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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第24章
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【閑話:なくしてしまったもの】

 索敵任務を申し付けられて高空へ飛び出した。

水中を潜航したまま進んできたが、指定範囲が広いので水面を割って宙へ翼を広げた。

特に隠形の指示はされていなかった。

くんと左右の翼に大気を捉え、その下左右に分けたインテークから深呼吸。

推進剤少しだけを混ぜると融合炉の排熱で一気に膨張させる。

フラッパーバルブが動き吸気側に圧を逃さず、一息に燃焼したガスはベクターノズルに導かれた。

ゴォォォ!!!

力強い排気音に大気を切り裂く轟音が交じる。

バァァン!!

音速を超えて高度を取り、視界を広げる。

 外に露出していない、フェイズドアレイ素子がアクティブレーダーを放ち遠方まで見渡す。

勿論こちらも見つかる可能性が上がるが、目標に対してこちらは十分に小型だ。

遠慮はいるまいと考えた。

きらきらと海面がうねりを光らせながら遠ざかる。

ふぅと白い小さな雲の一片が流れて去った。

高度を取るごとに、気圧が下がり抵抗は減っていく。

気温も下がるが、この体には熱核融合炉が搭載されている。

熱はいくらでもあるので、各部を凍らせてしまうようなことはない。

くんと翼端から水蒸気の線を引きながらロールし、進路を変える。

そろそろ索敵範囲の端に届くのだ。

折り返して次の列をサーチする。

そうして一定の範囲を索敵し、結果を送信する。

それが今日の自分の仕事なのだと、なんの疑いも持たなかった。

そのように定義されていたから。

キィィィ

風切り音を残し、黄金の機体が飛び去る。

知るものが見れば驚きを隠せないだろう。

その形は特定の国でよく知られている。

黄金に黒いラインの入ったその航空機は、試作量産型式神のシルエットをしていたから。


 そろそろ推進剤が心許ないので速度を落とし姿を変える。

速度が落ちるにつれ、鋭い三角形だった翼が左右に広がり伸ばされる。

少し広げて大きくなった翼に風がはらむ。

この体はとても良くできていて、大気を捉えるのが得意だ。

重力制御だけでも音速を超えて進めるが、エネルギープールが目に見えて減るので今は殆ど推力を得ていない。

機体を軽くするためにだけ重力制御は使っている。

そうして風を捉えるとかなり長い時間飛んでいられることを知っていた。

(きもちいいな‥‥)

ふっと湧いた言葉を誰かに届けたいと欲求が湧く。

その相手を思い描こうとするが、うまく出来なかった。

次々と相手を変えて思い出そうとするのだが、名前も顔もでてこない。

大切な相手として小さな人影が見える。

顔も名前もでてこないが、大事な相手だとは解った。

そうして最初に思い描こうとした相手にもどり、思考はループする。

(‥‥会いたい)

ただその気持だけが最後に残った。

その相手にたどり着きたいとだけ。

そうして思い出せないままに日は傾き、帰路へついた。

家に帰らないと行けない時間だなと思ったから。


 いつもの場所に戻っていくと、そこにはいつものように女神が迎えてくれる。

「おかえりなさい‥‥ご苦労でしたね」

にっこりとそう言って労ってくれるのは、黄金の髪に美しいエメラルドの瞳。

漆黒にそまる明かり一つ無いこの部屋に、光り輝く姿で宙から舞い降りてくる。

(あぁ‥‥女神様‥‥今日もお美しい‥‥このお方のために働ける喜びに感謝したします)

くすりと微笑みを濃くする女神。

「ありがとうゆっくりとお休みなさい‥‥」

女神には声を出さずとも言葉が伝わる。

光り輝いているのに、その光は周囲を照らさない。

自分だけに届けられる光なのだと、幸福に包まれる。

自分の為に女神が微笑み声をくれるのだと。




 しどけなくソファーにもたれるアウレリア。

ひとしきり誘惑し終えて、義体を休ませている。

奥の寝室では新たに見つけてきた聖騎士の候補達が、くったりと倒れ痙攣している。

いいクスリよと言われて飲まされた肉体改造薬に体が抵抗しているのだ。

ナノマシン達は全く遠慮すること無く、男達の体を変えていくから。

この洗礼を生き延びれるのは10%もいない。

それでもアウレリアに焦りがないのは、膨大な数の分母があるから。

この帝国には2500万人も人がいるのだと。


 真紅のガウンからこぼれる白い肌は、しっとりと艶めいていた。

くいと喉を上げあおったグラスには、血のように赤黒い液体。

ただのワインではないのは、グラスにのこるねっとりとした跡でわかった。

「あら‥‥」

壁際のコンソールに表示が出ている。

タスクの完了を示すグリーンのサインだ。

「ふふお帰りなさいナロン‥‥いい子ね」

くつくつと笑みを深くするアウレリア。

何処とも知れない暗いガレージに駐機した、元愛機を金色に塗ったのはアウレリアだ。

聖騎士の乗機なのだからと。

完熟飛行がてらの索敵は特に成果はなかったようだが、元々あるとも思っていなかったので、問題は無い。

にんまりと嬉しそうにするアウレリア。

無事に出撃し帰投する。

それだけでもいいのだ、あの女神から手駒を一つ奪ったのだからと。

「たのしい事になりそうね‥‥」

その使い所を考えて、にっこりと笑みを深める。

ぺろりとピンク色の舌が唇を舐め取った。



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