星空の街 3
ヒマワリがお金を払い、目的の駅で降りるた三人。駅舎を出るともう街は見えていた。
「うわ、人が多い……⁉」
「そうだな……」
エミは人の多さに驚き、ルーナは顔を顰めていた。
「この街は星空の街って名前で、その名の通り夜は星空が綺麗なんだよ」
そしてヒマワリはこの街の特徴を嬉々として説明していた。
「だからここは観光名所にもなっていて、売ってる物が星空を模した物が多いんだ。エミちゃんが気に入る寝具も見つかると思ってね」
「星空を模した……?」
「星空のデザインという意味だ。よかったな、早く選んで早く帰るぞ」
「星空見て帰りましょうよ〜」
「断る」
ぷいと顔を背けたルーナと不満そうなエミに挟まれたヒマワリは困ったなと思いながら、上手く場が収まる方法を考え、そして思いついた。
「そうだ、あそこに白い建物があるでしょ?」
この街全体は星空を見やすくするためか、暗い色の建物が多い。しかしある一つの建物だけは白くて、目立つ山の上にある。結構離れているが、道はそこまで続いており、人の姿も見える。
「なんですか?」
「あそこは天文台。確かあそこには夜空の写真がいっぱいあったし、天体望遠鏡を使えば、昼間でも星を見ることができるんだよ」
「お昼でも星を⁉」
「一部の星だけだけどね。でも、昼間に見るのはまた違った特別感があるよね」
「ならそれで我慢だな」
「行きましょう! 今すぐ! 先に星です!」
寝具のことなど忘れて、結構離れている天文台まで全力で走り出そうとするエミ。
こうなれば早く見せて黙らせた方がいいと、三人はまず最初に天文台へ向かうことにした。
天文台へは、街の周囲からでも向かうことができる。人混みの中を通らなくてもいいのが救いだ。駅から街に入らず、天文台に向かっていると、歩いている場所が高いため街の全容を見渡すことができる。
街の建物は高くても精々三階程度。そして星空を見る場所なのだろう、街の所々に開けた場所がある。
観光名所として栄えているため、懐かしさを感じる街並みだが、整備はされていて全体的に綺麗な街だった。
「腹が減ったな」
「館長が食べるの待ってたら日が暮れますよ。あっ、この後お昼ご飯にしましょう!」
「食わん。すぐに帰ればいいだろ」
「まあまあ、軽く食べれる物あるし、それ食べながら歩けばいいよ」
ルーナの食事の食べる速さがかなり遅いため、全員お昼は食べていない。しかし時刻は昼を回っている、露店でも出ているのだろう、美味しそうな香りが鼻に入り、三人のお腹は鳴き声をあげる。
「……でも先に星を見ましょう!」
溢れ出る唾液を飲み込みながら、エミは天文台へと力強く歩み出す。
天文台に近づくにつれ、周囲の人も多くなっている。人が多くなればなるほど、エミのヒマワリを引く力は強くなる。
「焦んなくてもちゃんと見られるよ?」
「でも早く見たいんです!」
天文台に向かう者もいれば、天文台から戻って来る者もいる。そうなると自然と流れができ、向かう者と戻ってくる者で道の幅が半分になってしまう。かき分けて行くことができず、大人しく流れに身を任せることしかできない。
「落ち着け。別に止まっている訳じゃないだろ」
幸いにも、常に動き続けているため、それ程苦にはならない行列だ。
◎
ようやく天文台に入れる順番がやってきた。列ができていたのは、入場料を払わなくてはならないからだった。
「あれ、お金取るようになったんだ」
「お前、この街に来るのは何年ぶりだ?」
「七十年は経ってるね」
それだけの時間が経っていれば、細かなことは違っていても不思議ではない。むしろこの街は変わっていない方に入る。
ヒマワリが三人分の料金を払い、三人は中に入った。
「でも中は変わってないね」
天文台は、大きな天体望遠が置いてあるドーム屋根の建物の他、長方形の建物が付いている。
「なんか博物館と似てますね」
「同じようなものだよ。こっちの方が小さいけど」
違うのはドーム屋根がガラス屋根かどうかと、星降る博物館の方が石造りでかなり古いということだ。
並んでいたのは外だけだったらしく、中に入ればそれなりに自由に動くことができた。
「ほら、早く観に行け」
建物の中の壁には、星空の写真が壁を埋め尽くすように並べられている。そこかしこに星空にまつわる展示があり、エミは目移りしている。ヒマワリも楽しそうに見ている。
「そうでした!」
天体望遠鏡は、そこだけは人が並んでいる。ただ、その周囲にも写真や展示があり、並ぶのは苦にならない。
楽しんで並んでいる二人とは対称に、ルーナは眉間の皺を濃くしていた。
「ねえ見てルーナ、月の写真があるよ」
「そうか」
反応が芳しくないルーナの耳元に口を寄せ、ヒマワリは他に誰も聞こえない声で問う。
「……疲れた?」
「かもな」
冷たく、吐き捨てるように吐いたルーナは腕を組み目を閉じる。
他の理由が大半を占めているのだろうが、人が多くて疲れたというのも少しあるのだろう。そしてエミも自分が気づいていないだけで人の多さに疲れているはずだ。
エミの順番がやってきて、大きな天体望遠鏡を覗き込む。見える方向は固定されており、今回向いているのは月のある方向だった。
「おお……おおー! おおー‼」
エミのリアクションの二人で眺める。望遠鏡から目を離して肉眼で見て、その後すぐに望遠鏡を覗き込む。
やがて満足したエミは、笑顔で二人の下へ戻ってきた。
「なんか味気なかったです!」
これにはルーナですらもズッコケそうになった。
「楽しそうだったのに……?」
とりあえず望遠鏡から離れる。出口を目指しつつ、エミの話を聞く。
「光り輝いてるのが好きなのかと思います。夜の星みたいに」
「なーるほど。それは期待外れだったかな?」
「いえ、むしろ自分の好きを再確認できて良かったです! 普通に楽しかったですし」
「なら良かった。早くお前の枕を買いに行くぞ」
「はーい」
楽しかったが、期待していた程では無かったため、一気に疲れが出てきたのだろう。素直に頷いて、三人は早々に建物を出ることにした。




