星降る博物館
「ほんっっっっとうに誰も来ませんよね」
「何度も言っているだろ。ここはそういう場所なんだ」
少女がやって来てから約一か月が経とうとしている。今日も今日とて博物館は静かで、魔女と少女もいつも通り、緩慢な時間を過ごしている。
「毎朝毎晩、同じことしかしてませんよね。まあ星を見るのはいつまでも続けられますけど」
ガラスドームの下で、大きく伸びをした少女は星を眺め続ける。
毎朝毎晩の展示品の清掃と点検、昼間だけは割と自由なことをしているのだが、やることが無くてなにもしていない。それは少女だけでなく魔女もそうなのだが、魔女はそんな時間でも別に構わないといった様子だった。
「ならいいじゃないか。お前にとっては幸せな生活だろう」
「否定できませんね」
寝そべる少女の隣で、魔女は座って宙を見上げている。
数十年前から変わらない宙が広がる。変わったのは隣で人がいる、そしてその人が変わっている。ただ、それだけ。
別に星に興味など無い魔女は早々に立ち上がり、その場から去ろうとする。そんな背中に、少女の声が届く。
「あっ、いい加減に枕くださいよ」
その言葉に、魔女は軽く手を上げて応じる。このやり取りはここしばらく続いている。最初は『分かった』のサインだと思っていたが、魔女が枕を用意してくれることは無かった。ということは今回も枕を用意してくれない。
勝手に探すとまた怒られるだろうから、少女は今日もこの固い床で夜を過ごすこととなる。
◎
魔女は今日もいつも通り地下の部屋にやって来た。いつも通りの雑多なテーブル、簡素なベッド。毛布だけは少女に渡してここには無い。枕を用意してくれと言われたが、自分の枕を渡したくはない。
寝具などもこの博物館内にあるのだが、魔女はそれを置いている場所へは行きたくない。もうそろそろ行くべきだと思っているのだが、どうも体と気持ちはそこへ向かない。
少女がやって来て多少は変わったと思ったのだが、そう簡単に変わるものではなかった。ちなみに外の落とし穴も変わった様子は無い。明日は腹いせに落とし穴の中をドロドロにしてやろう。そう考えながら魔女はベッドで横になる。
ここ最近、魔女の寝つきは悪い。もともと疲れることはしていないのだから寝つきは悪い方だったのだが、最近輪を掛けて寝つきが悪くなっている。心労がかかっているのに、寝つきは悪い。別に日常生活に支障はでないが、気分の良い物ではない。
しかしその原因を取り除く術は無い。
だから今日もローブに包まり、目を閉じて眠れるまで待つ。
そういえば、いままで寝具や服など、どうやって用意していたのだろうか。展示品の中でそういうのに使える物があると考えるのが自然だが、魔女はそういう展示品を見たことが無い。
「別にいいか」
思考を無理やり止め、寝返りを打つ。目を固く閉じて意識して呼吸を繰り返す。
今日はいつもより、長い夜を過ごすことになりそうだ。




