星降る博物館 3
「ルーナ‼」
ダンッと、ヒマワリは少女を抱え、朝食の続きを摂っている魔女に詰め寄る。
「なんだ。騒がしいな」
心底迷惑そうに、魔女はほぐした魚の身を口に入れる。
「なんだじゃないよ! 君は自己紹介もせずこの子と住んでいたのかい⁉」
「私とそいつしかいなかったんだ。名前なんて知らなくても問題無いだろ」
「そういう問題じゃないしこの子にも名前が無いんだよ⁉」
ヒマワリに詰められ、体を仰け反らす魔女である。
「えーっと、つまり館長の名前が……?」
少女の声を聞きヒマワリはその場に少女を降ろして魔女を指さす。
「ルーナ」
「おい、人を指さすな」
「ルーナさん!」
「黙れ」
「うぐっ」
「私の名前の話は終わりだ。それで、そいつに名前を付ければいいのか?」
早口で言っているが、食べる速度はゆっくりだ。ずずっと味噌汁を飲み、ルーナは細めた目を少女に向ける。
「いや僕が考えるけど」
「考えなくてもいい。私が付けてやる」
「えっ、館長がつけるんですか」
「文句か?」
少女は嫌そうな顔を向ける。
「今までの館長のわたしに対する仕打ちを思い出すと、変な名前つけられそうです」
「そうだよ、名前はその人をその人たらしめるものなんだから。願いを、想いを込めてつけないと」
二人に責めるように言われたルーナは肩を竦める。
「失礼だな。真面目に考えたんだがな」
「じゃあなんですか」
「僕が当ててあげるよ。そうだな、ステラ! 星って意味だよ」
「星ですか‼」
「違う」
「なーんだ……」「ピッタリなのにー」
あからさまにテンションが下がる二人を尻目に、ルーナはお茶で喉を潤す。
「エミ」
「エミって微笑みとかのエミってこと? 良いじゃん」
「そうだ。そいつは宙を見ている間、常に笑顔だからな。ピッタリだろ」
「どう?」
ルーナとヒマワリに見られた少女は、腕を組んでムムムと考える。
「ルーナさんが——」
「今まで通りでいい」
言葉は柔らかいが、声音はゾッとする程冷たい。
「館長が意外にもちゃんとわたしの名前を考えてくれていて嬉しいですね。なんだかんだでわたしのこと大好きなんじゃないんですか——」
「おい」
今度は言葉も声音も冷たかった。
「えーっと……とっても素敵な名前です。本当ですよ‼ なんか、温かい気持ちになったっていうか……はい……」
「じゃあ決定だな」
「えっいいの?」
あまりにもすんなりと決まりすぎて、ヒマワリだけが目を丸くしている。
「なんかこうすんなり決まるものなんですね」
感心している少女も、ルーナも、これで決まりだという雰囲気を出している。
「ルーナもそうだったけど、名前をすんなり決めすぎじゃない?」
「別にふざけてないからいいだろ」
「そうだけど、まあ……本人がいいなら僕はなにも言えないけど」
「じゃあ決まりだな。おい、今からそれがお前の名前だ」
「エミですね! じゃあ改めて、よろしくお願いします! 館長! ヒマワリさん!」
少女——エミは笑顔を二人に向けるのだった。




