【第808話:ざんねんなお知らせです】
午後からは一般の巫女たちとマーク達やマナ達小さい子グループが給仕をして、軽食も出す立食パーティーのような会場を仕立てた。
マナミは総合指揮所に、リーベは厨房にこもって給仕の指揮だ。
逆に言えばそれ以外は全て会場に入れる。
円卓にはそのまま聖騎士が、近い部分に責任者が多い。
市民からも何人か身元のしっかりわかるものだけ招いている。
すっとヴェスタが立ち、グラスを掲げる。
「お疲れ様です」
わーっと会場が沸き立つ乾杯のシーンが続いた。
ヴェスタ達が帝国に行っていたのを知っていた者も多かったので、メンバーの無事の帰国も喜んでいた。
サフィア達巫女も集まって、嬉しそうにしていた。
そこにはつい最近湖畔都市エゼリアに出店した商会の店も任されているミレーネ・アルハザートの姿も有った。
エゼリアとザウスレを行き来して、ザウスレの出店と神殿の巫女頭を兼任しながら働いている。
そうしてリシュアナの元で、聖王国に4人の高弟が集っていた。
サフィアは聖王都の神殿を。
リシュアナは西のアヴォリアに。
ファリナは雑貨屋も経営しながら南のルーディアに。
セリアナは北のアクメリア開発を手伝いながら神殿も守る。
そして東にはミレーネがと、四方にある神殿に巫女頭としてついてもらっている。
そうして指導し祈りを集め、サフィアが丁寧に祈りとしてオアシスの中にある神殿に届けていた。
サーラインとシャラハは隣り合ってイーシヤンも交えて話していた。
「流石です将軍」
サーラインがシャラハに恐れ入る。
「いやいや、そもそも帝国に一番近かったしな。使徒様達も優先した。警戒しているのだよ」
シャラハには艦隊を任せ、アヴォリアにも近い大陸東にある離島に基地を作ってもらった。
帝国軍が補給港を作っている同じ島の東側に聖王国の技術で軍港を作った。
ここには3号艦の改装空母アクメリウーデンを旗艦に、10隻の護衛艦隊も布陣する。
兵は帝国から来てくれた、シャラハ秘蔵の士官達が率いる。
帝国の港から200㎞程度しか離れていない位置に、10倍の規模の港を作り上げた。
「北はどうなっているのだ?」
シャラハの説明に、ある程度まとめた進捗を説明するサーライン。
サーラインも大陸の北側、鉱山都市アクメリアと山脈を挟んだ位置に軍港を作っている。
こちらが難航しているのは補給の問題で、山脈を彫り抜く鉄道をマーク達の総力で敷設していた。
港はサーラインの配下と、聖騎士隊の精鋭で作っている。
地形的にはシャラハ達よりも作りやすいくらいの位置だった。
ここには2号艦マーサスルディアが旗艦となり10隻の護衛艦を従えている。
南にはジュノ達の旗艦ともなっているヤオンスラウミナス。
「こうして東を開けられるのも頼もしい同胞のおかげだな」
「全くです」
にこりとシャラハが告げ、サーラインも笑みを浮かべうなずいた。
東にはイーシヤン達のミラサネルがいるのだ。
「いえいえ‥‥私達など張り子ですよ‥‥」
世界的にも有名な2人の将に持ち上げられ、てれてれとするイーシヤン。
誇らしげに頬を染めるシャイラ達7人も側に居た。
そうしてラウメン聖王国は祈りと艦隊に、四方を守られることとなっている。
ひとしきり歓談が終わると、各方面の報告が続き、シャラハやサーライン達も壇上に上がり説明した。
各街の代表達からは日頃の感謝とともに、今取り組んでいる問題点などを報告してもらう。
これらの問題点は五賢人達とセイラシュ達、聖礼士達によって取りまとめられ対策と調整を重ねていく。
活発な意見の投げ合いに発展するシーンも有ったが、概ねまとまりのある状態。
「いいわね‥‥これなら任せてしまえる」
ヴェスタも満足して微笑んだ。
「今の形を発展させてもらえれば、恐らく砂漠はもっと小さくなるでしょう」
アイカが予言のようにそう告げ、これも微笑みを浮かべた。
「防衛力は十分だし、こうして聖王国を中心に世界中も平和になるといいね」
ジュノも少ししっとりと微笑んだ。
ヴェスタ達はリステル達を見習い、自分たちが居なくても運営できる体勢を造りたい。
将来にわたって豊かな国として残したいのだ。
この祈りによって造られた国を。
議題が尽きても会場には話題に事欠かない。
まだまだ親睦を広げる余地も有るし、新しい仲間も増えて来ているのだ。
そうして和やかな中に、すっと聖騎士隊のラシードが入室し、アイカ達のもとに来る。
「ご歓談中申し訳ありません‥‥緊急です」
すっと表情を引き締めたジュノとアイカがヴェスタを見る。
「いいわ、教えて」
大きな声ではないが、ざわめきに消えることはない強さの声だった。
「‥‥帝国が宣戦を布告してきました。各国メディアにも同時に報道として流しています」
ここまではアイカ達の予想を超えない。
眉一筋動かなかった。
「そして同時に東に国境を超え進軍‥‥オンディーヌの空港が押さえられました」
砂漠のオアシスオンディーヌの横に3000m級の十字形滑走路を持つ巨大な空港を作っていた。
これはオンディーヌと帝国の間に作ったので、帝国の国境線に近い。
「輸送機は?」
アイカの質問にも淀み無くラシードが答える。
「出発前の機が2機と、こちらに戻れない位置だった1機が押さえられました。残りはアクメリアに戻しています」
アイカの作った大型輸送機が6機体勢で毎日一往復飛んでいた。
整備も有るので、飛んでいたのは半分だ。
「なかなかやるね‥‥」
ジュノは表情を消して、言葉も静かに告げる。
「けが人はでていないのかしら‥‥心配だわ」
ヴェスタが眉を下げる。
つい先日の便でシャーリオネテア男爵を帰したばかりだった。
「男爵には決して逆らわないようにと伝えてあります‥‥スーツも持たせているし」
ミスティアを借りているお礼として、男爵にも保護スーツを貸していた。
アシストは無しで、あくまで防具として設定してある。
緊急ナノマシン治療まで組んであるので、殺されても死なないとアイカは太鼓判。
ちょっと困った顔になってしまうヴェスタだった。
「‥‥どうせすぐ知れること。はっきりと宣言しましょう」
うんうんとヴェスタにアイカもジュノもうなずいた。
皆さん聞いて下さいとアイカが拡声魔法で声を届ける。
お酒は出していないので、混乱もなくしんと会場が静まった。
すっくとヴェスタが立ち、壇上に上がる。
全員の姿勢が自然と整う気品ある立ち姿だった。
「今連絡があり、残念なことに予想通りヴァルサール帝国が宣戦を布告しました」
ざわわと流石に声が漏れるが、実は帝国に向かう前に関係者には覚悟せよと伝えてある。
最悪は全面戦争でも引かないと、ヴェスタは宣言していた。
「ラウメン聖王国は武力によって他者を従えることは決してしません」
静かな会場によく通るメゾソプラノが響いた。
「ただし‥‥弓引くものには容赦はしません。ここは女神様への祈りを守る国なのです‥‥聖騎士よ!」
ざっと聖騎士達が立ち上がり敬礼姿勢。
マナミもリーベも一段落して戻っていたので、フルメンバーだ。
ジュノもアイカもヴェスタの左右に立ち、白いバナーをなびかせ槍を立てた。
「ラウメン聖王国の威光を示しなさい!」
気迫のこもったヴェスタの声がいんいんと響く。
『はっ!!』
聖騎士だけではなく、壁際にいた警備の聖騎士隊も、シャラハ達も敬礼姿勢。
そうしてヴェスタの号令は成され、ここにヴァルサール帝国とラウメン聖王国の戦いが始まる。
誰も先行きを想像出来ない戦いが。




