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星降る博物館  作者: 坂持


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忘れ去られた博物館 7

「そういえば、なんでわたしって落とし穴掘らされてたんですか?」


 用意されたケーキを食べながら、少女は忘れていた疑問を魔女にぶつけていた。


「お前みたいなヤツ対策だ」

「なんですかわたしみたいな人対策って」

「そのままの意味だ」


 魔女はケーキをフォークで小さく切り、口の中へ運ぶ。


 そして紅茶を飲んで息を吐く。


 お皿にフォークが当たる音だけが響く時間が過ぎていく。


「美味いだろ」

「美味しいです」


 それっきり、再び静かな時間が過ぎる。そしてケーキを半分以上食べた頃、少女は再び口を開いた。


「落とし穴、どうします?」


 戻ってきたはいいが、あの落とし穴を塞ぐ物があった訳ではない。あんなに苦労したのに塞いでしまうのは、少女はちょっと嫌だった。


「薄い木の板でも敷けばなんとかなるだろ」

「あるんですか?」

「探せばあるんじゃないのか」

「…………わたしに探させようとしてます?」


 そう言ってから、少女はこの流れなんか知っているなと思った。


「なんだ探したいのか?」

「探したくないです」

「まあ、これに関しては私が自分で用意するさ。安心しろ」

「はあ……それならいいんですけど」


 探さなくてもいいのならそれはそれでいいが、少女はなぜ、魔女がこれ程落とし穴に固執するのか分からない。


 自分みたいな人間対策という言葉を思い出すが、まさか自分はかなり嫌われているのではないかと思った。


「わたしのこと、追い出したいんですか……?」

「なにを言っている?」

「わたしみたいな人間対策って言ってたんで。あと落とし穴完成させるために頑張ろうとしてるんで」


 少女は魔女に半目を向ける。


 魔女は表情を動かさず、腕を組み少し考える。このことを少女に説明するべきだろうか?


 この少女がずっとここにいるのなら、話してもいいのかもしれない。


 魔女は一口紅茶を飲んでガラス窓に目を向ける。


「まだ、夜までには時間があるしな」


 夜になると、この少女は星を見たがるだろう。


「昨日言ったな。私はお前みたいな星好きに迷惑をかけられたことがある。と」

「あー、なんか言ってましたね。『私はお前がここにいるのは反対なんだ』とかも言ってましたけど」

「そういえば言ったな。よし出ていけ」

「嫌ですー」


 少女の言葉を無視して魔女は続ける。


「元々ここにいたヤツも、星が好きだった」

「元々ここにいた?」

「お前にその地図を渡したヤツだ」

「そんなのたまたまですって」

「たまたまな訳がないだろ。私はこの忘れ去られた博物館の地図を全て処分したはずだからな。ああ今思い出した。アイツは地図を一枚持っていた。記念に取っておくと言ってな」


 もし魔女の言ったことが事実だとして、なぜその人物はその一枚を少女に渡したのか。


 魔女はその理由を考えるのを後にして、少女への話を進める。


「もう何十年も帰ってこないからどこかで野垂れ死んでいるかと思ったが、お前にその地図を渡したんだ。精々数年前の話だろう。何十年も外で生きることができているヤツが、この数年で死ぬ訳がない無い。だったら帰って来るかもしれない」

「だから落とし穴を……?」


 魔女の言葉に棘はあるが、それにしてもなぜ落とし穴なのだろうか。


「いきなり出て行ったからな。帰ってきた時に恨みぐらいぶつけさせろということだ」


『怨み』ではなく『恨み』を持っている。言葉の違いを少女は知らないが、魔女のこれまでの言動を合わせてふと思った感想——。


「館長その人のこと大好きなんですね」

「は?」

「すいませんなんでもないです」


 急に魔女の目が据わったため慌てて頭を下げた少女。その頭に、魔女は冷たい声をぶつける。


「だったら探しにいっている」


 ぶるりと身震いをした少女は、チラッと魔女の表情を窺う。目が合った。とても冷たい目だった。


「そういうヤツがいてな。色々好き勝手するヤツだ。お前みたいにな」

「館長の方が好き勝手してません……?」


 ようやく少女が顔を上げると、薄く微笑んだ魔女がいた。


「私は館長だからな」

「うっわー」


 笑いながらなに言ってんだと思ったが、魔女の雰囲気がいくらか柔らかくなったため不満を口にするだけに終わる。


 再び紅茶で喉を潤した魔女は、残っているケーキを小さく切り崩して口に運ぶ。


 ちなみにホールケーキの半分以上は少女が食べている。


 再び静かな時が訪れる。もうしばらくすると空で星が煌めく時間だ。今日もあのガラスドームの下で寝ようと少女は考える。ただ、下に敷く布団や枕が欲しい。


 ケーキが全て無くなってから、少女は魔女にお願いすることにした。


「枕とか欲しいです」

「土嚢でいいか?」

「ちょっとやってみたいなって思ってましたけど!」

「なんだ、土嚢を知っているのか」


 目を丸くした魔女に少女は視線から身を隠すようにして、小さな声で言う。


「まあ……頻繁に聞く言葉でしたから」

「言葉だけか?」

「いや、よく運んだりしましたよ。もうあまり記憶が無いんですけど、なんだったかなー……よく運んでいて、これ枕にしたら良さそうだなって思ってたんですけど……」


 腕を組んで考え込むが、やはり思い出せない。印象的なことは憶えている——のなら、ここまで記憶に穴は無い。別に困ってはいないのだが、どことなく気持ち悪さを覚えてしまう。


「そうか。だが土嚢を枕にするのなら外で寝てもらうぞ」

「自分から提案して外へ出ろってなんなんですか‼」

「当然だ、床が汚れる」

「誰も来ないのに⁉」

「関係無いだろ」

「確かに‼」


 ゴンッ、とガーデンテーブルに額を打ち付けた少女を呆れた目で眺める魔女はおもむろに立ち上がる。


 気が付けば太陽は沈んでいて、二人を照らすのは館内の照明のみ。今日はあと、展示物の点検をすれば終わりだ。


「今日ももう終わりだ」

「あっ、ホントだ。星見てきます‼」


 ガラスドームの下に駆けて行く少女を見て、いつもの様子(出会って二日目)でホッとした魔女。


 少女は軽く言っていたが、本人も気づいてないのだろうか。なにかを思い出そうとするとき、とても辛そうな顔になるのを。


 別にその理由を詮索しようとは思わないが、もう少女にここへ来る前のことを思い出させるのは控えようと決める。


 ここは忘れ去られた博物館。世界には残せない、忘れるべき物のための場所。それはここに住む魔女と少女も例外ではない。

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