粋の公爵令嬢であるから、ダンスの実力は申し分ないはず。

 乙女ゲーム中でも、ダンスが得意でないヒーロー達にアドバイスする描写もあったし、ランベルトやリベリオ殿下とも絵になるようなダンスをしているスチルがあった。


(むしろ、彼女がダンスに関して迷うような描写は一切なかったはず。それなのに、なぜ……?)


「……やっぱり合同練習なんて断れば良かった」

「え?」


 リベリオ殿下の発言に首を傾げた私に、彼は風紀委員会の部屋に入ると、不意に私の身体を来客用の長椅子に向かって押した。


「なっ……!?」


 抗議の声を上げようとした私の肩に、彼は自身の制服の上着を脱いで私の肩にかけると言った。


「君は何でも一人で抱え込みすぎる。どうせ聞いても話してはくれないだろうから、せめて頑張る君を僕が甘やかしたい」

「……!?」


 そう言うや否や隣に座った彼が私の肩を引き寄せ……、あっという間に、私が彼に寄りかかるような姿勢になる。


「な、ななななにを!?」

「あまり眠れていないでしょう? 目の下、隈が出来てる」

「っ……」


(お化粧で誤魔化しているはずなのに、どうして……)


 目元を抑える私に、リベリオ殿下は続けた。


「言っておくけど、誤魔化しても無駄だから。何度も言うようだけど僕は君の婚約者なんだから、君の異変にはすぐ気が付くよ。……たとえ君が取り繕っていたとしても、僕は見抜く自信がある」

「!」


 その言葉は、私が現在進行形で抱えている悩みがあることを見透かされているような気がして、思わず息を呑む。

 そんな私に、リベリオ殿下は「でも」と言葉を続けた。


「分かるのはそれだけであって、君が何に悩んでいるのかは君が話してくれないと分からない。分からなければ、助けようがない。……だから、待つよ。君が頼りたい、頼れると思える男になるよう努力しながら。その代わり、君が話したいと思ったらすぐに教えてほしい。分かった?」

「…………」


(……違う。貴方は、努力なんてしなくて良い。貴方の優しさや勇気に、私は十分救われている。けれど、私が貴方に悩みを話せないのは、私が未熟だから。私の心が、弱いだけだから……)


 だから私は、今日も頷くことしか……、彼の優しさに甘えることしか出来なかった。





「結局、私は何も出来なかったわ」


 リベリオ殿下に言われるがまま、目を瞑り一瞬にして眠ってしまった私が起きたのは、最終下校時刻である二時間後のことだった。

 その間にリベリオ殿下は、私が今日やろうと思っていた委員長の仕事を全て終えており、計ったように「よく眠れた?」と私を起こしてくれた時は、危うく心臓が止まるかと思った。


「それだけお疲れだったということですよね。そんな時にごめんなさい、私の中途半端なダンスをお見せしてしまって……」


 一緒に寮への帰路についたエレナの言葉に、私は首を横に振る。


「謝ることは何もないわ。私こそ、力になれなくてごめんなさいね」

「いいえ、お姉様と殿下に見ていただいて……、殿下からは厳しいお言葉をいただいたことで、覚悟が決まりました」


 そう言い切ったエレナの表情は、先ほどダンスをしていた時よりもずっと真剣な色を帯びていて。


(……エレナも、何か悩んでいたのかしら。でも、吹っ切れたようで良かった)


 エレナは大丈夫そうだと安堵したところで、彼女は「それにしても」と話題を変えた。


「リベリオ殿下はさすがですね。妹の私でも気が付かなかったお姉様の体調不良に最初から気付いていらっしゃったなんて」

「……本当に、私には勿体無い婚約者だわ」

「え?」


 エレナの耳に私の言葉は届かなかったようで首を傾げる彼女に、私は「何でもないわ」とその発言をなかったことにする。


(……リベリオ殿下のおかげで、毎晩見る悪夢も見ることなく眠っていた。そんな彼の重荷にしかならない私が婚約者であること。それこそが、彼の最大の不幸なのではないかしら……って、駄目よ。暗い気分に陥っている場合ではないの。私には、やるべきことがたくさんあるのだから)


「今日お休みをいただいた分、明日からまた頑張らないと」

「無理はしないでくださいね……?」


 エレナの言葉に、私は「大丈夫よ」と胸の内に依然として渦巻く靄を断ち切るように、努めて明るく言ってみせた。


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