【第806話:こうゆうときどうしたらいいの?】
ヤオンスラウミナスは無事、何事もなくルーディアの港に戻った。
もともと予定していたので、護衛を終えたマーサスルディアの方はそのままミラサネル側に抜けていく。
ルーディアで合流した、新しい戦闘艦を2隻従えて。
操艦は引き続きマナ達とリヴ達の8人。
追加で護衛していく2艦も今は式で制御し当直のマナチェトリが動かしている。
これはマナ達の訓練でもある航海だった。
マーサスルディアの艦橋には、もう一人相方としてリヴチェトリが乗り込んでいて、交代で動かしているのだ。
交代要員というよりも、練習パートナーだった。
「‥‥マナチェトリは心配事があるようですねぇ」
とんと肩に手を置き、11才程度の義体でリヴチェトリが声をかけた。
ぴくんと眉は動いたが、姿勢は揺るがず沈黙のマナチェトリも全く同じ年頃の容姿をしている。
配色はメーナにそろえた銀髪金眼の白い肌。
マナは反応しないが、にこっと笑って自分の席にもどるリヴチェトリ。
「そういえば私達は名前が似ていて色々不便ですね」
ニッコリのまま表情の変わらないリヴチェトリが言う。
「ヴィエンス、ディビィ、トリース‥‥そしてチェトリ」
マナチェトリが反応しなくてもリヴチェトリの会話は途切れない。
トリースコンビから操艦を引き継いでから、ほぼ途切れずに話している。
柔らかく、呼吸も読んだ話術なので不快ではないが、マナチェトリは反応が薄い。
リヴチェトリの指摘どおりにずっと気がかりがあるから。
「うしろをもう少し短くして読んではどうでしょう?」
にこにこのままリヴの話は続いた。
マナチェトリとしては迷惑そうな雰囲気をしているが、とても助かっている。
胸を焼く焦燥を紛らわしてくれるから。
「例えば前側をマナ達が後ろ側を私達が付けてはどうですか?」
話題には出なかったがアイ達マーク達も同じルールの名付けなので、少し紛らわしい。
「マナチェとリヴトリとかどうですか?私達の中だけでも呼び分けたいです」
うんうんと真剣な顔に成るが、口元の柔らかい笑みは消えない。
母親たるコピー元のマナミとリーベが姉妹なので、二人は従姉妹に当たる。
このリヴという優しい従姉妹は、マナチェトリを紛らわそうと気を使っているのだ。
もやもやとした気持ちだけを持つマナチェトリ。
その優しさを感じ取れないほど子どもではないし、受け入れ感謝を口に出せるほど大人でもなかった。
そうしてリヴチェトリの願ったように、カイルへの心配は紛らわされるのだった。
あの日通信が入ったと、マナミが告げに来た。
西方オアシスへ出向していた黎明隊隊長のナロンが行方不明だと。
戦闘バディとして同行していたアイトリースも負傷し、今は治療中だと言う。
がたっと席を立ち上がったカイルは、真っ青な顔で震えていた。
マナチェトリはこっそり色々調べて、このカイルとナロンの兄弟が孤児だと知っていた。
ほんの半年前に両親をあのカルサリクで失ったのだと。
そして仲が良く年齢以上に頼もしい兄を、最後の家族と頼っていたことも。
「‥‥別命あるまで、黎明隊は休養待機とします」
マナミはそう告げてマナ達を見た。
「貴女達は来て‥‥別任務よ」
短く告げるマナミだが、隠しきれない感情をこぼす。
言葉は変わらずとも表情は隠せていなかった、カイルが憐れなのだと。
マナチェトリもきゅんと胸が狭くなるのを感じた。
マナミの表情と同調するように。
「カイル副隊長‥‥どうかお気を落とされませんように」
「きっと隊長は戻ります」
「そうです、ナロン隊長は私達の中では最強なのです」
口々にヴィエンスやディビィ達もカイルに声をかけてマナミを追った。
チェトリは言葉が出てこなくて、つんと鼻の奥が辛くなる。
これはなんだろうと思っていると、つうと涙がこぼれた。
驚いて両手で瞳を拭ったマナチェトリも、逃げ出すように姉妹達の後を追う。
何度も立ち止まったが、結局言葉はでてきてくれなくて、カイルの伏せた目をただ焼き付けて、黎明隊基地の待機室を出た。
「マナチェ、来たわよ」
はっとリヴチェトリの注意喚起でコンソールに目を落とす。
レーダーに予定していた機影が映っていた。
ぴっと通信ボタンを押して格納庫の待機室につなぐ。
「お客さんよ。準備して」
短い通信はシートのコンソールカメラがマナの口元を認識し、位相を整えて拾うので手持ちのマイクと変わらない明瞭な音声を届ける。
『了解』
短い返信はマナヴィエンスだろう。
流石に声だけではマナチェトリでも聞き分けられない。
正し、二人以上居れば若いNo.が答えるのがマナ達の流派だ。
「あらあら‥‥少し東にそれているわね‥‥手伝ってあげましょうか?」
リヴがマナに確認を取るのは、キャプテンシートに座っているのがマナだから。
今はリヴが補佐役だ。
空母への着艦では風向きにより難度が跳ね上がる。
正確に風上に向けて進路をとるマーサスルディアに、少し斜めにアプローチしてくる見方機を心配したのだ。
母艦の進路で合わせてあげようかとの提案だ。
ミラサネルの友軍が着艦訓練のため来ることに成っていた。
将来的な連携の準備でもあるし、ミラサネルには一艦しか無い空母への離着艦訓練だ。
「そこまで含めた訓練だわ‥あちらの判断に任せましょう」
そういってマナは進路を変えない判断。
本来の艦隊行動中ならそんなサポートは出来ないのだ。
「りょうかいです」
ぽちっと外部に切り替えてリヴチェトリはミラサネルの飛行隊に連絡を取る。
柔らかい口調で、一旦フライバイして進入し直すように指示していた。
わずかなそのズレが、着艦時には大変な苦労になりますよと。
マナ達レベルで機体を操れるのなら、着艦寸前にくいと修正可能な範囲では有ったが、これは訓練なので厳しい指示を出すのだった。
戦場ではわずかなミスも命取りなのだと。
16機の着艦を終え、綺麗に甲板の端にそろえてタキシングするミラサネル機。
全て同じデザインとカラーで、ラウメン聖王国と同型の量産型式神だ。
白地に青いラインが描かれていて、聖騎士No.03リステル・ウルヴァシャックと同じ配色。
ラインはより細く、スヴァーレイクのようにグラデーションしたりはしないが、まるでリステルの配下のようだった。
艦橋から全体を見ていたマナチェトリとリヴチェトリの元に、挨拶に来るミラサネルの飛行隊員。
ぴしりとミラサネルの敬礼をする少女が隊長だった。
青っぽい黒髪を、きっちり肩で揃えているのはスリヤ。
マナチェトリと髪型が被っていた。
リヴチェトリは少しマナ達より長めの髪を、三つ編みにしておさげを左右に垂らしている。
「お手間をかけしました。滞在中お世話になります」
尉官の肩章を付けた白い軍服は、新設されたミラサネル空軍のもの。
青い二重線が体側にそってあしらわれている。
敬礼のため胸に当てられた腕には、小さな金ボタンがキラリと光る。
「お気遣いなく。皆さんの艦だと思ってくつろいで下さい」
ぴしとマナとリヴも返礼した。
黎明隊の紺色の制服には白いラインが入り、逆の配色だ。
「お見事な着艦でしたね」
すこし柔らかい声に変えたリヴチェトリが声をかけ一歩出る。
「いえいえ‥‥お恥ずかしいばかりです」
にっこりで握手を交わしながら答えるスリヤ。
年齢と身長は少しスリヤの方が上になる。
この隊長機は見事な着艦ではあった。
慣れもあるのか上下にも殆どブレないアプローチだった。
ヤオンスラウミナス級の甲板は風上に向いていれば、補助索無しでのちゃっかんが可能だ。
普段はマナ達も安全策たるそこまで進まず下りる。
同じ降り方を出来たのはこのスリヤだけで、後続の隊員は甲板奥の補助索にフックをかけて止まった。
通常はそのお降り方で正解だが、技量の差を恥じたのだ。
自分たちの式神は、このマナ達に試験してもらったものだとサリヤ達は聞いていた。
一休みしてお茶を飲み、その日の内にウルヴァシャックの航空基地に帰っていったサリヤ達。
明日は妹のサリカがくるよと、最後には仲良く話もできたサリヤだった。
マナチェトリは艦橋当直を終え、マナヴィエンスと引き継ぐ。
「異常なしよ」
「‥‥チェトリ」
ふわりとやさしくマナヴィエンスは抱きしめる。
「‥‥ゆっくり休んでね。ちゃんと寝るのよ」
いつもより柔らかい声にも驚くマナチェトリ。
「うん‥‥ありがとう」
その気遣いが何に向けられたものかは、マナチェトリにも心当たりがある。
もうずっと落ち込んだ顔を隠せていないと、自覚も有ったのだ。
カイルが心配なのだと。
何も出来ないのがもどかしいのだと。




