星空の街 6
駅についてもすぐに汽車は来ない。
汽車が来るのを待っていると、太陽は沈み、星が主役の時間がやって来る。
どこまでも広がる星空の下、汽車を降りた三人は森を目指して歩いていた。
「綺麗だと思わない? ルーナ」
「興味ないな」
「やっぱり外って良いですねー」
「今夜はここで過ごすか? お前だけ」
「帰りますよ! 帰る場所があるから、わたしもこんなこと言えるんですよ!」
「……そうか。なら早く帰るぞ」
星空を見上げながら歩く二人を見ながら歩く。そして最初出てきた森にやって来た。
「じゃあ戻りますか。僕達の家に」
森の中に足を踏み入れる。木の根がそこかしこに伸び、夜ということもありかなり歩きにくい。
「転ぶなよ」
ルーナが杖を振り、光の蝶で道を照らす。
「ルーナも手を繋ぐ?」
「巻き込まれるのはごめんだ」
「僕らが転ぶ側なんだ……」
足元の悪さもあり、喋る軽さとは反対に慎重に歩き、進んでいく。
そうやって三人が足元の悪さに注意して歩いていくと、気が付いた頃には、木のトンネルを歩いていた。
「よかった……。戻って来られたね」
足元も歩きやすくなったことにより、歩く速度は速くなる。またすぐに足元が悪くなったが、それは博物館が近づいている証拠だ。
そして博物館が木々の隙間から姿を現した。
「無事に帰って来られてなによりだ」
光の蝶が入り口の扉に当たる。
ガチャン——と音が森に響く。それと同時に、館内に明かりが灯った。
「たーだいま」
一番最初に入ったヒマワリに続いてエミ、ルーナが入る。
入る時に靴を綺麗にするのは忘れない。
扉を閉め、しっかりと施錠を確認する。
今日は長い一日だった。布団をガラスドームの下で広げている二人を尻目に、ルーナは地下へ続く階段を下りる。光の蝶に照らされ、帰って来た部屋。そのテーブルの上には黒いブレスレットがある。
それを取り、再び地上へと戻る。
「館長見て下さいよー! 星‼」
「邪魔だ。まずは夕食だろ」
いつもの夕食の時間には遅いが、別に遅くても問題無い。
流れるような手つきでヒマワリの手首にブレスレットを装着すると、ヒマワリは呆れたように言う。
「別にいなくならないってば」
「なら付けていても問題ないだろ」
「確かに」
すんなりと納得したヒマワリである。
「先にお風呂にするよ。汗かいちゃったし」
「勝手にしろ。私は先に食べる」
「ルーナもたまにはお風呂に浸かった方が良いんだよ」
その言葉にルーナは適当に返して、食事を取りに行く。
「あっ。わたしもご飯食べたいです」
その後を追いかけるエミ。
布団のセッティングは終わっている。
置いて行かれたヒマワリは、見下ろせば見られる星空を、少し面白いなと笑み浮かべてお風呂へと向かった。
◎
ヒマワリがお風呂から上がると入れ替わりでエミがお風呂に入る。
食事を用意したヒマワリは、まだ食べているルーナの前に座る。
「久しぶりだね。こうして二人で食べるの」
「八十三年ぶりだ」
「うん。八十三年ぶりだ」
ルーナの前にある筑前煮を勝手に食べる。睨まれたが、気にせずヒマワリは言葉を続ける。
「外。どうだった?」
「…………知らん」
小さな声で、二人しかいないから聞こえる声でルーナは返す。
なぜルーナがそう返したのか。理由を解っているヒマワリは、調子を変えて言う。
「博物館の天井って行けるの?」
「外に出る時、痛みを我慢できるのならいけるんじゃないか?」
「それは嫌だな。じゃあさ、今日は一緒に寝る?」
「狭いだろ。あとお前の布団は埃臭そうだ」
「じゃあ今日も僕が行くよ」
「ふんっ、勝手にしろ」
部屋に来られるのは拒まないのかと、思わず頬が緩んでしまう。
「じゃあ早く食べなよ。君は食べるのが遅いんだから」
「分かっている」
そして、ルーナが食べ終えたのはエミがお風呂から上がってきたと同時だった。
「えっ、今まで食べてたんですか……?」
どんだけ食べるの遅いんだよ、とでも言いたげなエミを無視して食器を片付けに行く。
片付けるといっても、食事を作る機械の中に入れればそれで終わりだ。そうすることによって、自動的に機械が洗浄をしてくれるらしい。中を見たこと無いから、実際にはどうなっているのか知らない。
食事を終えれば、次は夜の点検と清掃だ。
ヒマワリも手伝ってくれるため、今までの倍の速さで終わる。これで今日の終わりを迎える準備はできた。
もう寝ているのかと思ったエミを見ると、再び展示台に戻った天球儀を見ていた。
「触るなよ」
「同じ過ちを繰り返すと思っているんですか?」
「思っている」
「酷いですね」
まあいいです、とエミは続けた。
「これも、隕石が関係しているんですか?」
「してない。ただの天球儀だ」
「えっ、じゃあなんでここに……?」
世界には残せない、忘れるべき物のための場所。そんな場所にある天球儀がただの天球儀な訳がない。そう思っての言葉だ。
「例えばだ。お前が世界で初めて星を見つけたとするだろ?」
「え、まあ、はい」
突如始まった例え話に、エミは真剣に考える姿勢を取る。
「それをお前は世界に向けて発表するんだ。自分が世界で初めて星を見つけたということを。そうだな……紙に書いてだ。証明書みたいな紙だ」
「切符みたいな物ですね。私が見つけたっていう」
「そうだ。しかし、ある日見つけてしまったんだ。同じことを書いた紙を。お前が発表する、遥か昔に書かれた紙を。するとお前の発見はどうなる?」
「そりゃあ、わたしは二番目です」
「そうだ。お前が初めて星を見つけたはずが、実はお前よりも先に星を見つけたヤツがいた。その紙を発表すれば、その事実が世界に広まってしまう。お前はよりも前に見つけた人がいる、と」
そこまで説明すると、エミは大きく手を叩いた。
「だったらその昔の紙を忘れれば! わたしが一番のまま!」
「正解だ」
「うーわ……」
天球儀に同情の目を向ける。そんな理由で忘れるべき物にされた天球儀は、当然なにも答えない。
「本当の世界最古の天球儀ってことだね、一応は」
そこで仕事を終えたヒマワリも合流する。
「今外にある、世界最古の天球儀を作った人がここに持って来たんだよ。『我の功績が~』ってみっともなく」
「ロクな経緯が無いぞ、ここにある物は」
「星は綺麗なんですけどね……」
悲しくなってきたエミは、全く関係の無いことをぼやきながら、布団へ潜りこむことにした。
「あ~、ダメですね……すぐねむっちゃいそーです……」
疲れと寝心地の良さで、星を眺めることができず、今度はどことなく悔しそうなエミであった。




