星空の街
それでもその日のうちに隕石を加工して、エミの分のペンダントを用意する。形状はなんでもいいのだが、ペンダントにした方が紛失しにくいという理由だ。
「もっといっぱい血を取られるかと思いました……」
「なんだ。もっと取られたかったのか?」
「そんなわけないじゃないですか‼」
泣きますよ。とエミは貰ったペンダントを眺める。形は五つの角がある星の形と呼ばれるもの。さすがに尖っていると危ないということで、角を丸くされ、星というか花のような形になっている。
「あれ? そういえば、ヒマワリさんのペンダントには館長の名前が掘られてましたよ?」
ヒマワリがルーナのことを忘れないようにそうしているのかと思っていたが、エミが貰ったペンダントにはエミの名前が掘られている。
「気のせいじゃないか?」
「ちょっと館長の見せてくださいよ」
「断る」
「なんでですか」
「アイツを見てくる。このままだと日が暮れるぞ」
「うっわー、話し逸らした」
ぶーぶーと不平を唱えるエミを無視する。まだ時刻は昼になったばかりで、今から出かけても時間は十分にあるとのこと。
外に出るこのタイミングで、エミの服は昨日作ってもらった鮮やかな水色のパーカーにショートパンツ。靴下と靴は頑張って履いている。
「ちょっと待っていろ」
そう言い残して、ルーナはヒマワリの部屋の前に立つ。
八十三年ぶりに足を踏み入れる。長い時が過ぎても、中はなにも変わっていない。ただ入れなかっただけだ。入ってしまえば、ヒマワリはもういないという現実を突きつけられるからだ。ただ、ヒマワリは帰って来た。だからもう、ルーナは入ることができる。
「入るぞ」
ゴンっと扉を叩いて、返事を待たずに扉を開ける。
「………………なにを遊んでいる?」
八十三年ぶりのヒマワリの部屋はやはり変わっていない。分かっていたがそれにホッとしつつも、一人服に埋もれているヒマワリに冷ややかな目を向ける。
「だってルーナと出かけるんだよ? そりゃあ服装迷うじゃん」
「アイツもいるし、服なんてなんでもいいだろ」
「あーもうっ、ルーナは考えないの? 僕と出かけるんだよ? オシャレしたいとかそういう気持ちにならないの?」
「ならない。私が出るのはお前の監視のためだ、それに出かけるのは三人でだ」
「別にいなくならないよ。そうだね、エミちゃんもいるから、オシャレってこんなにも楽しいんだぞーって思ってほしいし」
ルーナが昨日の夜ヒマワリに付けたブレスレット。それを付けている限り、ヒマワリはこの博物館から出ることはできない。だから外へ出るのはルーナとエミの二人になるはずだった。しかしここで問題が一つある。ルーナはヒマワリがいない八十三年外には出ていない。探しにも行っていない。探しに行けば、ヒマワリがいないという事実を突きつけられるから。探しに行っている時にヒマワリが帰ってくるかもしれないから。その時に自分がいないとヒマワリは探しに行ってまたいなくなるかもしれないから。もう忘れてしまっているが、外が怖いから。
様々な理由があり、この博物館に来てから一度も外に出たことが無いルーナ。こことは違い、外の世界は日々変化している。
八十三年間外にいたヒマワリは、目の前で時代の移ろいを見て来たのだ。新たにできた国、亡びた国、新たな技術、失われた技術、それに通貨など、目まぐるしく変わる世界に、なにも知らないルーナと、まだ子供のエミを二人で出す訳にはいかない。
だからヒマワリが外に出るしかないのだ。しかし、ヒマワリにはブレスレットが付けられてる。これを外してもらわなければ外に出られない。でもルーナは不安だから外してくれない。でも外さなくてはならない。でも外してくれない。その相反する意見の良い落としどころが、ルーナも外に出るというものだ。
これなら、ブレスレットを付けていなくてもヒマワリがいなくならないよう監視できるし、ヒマワリが外に出ることもできる。
「口を動かさずに早く準備しろ」
「じゃあルーナが選んでよ‼」
いつまでも服装が決まらないヒマワリは最終手段、ルーナに服を選んでもらうことにした。
「じゃあこれだ」
ルーナは適当に足元に落ちていた服を蹴り上げる。
「服は蹴らない」
上手くキャッチしたヒマワリは服を広げる。
それはレースを取り入れた白とブラウンのワンピースだった。
「じゃあこれにする」
と言って、早速着替え始めるヒマワリ。
ようやく決まったかとため息をついたルーナは部屋の外を覗く。また勝手にエミが展示品を触っていないかの確認のためだ。しかし、エミの姿は無い。そして出入口が開いていた。
「…………あっ」
落とし穴を掘っていたのを忘れていた。とりあえずエミが落ちているだろうから穴を覗きに行く。
◎
「……なんで落とし穴掘ってるんですか」
「すまん。忘れていた」
「答えになってない……。見てないで助けてくださいよ」
落とし穴の中は泥だらけにしていないため、汚れてはいるがそこまで酷い汚れではない。
「出かける前だしな。仕方がない」
掘った当人のくせに態度がデカい魔女である。
「おまたせ——ってえぇ……」
着替えてやって来たヒマワリは困惑の声を出す。間違いなく、もう勝手にいなくならないのに……、と思っている声である。
ずりずりとエミを引きずり上げているルーナを手伝う。
「落ちた時の方が痛かった……」
ショートパンツのせいで、露わになっている膝を、堕ちた拍子にすりむいてしまったエミ。その怪我と汚れは、ルーナが責任を持って治して、綺麗にしてあげる。
「大丈夫?」
「まあ……治りましたし……」
「勝手に動くからこうなる。好奇心旺盛なのは仕方が無いが、少しは注意しながら動け」
「うぐっ……反論できない……!」
落とし穴を掘ったのを忘れているのはどうかと思うが、ルーナの言っていることも一理あるため言い返せない。
穴は、これもルーナが責任を持って塞ぐ。しかし、土の一部で畝を作り花を植えているためその土は使えず、少し凹んだ出入口前になってしまった。
「まあ、これで準備完了かな」
ちなみにルーナはローブを脱いだだけの服装。いつもの黒い長袖のシャツにスラックスだ。ただ、杖を入れる場所が無いためヒマワリからポーチを貸してもらっている。
「これから外の世界に出るけど、僕から離れないように。よしエミちゃん、手を繋ごう」
「はーい」
そこまでの子供ではないのだが、やはり不安なのだろう。素直にエミは手を繋いだ。
「よし、その手を絶対に離すなよ」
「これエミちゃんに言ってるんだよ」
「逆じゃないですか?」
「二人に言っている」
ヒマワリとエミは顔を見合わせ、同時に肩を竦めるのだった。




