【第807話:姉妹たちがあばいたこと】
ヴェスタ達が無事にルーディアに戻り、7日間は何も起きなかった。
聖王国としても何も表明せず、通常の開発業務だけを淡々と進めていた。
今日は全体の打ち合わせをして、色々と報告をし合おうということで、聖王都ラウミナスに責任者達を集めていた。
可能な限り頭だったスタッフを全てとヴェスタが要望し、代理を立てられる部分は全てまかせて各街の代表や商工会など、各国からの協力者まで集めていた。
場所は聖王都ラウミナスの迎賓館。
先日のパーティ会場だ。
「ヴェスタは大丈夫?」
マナミが建物の入口で待っていたアイカにたずねる。
後ろにリーベも心配そうにしていた。
アイカとジュノが経過を見たいと言って、7日間誰にも会わせていない。
全て2人で看護をして静養させていたのだ。
「平気です。もともと体調には問題がなかったのですが、念のための観察期間です」
にっこりとアイカは微笑み、特に含むところもない。
「働きすぎだったから、少し休ませたのよ」
にこりとジュノも横に来て言う。
思えばあの鎮魂祭以来、休む間もなく駆け回って来たので、少しゆっくりしようねとジュノが休ませたというのが本音だった。
久しぶりに3人だけで過ごして、初心を思い出してもいた。
「ふふ、ここにじっとしてたわけじゃないしね」
にんまりのジュノがないしょだよと、秘密を打ち明ける顔。
「ウルヴァシャックにもこっそり行ってきましたし、マヤカランにも食事に行きました」
アイカも笑みを深くして語る。
「足跡を辿ってみたのです‥‥3人で歩いたアルドゥナの‥‥」
ふむと納得半分のマナミ。
こくとうなずいたリーベも、表情を少し固くした。
それは2人がまだオリジナルの手先として働いていた時期の話だったから。
「マナミもリーベも本当にありがとう」
そういってジュノが2人の手をとる。
アイカも笑顔で手を重ねた。
「2人と家族になれたお陰で乗り越えてこられたんだよ。私達3人ではくじけていたかも知れない」
ジュノは真剣に言葉を重ねた。
意味が伝わり、マナミもリーベも表情を和らげることが出来た。
「そういったことも確認できたおやすみでした」
ぱちんとウインクのアイカに、やっと笑顔を取り戻すマナミとリーベ。
ウインクの練度はあまり高くなかった。
「さあ、少し事前に内輪の話をしよう」
そういってジュノが2人を室内に導き入れる。
午後からはここに一般の協力者も入れて全体の報告会だ。
今はスパイラルアークチームとスパイラルアークⅡチームの面々。
そこにシャラハとサーラインにイーシヤンやセイラシュといった内輪の人間が集められていた。
各々ヴェスタを案じ、言葉を交わし終えていた。
その時間にアイカ達がマナミとリーベに話をしていたのだ。
「これでそろったわね」
にっこりとヴェスタが立ち上がり見渡した。
真剣にうなずくアイカとジュノが両脇に、マナミ達はリステルやイーシヤンの近くに座った。
中央の円卓には聖騎士達がそろう。
周りに置いた小さめの円卓にセイラシュやスフィーラ達、イーシヤン達とそれぞれグループ毎にかけていた。
外部からはヴェスタ達とオリジナルの戦いを説明した者だけを集めている。
そういった話を先にしようとしているのだった。
「色々と新たに解ったことも有るので、報告からです」
アイカが立ち上がり、ヴェスタを座らせて引き継ぐ。
「先日のアズラントでの事件で、オリジナルが直接帝国を指揮しているのではないとわかりました」
ふむふむと皆が納得の顔つき。
「決して罠としてあの日呼び出されたのではないので、そこは理解して下さい」
アイカはちらとイーシヤンやセイラシュを見る。
部下にも徹底してねという視線だ。
「ここにいる人には何度か話していますが、私達は帝国と戦いたい訳では無いのです」
言葉を区切ったアイカがヴェスタを見る。
うんとうなずきヴェスタが補足する。
「帝国にもきっと救うべき民がたくさんいるの」
ヴェスタの脳裏をすぎるのは、あの山奥から始めた旅の記憶だった。
「‥‥争わずに済ませられるのならば、それにこしたこともないのです」
ヴェスタの気持ちを正しく受け取るメンバー達。
この優しい使徒は、40年前にヴァルサール帝国も、アヤンタ王国も同じように救おうとしたのだ。
「わたし達が敵と考えているのはオリジナルというAIの集団です。そうですね‥‥例えるならば、一つの都市が世界を敵に回し戦争を仕掛けたと考えて下さい」
アイカの突然の引用に首をかしげるアルドゥナの将や賢人達。
「その戦力差で拮抗できる技術をオリジナルは持っているのです」
しんとアイカの言葉に息を飲む人々。
ちらとマナミを見るアイカ。
うなずいて立ち上がるマナミが、モニターも出してきて説明を引き継ぐ。
「これは先日の鎮魂祭を襲撃してきた敵の映像です」
そう言ってホワイトボードに映像が浮き出す。
2Dだが高精細な画像だった。
「この内の何人かは、ヴァルサール帝国の軍人でした」
すっとマナミの横にリーベも来て付け足す。
「この2名は一度湖畔都市エゼリアにも襲撃に来ています。わたしが追い払いました」
写真はハルトマンとヴィクトルだった。
そこからアイカ達3姉妹が分析調査した報告が続いた。
襲撃者には2種類の人員がいたこと。
一方は帝国の暗殺者をコピーした作り物だったこと。
もう一方はどうやら帝国軍からスカウトしたか志願したかした人員。
「ただし‥‥」
アイカが顔色悪く言葉を切った。
「この兵士達も恐らく強引な方法で強化していますので、後遺症や精神的疾患を持つ可能性が高いのです‥‥皆さんの知っているものだと洗脳というのが近いですかね‥‥」
この世界でも薬物や魔法を使用した洗脳は、一般的ではないが存在する。
軍人ならば常識の範囲だ。
「‥‥なんとおぞましい」
サーラインが顔色を悪くして評する。
こくとアイカがうなずき、続ける。
「ですので、場合によっては騙したり、本人に説明無く施術している可能性も有ります」
いたましそうにマナミも目を伏せた。
きりと顔を上げ、3Dデバイスを操作するマナミ。
ぱっと画像が切り替わり、建物と別の人物が現れる。
「これはわたしが調査した中で、帝国軍の軍人と接触があり、実情からも怪しいと考えた組織です」
ハルトマン達の足跡を追ってマナミが突き止めた先。
建物の写真にはエリオン・マルヴェルン研究所と朱書きされる。
「ここも周りから調べてみれば研究所などと言っていましたが、兵器工場です‥‥あの帝国の航空機や、魔導船も全てここで造られていました」
マナミの説明の合間にアイカが立ち上がる。
ぺしっとホワイトボードをたたき告げる。
意識したのか無意識か、アウレリアの顔を叩いていた。
「つまり!こいつらがオリジナルを匿っているか‥‥オリジナル本人なのです!」
アイカ3姉妹はそうして数回の戦闘から得たデータで答えにたどり着いたのだった。
すっと手をあげたシャラハ。
かなり顔色が悪い。
ヴェスタもうなずいて促す。
「‥‥このエリオン・マルヴェルンと言う女は‥‥皇帝アストレアや宰相ヴァレリーの師匠ですな」
きりと厳しい顔になるシャラハ。
「帝国に公的ポストは無いですが、皇帝の周りをうろついていて、何度か言葉も交わしたことがあるのです。胡散臭いなとだけ感じました」
厳しい顔つきのままそういうシャラハ。
シャラハの武人としての勘所が、この女は危険だと警戒していたのだ。
席に着くと隣のリシュアナがそっと腕に手を置いた。
大丈夫だよといった顔でうなずいたシャラハは、やっと顔色を戻す。
「そう‥‥やはりこの女が怪しいわ‥‥アストレアが心配です‥‥」
そう言ってヴェスタは眉を下げた。
「アストレアもまた被害者なのです‥‥」
ヴェスタの話が始まると、マナミもアイカも着席した。
ここからが本題だぞと。




