第15話 叩く音は嘘をつかない
口では何とでも言えます。
でも、槌の音と仕上がった刃はごまかせません。
今回は、商人と職人がようやく同じ方向を見る回です。
「これ、あんたの店にも置かないか」
リョウが差し出した小壺を見て、カーナは露骨に顔をしかめた。
「なんで私が薬売らなきゃならねえんだ」
「軽い錆ならこれを売る。欠けや歪みがあれば、そのままあんたの客になる」
「……私に判定係をやれってのか」
「売れた分は取り分を出す」
「先にそれを言え」
カーナは鼻を鳴らし、小壺を掴んで自分の工房の台へ並べた。
小壺の口には、墨で書かれた小さな札が結びつけられていた。
『軽い赤錆と日常の防錆用。刃こぼれ・歪み・深い錆は鍛冶屋へ』
昼過ぎ、工房前の小壺を見て、腰に剣を下げた冒険者が足を止めた。
「カーナさん、これ、刃こぼれも直るのか?」
「直らん。落とせるのは表面の軽い錆だけだ」
「じゃあ、この欠けは?」
カーナが客の剣を受け取り、刃を光へ傾けた。指の背で平を軽く弾く。
濁った金属音が短く返る。刃先を親指で確かめてから鼻を鳴らした。
「うちの仕事だ。置いてけ」
「頼む!」
冒険者は剣を預け、予備にと小壺を一つ買っていった。
夕暮れ時、カーナが売上の入った革袋を手にリョウの工房へやってきた。作業台へ袋を置くと、腕を組んで言った。
「……お前、商人のくせに職人の手をよく見てるな」
「見落とすと損するからな」
リョウが硬貨を数えながら答えた。そこへ引き戸が静かに開き、ルイーナが入ってきた。
「リョウ、清髪粉の補充に来た」
鎧姿のルイーナを見たカーナが、その腰の剣へ目を留めた。
「おい、その剣、少し見せろ」
「なぜだ」
「刃元が妙に減ってる。支給品か?」
「そうだ」
「今度暇な時に持ってこい。ちゃんと見てやる」
「……腕のいい鍛冶師のようだな。覚えておく」
ルイーナが短く頷くと、カーナは調合台のフェルにも声をかけた。
「おい錬金術師、昨日より粉の粒が揃ってやがるな」
「当然です。まだ調整しますから」
フェルが返すと、カーナは「じゃあな」と手を振って出ていった。
リョウは今日売れた小壺の数を帳簿へ書き込み、カーナの取り分を別に分けた。
フェルが調合台からこちらをのぞき込んできた。
「カーナさん、ずいぶん普通に話すようになりましたね」
「最初は帰れしか言われなかったからな」
「今も言ってますけど」
「じゃあ変わってないな」
「……そういうことにしておきます」
フェルは小さく息を吐き、また薬草の束へ手を伸ばした。
通りの向こうで、カーナの槌が三度鳴った。
リョウは売る人。
フェルは作る人。
カーナは直す人。
できることは違っても、
うまく噛み合えば仕事になります
なお、カーナ本人は素直に喜ぶ気はないようです。
第3章、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。




