星降る博物館 10
翌日、いつも通り朝起こされて、朝食を狭いテーブルで摂っていると、少し暗いヒマワリが言った。暗い理由は、朝食に煮物が無かったからではない。
「ごめんエミちゃん。僕外に出られなくなった」
「えっ、なんでですか?」
するとヒマワリは自身の右腕を掲げる。その手首には、黒くて硬そうなブレスレットが付いていた。
「なんですかそれ?」
「これは遥か昔、とある奴隷商が使っていたブレスレットでね。逃げようとすると物凄い痛みが襲ってくる物」
「えっ……ご飯中にするような話じゃないですよね」
「あっ、ごめん」
少し顔を青くしたエミがそのブレスレットから目を逸らす。その様子をルーナは目を細めて見ていた。
◎
ルーナがまだ朝食を摂っているのに、エミはお茶、ヒマワリはコーヒーを呑気に飲んでいた。
「お前達暇なのか?」
「暇ですよー」「暇だよ?」
「だろうな」
ヒマワリが戻って来たことにより、毎日二回行っている展示品の点検と清掃が楽になる。時間も単純に半分になっている。そのため、更にやることは無くなる。
「いやあね、エミちゃんの枕とか買いに行きたいじゃん? でもさぁ、準備必要じゃん?」
「そうだな。作ってやればいい」
小さく千切ったパンを口に入れながら言う。
「残っているんじゃないか? 石鉄隕石」
「倉庫に動かしたんだっけ?」
「ああ、入れ替えたはずだ」
「なにがですか?」
話に置いていかれそうになったエミはとりあえず置いていかれないよう話に参加することにした。
「そうだなぁ……ここにある展示物——というかこの博物館自体なんだけど、結構星が関係していてね。ここって本来は星降る博物館って名前なんだよね。ガラスドームとか、星を見るのにピッタリだし。それにこの博物館が建ってる場所って、星が落ちてきた場所なんだ」
「星って落ちるんですか⁉」
「うん、落ちるよ。あっ、でもいつも見ている光り輝いている星じゃなくて、なんていうのかな、それらの破片って言えばいいのかな……」
隕石のことをなんと説明していいか迷ったヒマワリはルーナに助けを求める。
「星にも種類があるということだ。落ちてくる星というのは、小さくて落ちてくるまで見えることの無い物」
「おお……?」
「見た方が早いか」
ルーナの説明を聞いても理解できていない様子のエミのため、まずは実物を見てもらおうとヒマワリに隕石を取ってきてもらう。それと同時に、ルーナが修理したっきり、展示台に戻していない天球儀も持って来てもらう。
その間、エミが混乱しないようルーナは説明しておく。
「お前の好きな星と、これから見せる隕石は別物だと考えろ。同じ宙にある物だがな」
「別ですか……」
こくりとお茶を飲むエミに、食事を再開するルーナである。
そしてようやくヒマワリが戻って来た時、両手で丁度覆い隠せる大きさの石と鉄の塊を、両手で抱えて持って来ていた。
「重たいから……テーブルに置いていい?」
「食い終わるまで待ってろ」
「腕もげるから‼ ごめんエミちゃん、ちょっと片づけてくれる?」
「あっ、はい!」
エミは急いで食器などを片付ける。そうして空いたスペースにヒマワリは隕石をなんとか置く。若干テーブルが傾いた気もするが、ルーナは気にせずに食事を続けている。
ヒマワリはルーナの頭をクシャクシャッと撫でて今度は天球儀を取りに行った。それと同時に食器を片付けたエミが帰って来た。
「なんで髪の毛ボサボサなんですか? いや、館長っていつもボサボサでしたっけ?」
「さあな」
ズズっとスープを飲む。
「お待たせ、持って来たよ」
天球儀は軽く、片手で持って来ていた。それを隕石と並べてテーブルに置く。
「まず、私達がこの真ん中にいるとして、お前が見ている星というのはこういう物だ」
ルーナの声に合わせて、ヒマワリが杖を軽く振る。すると小さな光球が数個漂い、球を囲む円環にそれぞれ付いた。
「この光球がお前の見ている星と言っていい」
「わあ……凄いですね……!」
目を輝かせたエミが、食い入るように天球儀を見ている。
「そして、隕石というのはこうだ」
もう一度ヒマワリが杖を軽く振ると、今度は細かな光球が現れた。光球と呼ぶには小さいだろうか。ミストの様に煌めいて見える。それを天球儀の球と円環の間に漂わせる。
「これが隕石だ」
「小さいですね」
「そうだ。普段は見えない。だが、時折落ちてきて姿を見せる時がある。それが隕石と呼ばれる物だ」
「なるほど」
しっかりと頷いてくれたため、こうして説明をしたかいはある。
「後は頼んだ」
ということで話を戻すことにした。
「こうして隕石が落ちてくるのって、宙から落ちてきた訳だから勢いが凄いんだよね。だから落ちた場所はクレーターって言ってすっごい凹むんだよ。ほら、昨日地下に降りたでしょ? あれ実は手間暇かけて掘ったんじゃなくて、クレーターを使ったんだよ」
もちろん多少整備はしたが、基本的にはクレーターをそのまま使っている。
「そしてその上にこの博物館を建てたんだ。星降る博物館を。そしてその落ちてきた隕石の一部が、これってこと。石鉄隕石って言って、石と鉄が混じってるんだけど、それはまあいいか」
「なるほど、そう繋がるんですね」
「まあ雰囲気だけでも分かってくれれば大丈夫だよ」
これで星降る博物館の話は一段落だ。それと同時にルーナの食事も終わった。
「ごちそうさまでした」
「お、やっと食べ終えた」「パンだからちょっと早いですね」
そんなことを言われながら、ルーナは食器を片付けに行く。二人はその間空いたスペースにカップを並べてお茶やコーヒーのお代わりを入れる。
「館長なに飲むんですかね?」
「コーヒーだと思うよ」
「コーヒーって美味しいですか?」
「エミちゃんには早いかな。苦いし」
「なんでわざわざ苦いの飲むんですか……」
「飲めるようになれば分かるよ☆」
ヒマワリがエミになぜか勝ち誇っているとすぐにルーナが戻って来た。
「コーヒーは苦みと香りのバランスが良い」
席に着いて、用意してくれていたコーヒーを一口飲む。
「続きはいいのか? 人の好奇心は大切にしなければ駄目なんだろ?」
ヒマワリもコーヒーで口を潤してから、続きを話しはじめる。
「この隕石っていうのは、不思議な力が宿っていてね。昨日の服を作る物とか、食事を作る機械とか、アレらの動力源なんだよね」
「だからその一つを巡って争いが起きている。簡単に作れないからな」
「ごくたまにしか隕石は落ちてこないからね」
「不思議な力があるから、それを持っていれば忘れないってことですか……?」
頭を手で挟みながら、必死に理解しようと言葉を絞り出す。
「そういう感じ!」
それを解っていれば十分だ。細かいことは興味があれば知っていけばいい。
「とりあえずエミちゃんも作ってみようか。枕とかは自分で選んだ方が良いでしょ?」
「はい!」
「じゃあ血を取るね」
「はい⁉」
なぜ血を取るという言葉がこの自然な流れで出てくるのか。
血を取るということは、傷をつけるということ。それはつまり痛いということだ。
「痛いのは嫌ですよ!」
「お前最初は傷だらけだっただろ」
「だからって慣れてる訳じゃないですよ! 今は傷一つないんだから傷つきたくないんですよ‼」
「でも血が無いと作れないよ? それに大丈夫だよ、傷はすぐ治してあげるから」
だから大丈夫だよ、とヒマワリは安心させるために笑顔で言っているのだが、言っている言葉のせいでかなりヤバいやつに見えてしまう。それのせいでエミは余計に怖がり、椅子を引いてヒマワリから距離を取っていた。
「固い床と一瞬の痛み、どっちがマシだ?」
「ぐっ……」
「別にお前がこれからも固い床で寝るのなら一瞬の痛みは感じなくてもいい。だが早く枕が欲しいのなら、いや、外に出るのなら敷布団も買えるな。柔らかい寝床で星を眺めたいのなら、一瞬の痛みを我慢すればいい。」
「たし……かに…………」
ルーナは三日月ぐらいの笑みだろうか。愉快そうに口角を上げている。
「うっわ、悪い顔してるよ……普通に笑えば綺麗なのに」
ヒマワリに呆れた目を向けられる。そんなことより、エミがどうするのかだ。
「分かり……ました……」
呻きながら腕を出す。今すぐ血を取ってくれと、目を固く閉じている。
「エミちゃん……」
「早く! 一思いにやってください‼」
「ごめん、取るのはもうちょっと後なんだ」
恐ろしいものを見たような表情をヒマワリに向けるエミである。




