↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/61

第11話 錆は待ってくれない

鍛冶通りで見つけた次の需要。


今回は「武器を直す」のではなく、

「鍛冶屋へ持っていくまで何とかする」商品です。


リョウ、新商品の試験販売開始。

平皿の上で、淡い緑色の軟膏がねっとりと練り合わされていた。


スライム粘液から抽出した油分へ、細かく挽いた研磨鉱物の粉を混ぜてある。


フェルがガラス棒でゆっくりとかき混ぜると、淡い緑色の表面に滑らかな艶が出てくる。リョウは布の端に少量をすくい取り、買ってきた錆びた鉄板の端を擦った。


十秒ほど擦って拭き取ると、赤錆が布へ移り、下から鈍い鉄の肌が見えた。


「布だけでいいのか。一回の手入れに一分もかからないな」

「今の粒度なら、試した鉄片には目立つ傷は出ていません。油分が薄い膜になるので、数日は新しい錆を防げます」


フェルがガラス棒を拭きながら、皿の中身を見つめた。


「でも、これだけですよ。表面の赤錆を落として油膜を張るだけです。刃こぼれや奥まで入った錆は削れません」

「十分だ。全部直せたら銅貨で売る商品じゃなくなる」


リョウは店頭の木枠へ、『軽い赤錆落とし、試せます』と墨で書いた小さな板を掛けた。


通りへ顔を出して半刻もしないうちに、革鎧を着た若い男が足を止めた。腰には使い古した直剣を下げている。鞘の金具と鍔の根元に、赤茶色のざらつきが浮いていた。


「あの、看板見たんですけど」

「いらっしゃい。試すだけなら無料ですよ」


リョウが声をかけると、若い冒険者は腰の剣に触れながら言った。


「本当に落ちます? 昨日雨の中で使って、朝見たら浮いてて」

「鍛冶通りには行きました?」

「行った。二日だって」

「二日」


男は腰の剣へ目を落とし、それから革袋の紐を指先でいじった。


「明日の朝、討伐の依頼があるんだ」

「刃を見せてもらえますか」


リョウは布にペーストを小指の先ほど取り、作業台の上に置かれた剣の平を擦った。円を描くように十数秒磨き、乾いた布で強く拭き取る。


赤茶色の粉が布へ移り、目立っていた赤錆はほとんど落ちていた。刃先にある細かい欠けや、昔ついた深い傷はそのまま残っている。


だが、表面を覆っていたざらつきは消え、薄い油の膜が光を鈍く反射していた。


「あ……」


男が剣を持ち上げ、光にかざした。指の腹で刃の平をそっと撫でる。


「すごい。引っかからない。これなら明日持っていける」

「使えるかどうかは俺には分かりませんよ」

「え?」

「落とせるのは表面の錆だけです。刃の状態は鍛冶屋に見てもらってください」

「ああ、うん。分かってる。でも明日だけ持てばいいんだ」


男は小壺を指さした。


「これ、いくら?」

「銅貨五枚です」

「何回くらい使えそう?」

「その剣なら十回以上は」

「じゃあ買う」


男は革袋から銅貨を五枚出し、小壺を受け取ると足早に出ていった。


「売れるな」


リョウが木箱へ硬貨を入れると、奥で薬草を仕分けていたフェルが顔を上げた。


「まだ一人ですよ」

「一人売れた」

「同じ意味ではありません」


フェルは乳鉢へ手を伸ばしたが、それから半刻もしないうちに、「さっき買ってったやつに聞いたんだけど」と若い冒険者が二人続けて入ってきた。


二人がそれぞれ小壺を買っていき、その後も「軽い錆なら落ちるらしい」と聞いた冒険者が三人、順番に顔を出した。


夕方前には遠征へ出る男が予備用にと二つまとめて買っていき、十個あった小壺は日の落ちる前には残り二個になっていた。


「フェル、追加で作れる?」


棚の残数を見たリョウが声をかけると、フェルは新しい平皿と鉱物粉を並べながら小さく息を吐いた。


「……作れますけど、私はもう少し粒度と配合を調整したいんです」

「売れてるぞ」

「だから困ってるんです」


フェルは唇を少し尖らせながら、それでも手際よくガラス棒を動かし始めた。


棚の端に残った二個の小壺も、夜になる前にはなくなっていた。


試作品、銅貨五枚。


最初のお客さんは無事に明日の討伐へ行けそうです。


そしてリョウの帳簿には、新しく『防錆ペースト』の一行が増えました。


次回、そんなに素直に売らせてもらえるのか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。