星降る博物館 7
とりあえず出来た服は上に着る物だけ。続いて履く物も作り、三人は地下の部屋から出ることにした。
「早速着てみないの?」
「心の準備がありますから!」
あんな話を聞かされるとすぐに着る気にはなれない。ただ、争いが起こるのも納得の出来だということは、なにも知らないエミでも分かる。
「そろそろ昼か」
「ルーナお腹減らないでしょ? 動かないんだし」
「喋ると疲れる」
「わたしはお腹空きましたよ」
「僕も〜。掃除頑張ったし」
ということで、三人がやって来たのは小展示室。食事を作る機械がある部屋だ。
「これもまたさっきみたいに?」
慣れた手つきで石を機械に入れながらとりあえず聞いてみる。
「そうそう。食糧難に使えるぞってなったんだけど、そうホイホイ作れる物じゃないから。そりゃあ奪い合いが始まるよね」
「うわぁ……」
「安心しろ。もう私達以外の誰もコレのことは覚えていない。奪い合いも歴史から無くなっている」
ルーナが杖を振り、機械が動く。
歯車がガタガタと回りだす。少し待つと食事が完成する。
「パンとベーコンかぁ」
「私は魚がいい」
「えー、じゃあ……」
「わたしは分厚いお肉がいいです!」
「ベーコンも分厚いお肉だけど……じゃあ僕だね……」
二人の希望の食事が出るかは分からないが、嫌がるので仕方なくヒマワリが貰う。
丸いパンに、二枚のベーコン。そしてサラダに野菜がたっぷり入った卵のスープ。嫌いではないが、ヒマワリは煮物が食べたかった。
「あっ、そうだ。なんでコレは石を入れたらご飯になるんですか?」
「えー? ……そういう機械だから?」
「館長と同じこと言ってるじゃないですか……。え、なんですかコレ? ぶにぶにしてますよ」
「海鮮丼か。珍しいな、私が貰う」
続いては生魚が乗った丼と味噌汁。それはルーナが確保する。
「お肉、お肉でますように……!」
最後、手を合わせてお願いするエミだが、果たしてなにが出るか。
「煮物だったら交換してね」
「残念肉豆腐だ」
「肉だけど……!」「煮物につま先入ってるけど……!」
ぐぬぬと、二人は同時に唇を噛む。
「ヒマワリさん、やっぱわたしがベーコン貰いますよ。ほら、これ煮物っぽいじゃないですか」
「え、いいよ。実は僕パンが大好きなんだ」
「小鉢にひじき煮があるぞ」
「変えよう!」
平和的に昼食を確保できた三人。しかし、次に問題なのは食べる場所だ。
真ん中通路の奥、ガラス張りの壁前のガーデンチェアとテーブルは二人用。三人で使うには狭いし椅子が足りない。かといって展示品がある場所で食べると、万が一のことがあれば汚してしまう。
別に掃除すればいいのだが、だからといってそういう危険がある場所で食べる必要は無い。
「僕の部屋で食べる?」
「お前はそうしたらいい」
「僕は一人で食べろと?」
「そうだ。ちなみに、お前の部屋はあれから入っていない」
「知ってるよ! さっき着替え取りに行った時汚かったもん」
どうしてそんな酷いことをするの? という目は、ルーナには効かない。
そもそも汚いと知っていながらなんで誘ったんだと思ったルーナは容赦無くガーデンチェアに座り、手を合わせていた。
「…………椅子持ってくる」
エミを先に座らせ、自分の食事をなんとかテーブルに置いて、ヒマワリは自室へと向かう。
さっき入った時の足跡が微かに見えるし、落ちた水滴のせいで埃が固まっている。
改めて見るとかなり汚い。
「掃除してくれててもよかったのに〜」
口を尖らせながらも、木製の椅子に手を掛ける。
「うわ、汚い」
慌てて手を払い、杖を取り出して光球を出す。その光球が椅子を撫でるように漂うと、その部分の埃が綺麗に無くなる。
「よーっし、これでいいかな。うん、後で部屋の掃除しよう」
さすがにこのままでは寝ることができない。
とりあえず部屋の中を眺めてみる。
窓は無いが部屋は明るい。それは外の時間に合わせて天井が発光しているからだ。
部屋はあの時から時間が止まっていた。埃が積もるだけで、置いてある物の劣化はしていない。あの時のまま、本当にルーナは部屋に入っていないことが分かる。その事実を改めて自覚すると、少し胸が痛くなり、ヒマワリは椅子を持って足早に戻ることにした。
「遅かったな」
「食べるの遅い人に言われてもねぇ」
「館長ほんっと、食べるの遅いですよね」
「お前は口の中を空にしてから話せ」
「昔っからルーナは食べるの遅いんだよね。あーんしてあげようか?」
「その口を縫い付けてやろうか」
ルーナに睨まれ肩を竦めたヒマワリは、会話もそこそこに椅子に座り食事を摂り始める。
「いただきます。——ん〜、やっぱり煮物っていいよね」
「そんなに美味しいんですか?」
「あげないよ!」
「うわあ……」
なんだコイツ。という目をエミはヒマワリに向ける。
「気をつけろ。コイツは自分の物は人にやらないくせに人の物はすぐに食おうとする」
「うわあ……」
人として終わってるだろコイツ。という目に変わる。
「いやいやいや、ルーナ食べるの遅いじゃん! そもそも今まで僕とルーナの二人しかいなかったじゃん!」
「うるさいな。早く食べろ」
「くっそぉ、僕がいなくて寂しかったくせに——ったぁっ!」
「黙 っ て 食 え」
「じゃあわたしが来て嬉しかったんで——」
「う る さ い」
数十年ぶりの賑やかな食事は、僅か数分で数十年間続く静かな食事に戻った。




