↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/59

第12話 錆が落ちても、剣は直らない

新商品は好調。


そしてその噂は、

もちろん鍛冶通りにも届きます。


カーナさん、たぶん喜びません。

翌朝、工房の引き戸が乱暴な音を立てて開け放たれた。


入ってきたのは、革の前掛けを締めた小柄なドワーフの女だった。赤毛の短い髪を後ろで無造作に束ね、腕まくりされた太い前腕には火の粉で焼けた跡が散っている。


鍛冶通りで怒鳴り声を上げていた鍛冶師――カーナだった。作業台へ大股で歩み寄ると、素焼きの小壺を木天板の上へ叩きつけるように置いた。


「おい! このふざけた薬売ったの、お前らか!」

「いらっしゃいませ。防錆ペーストのことですか」


リョウが立ち上がると、カーナは目を細めた。


「丁寧な声出してんじゃねえ! 今朝、昨日二日待ちだって帰したガキが店の前通ってな。『もう直った』って嬉しそうにこの壺見せてきやがったんだよ!」

「落とせるのは表面の錆だけで、刃の状態は鍛冶屋に見てもらえって説明しましたよ」

「そのガキが聞くと思ってんのか! 錆が落ちたから何だ。こいつで歪みが分かるのか。ヒビは? 刃の根元まで見たのか」

「それは――」

「見てねえだろ! 欠けも歪みも分からんやつに『手入れできた』と思わせる方が危ねえんだよ。今まで研ぎに持ってきてたやつが、これ一本で済んだ気になったらどうする」

「でも、軽い錆を落とすためだけに二日預けられない客は実際にいる」


リョウが言い返すと、カーナは鼻を鳴らした。


「だからって、どこまでが軽い錆か客に分かんのか?」


奥で調合台に向かっていたフェルが、ガラス棒の手を止めてこちらを振り向いた。


「……カーナさんの言う通りです。このペーストでできるのは表面の錆を落として油膜を張るだけですから、金属の中に入った傷や歪みまでは分かりません」

「フェル、味方じゃないの?」

「私は安全性の話をしています」


フェルがきっぱりと返すと、カーナはリョウを上から下まで冷たい目で品定めした。


「錬金術師の方がよっぽど分かってんじゃねえか。だいたいお前、刃物触ったことあんのか」

「包丁なら」

「帰れ」

「職場ここなんだけど」

「お前が見てんのは、売るところまでだ。売った後の剣、一度でも見たのか」


リョウは答えられなかった。売れた数なら分かる。討伐から戻った後の剣は、一本も見ていない。


カーナが小壺を乱暴に掴み直し、背を向けようとした。


「見せてくれ」

「何をだ」


「あんたの仕事」


リョウ「便利なら売れる」

カーナ「危ねえもん売るな」


商人と鍛冶師。

見ているものが違います。


なお、今回は仲良くなる回ではありません!


次回、リョウはカーナの仕事をちゃんと見ることになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。