星降る博物館 6
次はエミの服だ。今エミが来ているワンピースは、ヒマワリがかつて着ていた物だ。エミとルーナ程ではないが、エミとヒマワリも身長差がある。ワンピースだからまだ着ることができているが、大きいのは否めない。
「倉庫じゃないんだな」
「あそこは小さい物しか置けないからね。実はね、地下があるんだよ」
三人が向かうのは、入り口から見て右の通路。食事を作る機械のある方向だ。その通路の突き当たりの左の壁には、木製の扉がある。そこがルーナの言う倉庫だ。
「私はそこに行く方法を知らないぞ」
「だって言ってなかったもん」
「館長信用されてなかったんですか?」
「そういう訳じゃないよ」
笑いながら返すヒマワリは、突然顔の表情を消して言う。
「ルーナが展示品に興味が無さすぎて……」
「ですって」
エミがとりあえずルーナを見ると、鼻を鳴らしてそっぽを向いていた。
ヒマワリは倉庫ではなく、その向かい側。壁になっている方を向く。そこはこの建物の壁と同じ、なにかあるようには見えない。
「この先だよ」
杖を取り出し、壁を軽く叩く。するとゴロゴロゴロと、壁が左右に動き出した。
「ほう」「おー……」
驚く二人を見たヒマワリは、杖の先に光を灯した。
「じゃあ、行こっか」
◎
暗く、音の響く地下への階段。温度は下がり、少し肌寒さを感じる。
「これ、出られますよね?」
「出られるよ」
階段を降りながら、心配そうに呟くエミに明るくヒマワリが答える。
やがて階段の終わりに差し掛かった所で、ヒマワリは杖を振る。すると杖の先の光が浮き上がり、三人の行く先を照らしてくれる。
階段が終わり、広い部屋に出てきた。
光の玉は優しい光を放ちながら浮き上がり、かなり上まで昇った所で強い光を放つ。
一瞬視界が真っ白になり、すぐに光は落ち着いて、部屋を照らす明かりとなった。
「あれが太陽ね」
「違うだろ」
「似たような物だよ」
肩をすくめながら、ヒマワリは部屋の中を歩きだす。
部屋の中には、大きい物がそこかしこに置かれてある。どれもルーナよりも大きい物だ。ただ、大きい物ばかりではない。壁には木で格子状の棚が作られており、そこに小さな物は詰め込まれている。
「触るなよ」
まだ一歩も動いていないエミに先手を打つ。
「こっちこっちー」
先に歩いていたヒマワリから手を振られ、とりあえず二人はそこへ向かう。
ヒマワリがいる場所には、人が一人余裕で入ることができる大きな、扉付きのワードローブとトルソーがある。
少し違うのは、ワードローブの底から伸びている板とトルソーの支柱が繋がっていることだろう。
「これだよ。これが服を作れる物」
「へー」「そうか」
「リアクション薄くない?」
ルーナは一歩下がり、杖を出して光の蝶を出す。
「それにしても汚いな」
布もなにも被せていないため、この服を作る物だけでなく、この部屋にある全てが埃を被っている。
とりあえずルーナは今目の前にある物の清掃を始める。埃を被っていても動きには支障ないのだろうが、ただ汚いのは嫌だった。
「うっわ、めっちゃ汚れてますね」
「埃除けの布ぐらい作れないのか?」
「服専用だから無理だね、それも人の。でもルーナが掃除してくれるし」
ため息を一つついてヒマワリを睨む。そして清掃が終わる。
「点検は?」
「これからするよ」
そう言うと、ヒマワリはワードローブの扉を開ける。通常なら、そこには服が掛けられるよう横に木や鉄でできた棒があるはず。しかしこのワードローブにはそんな物は無く、あるのはタイプライターのようなキーボード。そして中の壁には歯車が隙間無く並んでいた。
「もう何十年も動かしてないからね」
ヒマワリがそのキーボードでカタカタと、なにかを打っていくと、歯車が動き始める。
カタカタ、ガタガタ、カタカタ、ガタガタ。
キーボードの打鍵音と歯車の回る音が繰り返されるとやがて——。
「えっ、なんですかこれ⁉」
「気持ちの悪いな」
トルソーから滲み出るように服が現れる。
服は糸でできているはずのに、こう見ると液体でできているように見える。
「これでもちゃんとした服になるんだからね。どう?」
トルソーの様子を見ると、すっかり服が出来上がっている。といっても、服の形を成しているだけで、細かい部分はまだ出来ていない。
「無事に動くっぽいね。じゃあこれでエミちゃんの服を作っていこう」
「へー……不思議ですね~」
「そういう物だ」
そんな会話が後ろから聞こえた。
「不思議に思う?」
「えっ? まあ……気になりますけど……」
首を目一杯捻じり、後ろを振り向いたヒマワリに少し引きながら、気になったことなのでとりあえず頷いた。
「こらルーナ。人の好奇心は大切にしなさい」
ヒマワリに怒られたルーナは肩を竦めるだけ。
「その様子だと、展示品のことよく知らないんだよね?」
「はい」
「そうだなー。まず、ここにある展示品は全て、ここにしか存在していません」
エミの体をベタベタ触りながら、ヒマワリは言葉を探しながら慎重に話す。
「でも、誰もここにある展示品を知りません」
「ん?」
「僕達はここにいるからね。ここ以外にいる、他の人達のこと」
「あっ、なるほど。なんでですか?」
今度は杖でエミを軽く叩きながら喋る。
「それはここが、世界には残せない、忘れるべき物のための場所だからだよ」
「一気に難しくなりましたね」
杖をしまい、先程の服が出来上がるまで待ちながら。
「んー、そうだなぁ。例えばこの服を作る物だけど、これは元々ある国の、服を作るのが盛んな街で作られた物なんだよね。服っていうのは、基本的には人が布を裁って、それを縫い合わせて仕立てるんだけど、これは見ての通り——」
ようやく出来上がった服を広げる。
「布も切っていないし、縫い合わせてもいないな」
とりあえずルーナは話がスムーズに進むように口を挟む。
「そうですよね。なんか気持ち悪かったですし」
「そう。しかも材料はここに……」
トルソーの頂点のキャップを外し、その中にヒマワリは手を入れる。
「そこら辺の草が材料。うわ、何十年も経ってるのに綺麗なままだ……」
「最初に点検する場所はそこじゃないのか……」
「まあまあ、綺麗だったんだからいいじゃん。で、材料はそこら辺に生えてるただの草。本来服を仕立てるの使うのは、綿だったり毛皮だったり、まあ色々あるんだけど、それらを手間暇かけて布にしてるんだ。そしてさっきも言った通り、その布を裁って、縫い合わせて服を仕立てる。でもこれはそこら辺の草を使って、そしてこのキーボードにその服を着る人の身体情報、そして服のデザインを入力するだけで仕立ててくれる。これはもう『仕立てる』っていうか『作る』だね」
「仕立てるってどういう意味ですか?」
「服を作ることだ。布を裁って——布を切って、それらを縫い上げる。それを仕立てると言う」
「なるほど。でも、それって便利な物じゃないんですか?」
「おっ、良い質問だね‼」
ヒマワリはキーボードで先程測ったエミの身体情報と服のデザインを入力しながら答える。
「最初は便利な物として使われていたよ。人が服を仕立てるのは速くても数週間。簡単な物は多分もっと早いけど。でもこれを使えばどんな服も数分で作ることができる。早くて、なにより材料はその辺に生えている草。燃料も——は別の話だから今しない。つまり、滅茶苦茶楽して服ができる。ということはだよ? 服を作るのが盛んな街だから、服を仕立ててお金を稼いで生活する人が多い。そんな街に、コレができてしまうと、そうした人達の仕事が無くなる」
「それでコレの奪い合いが始まったのか?」
どうせそうだろうなと、呆れを滲ませたルーナの言葉。
「そう。元々コレを作ったのは、服を仕立てる仕事とは無縁の人。全く関係無い人。関係の無い人が作った物のせいで、自分達の仕事が無くなってきた。そりゃあ怒るよね」
「なんか……嫌ですね……」
「人の思いを踏みにじるのは、金のことしか考えていないヤツだからね。いつの時代もそうだよ」
最後に悲しそうにそう言って、入力を終えたヒマワリ。あとはエミの服ができるのを待つだけだ。
「最初作った人はこれで金儲け。そしてその作った人は恨まれて殺されて、そしたらその街中でこれの奪い合いが始まった。それを知った国は、コレをこの博物館に寄越したってこと。ご丁寧に設計図は燃やして」
「簡単に言うと、二度と争いの火種にならないように忘れることにした。ということだ」
「なるほど! なんかコレで作った服を着にくくなりました‼」




