第13話 職人にしかできない仕事
「危ねえもん売るな」
そう言われたリョウが、
今度はカーナの仕事を見に行きます。
商人が見るのは、値札だけではありません。
「嫌だ」
鍛冶通りの一角にある工房の前で、カーナは即座に吐き捨てた。
「そこをなんとか」
「帰れ」
「見るだけだ。邪魔はしない」
「立ってるだけで邪魔なんだよ。火花が飛んで服が焦げても知らんぞ」
カーナは引き戸を閉め切らず、そのまま奥へ入っていった。リョウは開いた戸口から薄暗い工房へ足を踏み入れた。
熱気と焦げた油、鉄の匂いが充満している。
炉の炭が赤々と燃える作業場の真ん中で、カーナは作業台に置かれた一本の鉄剣を手に取った。討伐帰りの冒険者が研ぎ直しに預けていったものらしい。
刃の表面は磨かれているが、鍔の近くに小さな欠けが幾つか残っていた。
カーナが剣を水平に持ち上げ、光へ向けて少しだけ傾けた。
「おい、商人」
「何だ」
「ここ、何かおかしいか?」
刃の腹を指さされ、リョウは目を細めてのぞき込んだ。だが、油で拭かれた鉄肌が見えるだけで、異常は見当たらない。
「俺には分からない」
「そうだろ」
カーナは鼻を鳴らし、柄の根元を指で軽く弾いた。
「刃の背側はまっすぐに見えるが、切っ先から手のひらひとつ分のところで光の線がほんの少し歪んでる。こっちは刃元がわずかに横へ逃げてやがる。昨日のお前の薬を塗って錆を落としたら、これが分かるか?」
「……分からないな」
「だから危ねえんだよ」
カーナは剣を金床へ置き、小槌を取った。同じ場所を叩いているように見えるのに、よく見ると槌の入り方が毎回違う。足も一撃ごとに少しずつ位置を変えていた。
それから砥石の前に座り込み、水をかけながら荒砥で刃を擦る。数回滑らせては指の腹で刃先をなぞり、まだ小さな欠けが残っているところで研ぎを止めた。
「そこ、欠けが残ってるけど削らなくていいのか?」
「全部追ったら削りすぎる。この剣の持ち主、刃筋がぶれる癖があるんだ。ここを薄くしすぎたら、次はもっとでかく欠ける」
カーナは水桶で刃を洗い、乾いた布で拭い取った。
「さっき、同じところを叩いてたのに、槌の角度は毎回変えてたよな」
リョウが言うと、カーナの手がぴたりと止まった。
「……そこ見てたのか?」
「見てた。理由は分からないけど」
カーナは視線を刃へ落としたまま、小さく息を吐いた。
「……まあ、そこに気づくなら目は腐ってねえな」
「これは俺には絶対できない」
カーナの背中が一瞬だけ固まった。それから無愛想に言った。
「当たり前だ。できたら私が困る」
カーナは剣を壁際へ立てかけ、次の一本を引き抜いた。
リョウは見ていました。
槌の音。
足の運び。
刃の薄さ。
歪みのなさ。
カーナ「……分かるのか?」
リョウ「少しだけ」
たぶん、その「少しだけ」が一番効きます
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