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星降る博物館  作者: 坂持


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19/29

星空の街 2

 木々が生い茂る森の中、葉を照らし降り注ぐ太陽の光。真昼の森に、心地の良い風が吹き抜ける。


「なんか……いいですね……来る時とはまた違った感じです」

「そうでしょ? ルーナはどう? 外に出るの百年以上ぶりじゃない?」

「知らん」


 ——こんなに楽しそうに歩くのか。


 半歩後ろ歩きながら、ルーナは思わず口を衝いて出そうになった言葉を飲み込む。この言葉で蓋をしなければ、とめどなく言葉が溢れ出てしまう。


 深呼吸をしたルーナは一度後ろを振り向いた。


「……見えなくなったな」

「ん? ああ、そうだね。でも大丈夫、あの場所は無くならないよ」


 歩く速度を遅くし、ルーナに並ぶヒマワリ。ヒマワリと手を繋いでいるエミももちろん同じだ。


「もう少ししたら、景色が変わってくるかな」


 それから歩くと、ヒマワリが言った通り辺りの様子が少しずつ変わってきた。木々の並びが、どこか規則的になってきたのだ。まっすぐ歩くことができない森の中から、真っすぐにしか歩けない森になってきた。


「外にもこんなことがあるのか」

「ううん、まだこれは博物館の中みたいなものだよ」


 木が並び、重なり合いトンネルを作る。地面は落ち葉が埋め尽くし、歩く度にしゃりしゃりと楽し気な音が鳴る。太陽の光が照らし、行く先を光のカーテンが覆う。


「あの先が、外の世界だよ‼」

「この景色覚えてますよ!」


 はしゃぐヒマワリとエミに置いていかれそうになるルーナ。その手を、ヒマワリは優しく、されど力強く握る。そして駆け出し、広い世界へ飛び出した——。


 光をくぐると、目の前に広がるのは緑の草原。目を凝らせばベージュの石で作られた家が点在しているのが分かる。


 空はどこまでも広がる青い空。博物館にいては絶対に見られない景色。


「夜はこの空を星が埋め尽くすんだよ!」


 その言葉を聞いたルーナの、ヒマワリの手を握る力が強くなる。


「それを見る時間になる前に終わらせるぞ」

「ルーナにも見てほしいんだけどなぁ」

「そうですよ」


 ルーナはヒマワリを引っ張りながら剥き出しの土でできた道を歩く。どこに行けばいいのか分からないが、この会話はしたくない。


「まずは駅に行こうか。多分だけど、エミちゃんはこの場所知らないよね?」


 ヒマワリに話を振られ、エミは周囲を確認した後答える。


「無いですね。あれ? あの木のトンネルは通ったんですけど……」


 あの道は通ったのだが、そこに行くまでの道のりで、こんな長閑で綺麗な草原は通っていない。


 それはどういうことなのだろうか? その疑問の答えは無い。


「でしょ? 僕もいまいち分からない!」

「えぇ……」

「来るのは多分、地図を見ればなんとでもなるけど、出る時はランダムっぽいんだよね。……でもあの博物館に人が来ている時は来た場所に戻れてたはずだし……えっ、分かんない」

「わたし達戻れますよね……?」


 ヒマワリが不安になることを言ったせいで、エミも不安になってしまう。


「それは大丈夫」


 帰れなくなることは無い。そこは自信を持って言うことができる。


「百年以上住んでいても分からないことってあるんだなぁ……」

「なにを一人喋っている。駅ということは、汽車でも走っているのか?」

「あ、うん。ここら辺はまだ汽車だから。発展している国なら、電気で走る電車っていう乗り物もあるよ」

「電気? 雷でも使えるようになったのか?」

「それは無理なんだって。雷が強すぎるみたい」

「そうか」

「また二人で難しい話してる……。わたしにも分かる話してくださいよ」


 また会話に置いていかれそうになったエミは、三人でいるのなら、三人で話をしようと唇を尖らせた。


「そうは言っても、もう駅が近いしなぁ」


 そうこうしているうちに、草原の中に灰色の道が現れた。それは整備された街道ではなく、よく見ればその上に二本の鉄製の棒が伸びており、等間隔に木が枕のように敷かれていた。


「これが線路だ。汽車が通る。蒸気で動く。汽車に乗れば歩かなくても移動できる」

「おー、流石館長。分かりやすい」


 その線路の近くには木でできた小さな建物が建っていた。線路を左右から挟むようにだ。


「これが駅舎。汽車はここに止まって、その間に乗り降りをするんだよ。次が来るまでまだ時間かかりそうだね。取りえず座ろっか」


 駅舎はなだらかなスロープになっており、その上を歩くと木の軋む音がした。三人で手を繋ぎながら駅舎の入り、人のいない駅のベンチで座る。


「なにも無いな」


 まっすぐ前を見つめながら、暇そうにルーナが呟く。


「まあ、そういう場所を選んだからね」

「ランダムじゃなかったのか?」

「ランダムだよ! でも、人の少ない、長閑な場所の方が良いなーって願いながら歩いていたから」

「別に私は街の近くでも良かったんだぞ」

「でも、エミちゃんは疲れちゃうかもだったし」

「わたしはこういう場所の方がいいでーす」

「ほらね☆」


 誇らしげなヒマワリである。


                     ◎


 それからエミの疑問に答えたり、中身の無い話をして時間を潰していると、腹の底に響く音と嗅ぎ慣れない臭いがした。


「おっ、来たね」


 立ち上がったヒマワリの視線を追うと、線路の上を巨大で黒い鉄の塊が黒煙を吐きながらやって来た。その迫力にルーナも感心し、エミは声を上げていた。


 黒い先頭車両が三人の前を通過して、その後ろには動く家とでも言える、客席の車両が二両連なっていた。駅にはその客席が止まる。汽車が大きな息を吐き、扉がスライドして開いた。一番後ろの車両から二人、人が降りて、それと入れ替わるように三人はヒマワリを先頭にして、一番前の車両から乗り込んだ。


 中は向かい合わせのボックス席。満席にはなっておらず、座る場所を選ぶことができる。


 扉は車両の左右にあり、乗り込んだ三人の向かいにも同じ扉がある。ヒマワリはその向かいの扉の上を見る。丁度扉と天井の間のスペースだ。そこにはこの汽車が止まる場所が書かれている。


「少し、汽車を楽しむ時間になりそうだね」


 一番近くの席に座る。四人が座れるその席に、ヒマワリとエミが並び、向かいにルーナが座る。


 扉が閉まり、ゆっくりと汽車が動く。


「動きましたよ」


 窓に顔を近づいているエミである。


 程なくして、制服と帽子を着た人物が歩いてきた。


「切符です」

「ありがとう」


 小さなエミでも片手で隠せそうな、小さな長方形の紙を三枚、ヒマワリが受け取る。


「なんですか? それ」

「切符だな」

「そう。この駅から乗りましたっていう証明証みたいなもの。これを降りる駅が近づいたらさっきの車掌さんに渡して、その分のお金を払うって感じ」

「おー……なんかいいですね」

「無くすなよ」


 受け取った切符をまじまじと見るエミにルーナが言う。


「無くしたらどうなります?」

「お金がかなりかかる」

「えっ、じゃあ預かってください……」


 大人しく切符をヒマワリに返す。この路線ならそ無くしてもそれは無いだろうが、無くされたらそれはそれで車掌に申し訳ないため、預かることにする。


「このシステムは変わっていないのか?」

「いや、こういうかなり田舎の路線だけ。国の中心とかにいけばもっと便利だよ。改札っていう、自動で色々やってくれる機械がある」

「そうか。便利な世の中だな」

「そうだね。でも、また同じ結末に行きつくのかもしれない」


 少し空気を重たくしてしまったと思い、慌ててヒマワリは違う話題を振る。


「どう? 早いでしょ、エミちゃん」

「はい! なんかもう歩くのが嫌になりますね。これで移動したいです」

「そんな広さは無い」

「そこはなんとかしましょうよ」

「煤で汚れるしうるさいだろ」

「館長の意地悪~」


 空気を重たくしてしまったと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。


 それに少し安心して、ヒマワリも汽車の旅を楽しむことにした。

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