星空の街 5
広場の露店は飲食物だけだが、そこから離れると飲食物以外のお店が軒を連ねる。外からも見えるようにガラス張りの壁になっており、ディスプレイされている雑貨などは、星空を模した物ばかりだった。
「うわ~、いいなぁ~」
今エミが見ているのは星空を模した食器だった。
「あ。この満月のお皿とかルーナにピッタリじゃない?」
「いらん」
ヒマワリも食いついていた。
「わたしあのコップ欲しいです。飲み物を注ぐと星空が浮かび上がるみたいです!」
「コップなら大丈夫かな?」
ルーナの表情を窺う二人。
「さっさと買いに行け」
「やったー!」
買いに行けと言ったものの、ちゃんと二人についていくルーナである。
買い物袋は、この街は全てのお店で共通しているらしく。星空を模した袋だった。物凄い星空の推しようである。
そんなコップの入った袋を大切そうに抱えながら、今日の目的の店を探す。
雑貨店などとは違い、寝具を売っているお店は少ない。大都市ならまだしも、この規模の街なら一軒か二軒ぐらいだろう。
ヒマワリの記憶とやはりお店は違うらしく、三人で街を練り歩くことになった。
回復したはずの体力が再び減ってきた頃。ようやく二本目のチュロスを食べた終えたルーナ。やはり歩いて食べられる物を買って正解だった。
「あ。あった」
それからも歩き、ようやく寝具を取り扱っているお店を見つけた。寝具という性質上、この街の住人を対象に商売をしているせいか、雑貨店みたいにガラス張りの店舗ではなかった。当然窓はあるため、覗き込めば中を窺うことができるのだが、そうするためには足を止めなければならない。それができなければ、この店を見つけるのはぶら下げられている看板を見つけるのみだ。
「やってるかな?」
明かりはついていたのだから営業しているはずだ。
「営業中と書いている」
「言ってみたかっただけ。ほら、早く食べないと中に入れないよ」
急かしたかと思えば、ルーナの持つ最後のチュロスをヒマワリが食べた。文句を言いたげなルーナだったが、文句の代わりに脂のついた手をヒマワリの服で拭いてやった。
「うわっ、それはないって」
目に見えて落ち込んだヒマワリにカップも渡して、ルーナは店の扉を開けて入った。
カランッと来店を告げる鐘の音が鳴り、店の奥から店主と思しき女性が現れた。
「いらっしゃいませ、おや観光客かい? 珍しいねえ」
その女性はルーナたちを見て目を丸くする。しかしすぐに表情を引き締め、接客に入る。
「こんにちは。枕を探しているんですけど、ありますか?」
なにも喋らないルーナの代わりにヒマワリが対応する。
「いっぱいありますねぇ……」
興味深そうに店内を物色するエミを見てヒマワリは言う。
「この子の枕です」
店内にはベッドが全部で四つ並んでおり、それぞれ違うベッドのようだ。そして壁には枕や布団のカバーなどが置いてある。
「枕ならこちらに。試してみますか?」
「エミちゃん。試させてもらおう」
「はい!」
枕を試すということで、エミは店内のベッドで横になる。
「ふかふか……⁉ ベッドって凄いですね……!」
そして女性がいくつかの枕を持って来てくれた。
「小さい子なら、高さのある枕がオススメですよ」
そのうちの一つを 受け取ったエミは頭の下に枕を敷いて寝る。
「なんですかこれぇ⁉ すっごい楽で気持ちいいです!」
エミのリアクションに女性は嬉しそうに笑う。他の枕を試してみても、エミのリアクションは同じだった。
「ハードルが低いんだよねえ……。そうだ、星空を模した枕カバーとかあります?」
ヒマワリの質問にも女性はすぐに答えた。
「はいこちらに。定番の星空柄ですけどね、ご用意していますよ」
持って来たのはこの街で使われている星空の袋と同じデザインの枕カバーだった。
「これが良いです‼」
「そりゃあ良かった」
エミが選んだのは一番面積の大きい枕だった。
「じゃあ敷布団だね。同じ柄のカバーはあります?」
せっかくなら、もう寝具一式を買って帰る方がいいだろう。ただ枕と違い、布団などは大きくて重たい。男性であっても、持って帰るのは至難だ。そんな布団をましてや女性が持って帰られるとは思わない。
「ございますけど……持って帰るのが大変では……?」
しかしそれは、普通の女性ならの話だ。
「大丈夫なんです。こう見えて僕達色々できますから」
「そうですか……」
心配だが、客が大丈夫だと言っているのなら大丈夫なのだろうと、女性は同じ星空の布団カバーを持って来た。この柄なら、エミはなんだって良かった。
とりあえずマットレスはどれがいいかだけ試して終わり、後はお会計だけである。
「毛布」
「え?」
お会計の直前、ルーナがヒマワリに言う。
「アイツが使っているのは私の毛布だ」
「ああ、確かに」
それを女性に告げると、毛布ではなかったが、掛け布団と星空の掛け布団カバーを用意してくれた。これで今度こそお買い物終了である。
お金を払い終え、一応大きな袋に入れてもらった寝具一式。枕だけはエミが抱えているが、布団類をどうするかだ。
「あの、お客様、本当に大丈夫ですか……?」
「大丈夫ですよ——っと。じゃあ、ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
ぺこりと、ヒマワリと同じく布団類を抱えたルーナは会釈をして店を出る。
「あっはい。お気をつけて」
女性に見送られ、少し日が傾いてきた街の中を歩く。
「ひー、重いぃぃっ……」
「おい、もういいんじゃないのか?」
「外までは我慢……」
「大丈夫ですか?」
「なんだ持ってくれるのか?」
「あっ、余裕そうですね」
「はいはい、口よりも脚を動かしてね」
三人は足早に街の出口を目指す。
「別に忘れられるんだからいいんじゃないのか?」
「でも人が多すぎるとなにが起こるか分からないから、一応ね。はあしんどい」
それから三人は黙々と街を速足で進む。そしてようやく街の外へ出ることができた。とりあえず出たところで荷物を降ろして呼吸を整える。
「疲れた。もう後はお前が運べ」
「え~。もう、仕方ないなぁ」
「それで、どうするんですか?」
嬉しそうに、袋の中を覗いているエミの質問にヒマワリは得意げに返す。
「こうするのさ」
取り出した杖を布団の入った袋に向け、杖の先を上に向ける。すると袋は事に浮き上がった。
「こうすれば、どんなに重たい物でも楽に運べるんだ」
「便利ですよね。それって、わたしもできるようになります?」
「無理だ」
「うわ即答」
「さっさと帰るぞ」
ルーナに急かされ、三人は駅を目指すことにした。
この星空の街へ繋がっている汽車は二つ。ルーナ達が乗って来た路線は、人の少ない田舎の路線。他の駅で降りても、この星空の街程栄えていない。
もう一つの路線は、国の中心に向かう路線だ。この路線は途中で汽車から電車に乗り替わる。
利用客は当然、もう一つの路線の方が圧倒的に多い。
日暮れが近づき、宿に向かうか帰路に就くかの二つに分かれる時間帯。そんな時間でも、この路線の利用客は殆どいない。なんとなく寂しさを感じてしまう道を三人で歩く。
「なんかわたしが一番重たいですよね」
「全てお前のだ。当然だろ」
「でも館長は——」
「持たん」
「意地悪ですね」
「……いや、持ってやる。だからお前は疲れて転ばないようアイツに手を繋いでもらえ」
「はーい、僕の左手空いてるよー」
ひらひらと手を振るヒマワリと素直に手を繋ぐエミである。




