星の魔女 3
ルーナの視線に刺されながらも、エミは慎重に物を動かして探す。
星に関係ある物は全部展示していると言っていたのだが、実際は全部展示していなかったのだ。
頑張って探せば、星に関する展示物が見つかるのではないか。見つかればルーナに文句を言ってやろうという気持ちも持ちながらエミは探している。
そんな物が多すぎる倉庫だが、不思議と埃臭くはない。
定期的に掃除しているのだろうか、埃一つ見当たらないのだ。
「なんか綺麗ですよねー」
「アイツが先に掃除していたんだろ」
「へー、そうなんですか」
「これなんていいんじゃないか?」
「なんですか? それ」
ルーナは小さなクッションを持っていた。
「ブーブークッションとのことだ」
クッションについているタグを見たルーナが答える。
「とりあえず座ってみろ」
エミに放り投げ、訝しんだが素直にエミは床にクッションを置いてその上に座った。
するとブーっとまるでエミが放屁したような音が鳴る。
「ちょっと⁉」
慌てて立ち上がったエミに腕を組んだルーナが声をかける。
「恥ずかしいか?」
「驚きの方が大きいです!」
「そうか。これはかつて、とある国の姫が学院に通っている時、イタズラで仕掛けられた物らしい。高貴で身分の高い者にとっては、それは大層恥辱的だ。だからこの忘れ去られた博物館に持って来たらしい」
ルーナが話したこのクッションの経緯を聞いて、エミはなんとも言えない表情でクッションを取る。
このタグにその説明が書かれていたのだろう。文字の読めないエミにはさっぱりだ。
「要するに恥ずかしいから忘れたいってことだ」
「なるほど」
するとエミはクッションをルーナに突き出した。渡すのではなく突き出した。
「なんだ?」
「館長は座らないんですか?」
「言葉の割には座らせようとしているな」
ルーナはローブから杖を取り出しクッションに向けた。
「それ、ズルくないですか?」
「ズルくない」
杖を振ると、クッションはエミの手から弾き飛ばされた。そして宙に浮いたクッションへ向かって再び杖を杖を振る。
そのままクッションはルーナとエミがやって来た方——つまりヒマワリのいる方へ飛んでいった。
「もー!」
再びブーっと音が鳴るとヒマワリの声が聞えた。
エミは困った人を見るような目でルーナを見る。
「お前はその目を向けられる側だろ」
「はいはい。遊んでないで探しましょうよ。あっ、こんな所に本がありますよ」
どこか余裕を感じさせるエミが物をどけると、下敷きになっていた一冊の本を見つけた。エミは拾い上げた本をパラパラと捲りふっと笑った。
「読めませんね」
「見せてみろ」
そう言いながらもエミから本を取り上げたルーナ。
「これは……日記だな。ん? この写真、どうりで読めない訳だ」
日付と文字が書かれたページに挟まっていた一枚の写真を見たルーナは、その色褪せた写真をエミに見せる。
「あっ、さっきの人」
「ちょっとルーナ、人に向かって飛ばさないよ……どうしたの?」
クッションを持って来たヒマワリは二人の雰囲気を見て眉根を寄せる。
そんなヒマワリの眼前に写真を突き出したルーナ。写真を見せられたヒマワリは更に眉間の皴を濃くした。
「どこにあったの?」
「わたしが見つけました」
「下敷きになっていたらしい」
「えー。おっかしいな~」
「この日記に挟まれていた」
日記を受け取り、中を確認したヒマワリは大層疲れた様子で、ため息混じりに呟いた。
「どーいうことだろ……」
「なんだ? 私は興味ないぞ」
「それでいいんだけどさ。でもちょっと一緒に考えてくれない?」
「断る。おい、他の場所を探すぞ」
あからさまにヒマワリを避けているルーナは、興味深そうに日記を覗き込むエミの首根っこを掴む。
「えー、わたし興味あります」
「そうか。なら私は戻る」
それもすぐ離して、ルーナは倉庫から出ていくのだった。
◎
ルーナが出て行ったことで光の蝶が消え、倉庫は暗くなる。すぐにヒマワリが光球をランタンに灯し、再び部屋は明るくなる。
「館長機嫌悪いですね」
「うーん。まあ機嫌が悪くなったね」
機嫌が悪くなったルーナの下へ行きたいのだが、行くにはエミを置いて行かなければならない。そしてこんな場所に置いてきてしまうとエミのことだ、なにかを壊すに違いない。
かといってエミと共に行くのも違うし、もしエミと行けばルーナは更にへそを曲げてしまう。
そしてなにより、ルーナのあんな姿はエミといえども見せたくない。
「どうしよう」
「なにがですか?」
「ルーナのとこに行きたいんだけどエミちゃんを置いて行けないし、でもエミちゃんと一緒に行くのは違うし」
「……やっぱりわたしっていらないですか?」
「いるよ。それは絶対。僕もそうだけど、エミちゃんいなくなったらルーナが更に面倒になるよ」
「館長のこと面倒だと思ってたんですね」
「だって面倒でしょ?」
「はい」
「そこが可愛い所でもあるんだけどね」
「わたしには理解できそうもないですね」
困れば一人で抱え込まずにこうして誰かに伝える。それが三人で上手く過ごすのに欠かせないことだ。
エミも腕を組んで考えて、考えて考えて唸って考えて——妙案思いついたと右こぶしを左の手のひらに打ち付けた。
「わたしがじっとしとけば解決ですね!」
「できるの?」
ヒマワリの問い掛けに、フッと笑ったエミが、ヒマワリの肩に手を乗せて頷いた。
「……ちょっと待っててね」
ヒマワリは倉庫の奥に進み、並ぶ本の背表紙に指を沿わせて目的の本を探す。
そして見つけたのは両手で抱えなければ持てない大きさの本だ。
「図鑑だよ。写真だから文字読めなくても楽しめると思う」
それを大人しく待っていてくれたエミに渡す。
「なんの写真ですか?」
「星の」
「そんなものが⁉」
受け取ったエミは床に図鑑を置いて早速ページを捲り始める。
「全部展示してるって言ってたのに」
「まあ本は基本的に展示してないからね。じゃあ僕はルーナのとこに行ってくるから、エミちゃんは待っててね」
「はーい」
図鑑は分厚いし、エミの大好きな星が載っている。戻ってくるまでに読み終えることはないだろう。
倉庫から出る直前までエミから目を離さず、ルーナがいるであろう自分の部屋へと急ぐのだった。




