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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第24章
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【第804話:世界の空の下】

 ヴァルサール帝国の帝都アズラントを緊急出航してきた空母ヤオンスラウミナスは、快調に南下を続ける。

アズラントからの距離を開ける度に回頭し、南東に東にと進路を変えた。

その度に幻術を重ねがけし気配を消していく。

今は南に進路を取り、赤道に近い位置まで南下していた。

「‥‥緊急脱出時のシナリオ通りだけど‥‥どうかな?見失ってくれたかな?」

リステルが心配そうにマナミを振り向く。

最悪はオリジナルの追っ手がかかることを想定し、南に戦力を伏せている。

改装が終わり、戦闘空母になっている2号艦マーサスルディアだ。

率いているのはマナ達とリヴ達。

本来の予定では黎明隊をあてる予定だったが、隊長のナロンが作戦中行方不明(MIA)となっているのでこの形になった。

 ヤオンスラウミナスの操艦デッキには今2人だけだが、マナミに甘い空気はない。

厳しい顔つきで、新しい幻術式を放ち終えたところだ。

普段はリステルと2人きりのときはジュノとヴェスタのように甘々なのだった。

「できることはしているけど‥‥アイカが言うには特定出来ないだけで、この辺りとは探知されるみたい」

光学系の幻術はアイカが一番得意で、今回の新型隠蔽術式はアイカの開発だ。

本来の予定ではアイカ自身が発動する予定だったが、今はヴェスタの看護に付いている。

バックアップとしてマナミが術式を受け取って何度か練習もしてきた。

術式の中に聖王国の単語が組まれているので、女神達の気配を織り込んでいるのだとはマナミにもわかった。

透明にする幻術ではなく、眩しいと感じて目をくらまし、そらさせる式なのだ。

込められた魔力量と発動速度から、半径1000㎞以上の見えない範囲を構築している。

これは発動した座標にとどまる式なので、見つからないではなく、現在地を特定出来ない式なのだ。

発動座標も艦の直上ではなく、離れた位置に置いている慎重さ。

 思いがけず出番となり、かなり緊張しているようだなとリステルは心配していた。

ぽんとアラームがなり、奥のエレベーターが開く。

「ママ達が起きたよ!」

嬉しそうに走ってきて報告するのはアイディビィ(02)とマーク02。

「うん、良かったね!」

ぽふっと2人はマナミに抱きついて、嬉しそうにしていた。

「じゃあ二人ともお茶の準備を手伝ってくれるかな」

そういってリステルが立ち上がる。

ちらと目線を交わしあい、マナミが小さくうなずく。

それだけで多くの情報をやり取りしているのだった。

マナミは術式の監視をしてほしいのでここに残したいから。

さあ行こうねと2人の肩を抱いたリステルは、マナミに背を向けてからにっこりと笑う。

目覚めたと聞いて嬉しそうに微笑んだマナミも、アイカ達を心配していて、本当は一緒に無事を見に行きたいのだなと。




 そこからは特に問題なくマーサスルディアと合流し、南半球を東進してルーディアに向かった。

ヴェスタは体調にも問題はなく、少し記憶に混乱がある程度だった。

「港とホテルの屋上に残してきた式が消されました‥‥低軌道や街中に隠している式はまだ生きてますが、動かせば見つかる可能性が高いですね‥‥」

アイカが食後に説明する。

「月と静止軌道に置いている式も、しばらくは監視だけで動かさないことにします」

リーベがマナミと2人で監視している範囲の報告もする。

「これを見て」

マナミが3Dホログラムで一抱えほどの青い惑星アルドゥナを宙に描く。

メーナが月も出してとマナミにせがむので、アルドゥナと比較して意外と大きい月も横に浮かべてくれた。

「ここと‥‥ここね‥‥歪みが映った」

あの術式発動の瞬間にかなりの霊子波が放たれたのか、アルドゥナの軌道にまで届く大きな変化があった。

その瞬間に3個所ほど光学的欺瞞を発見したのだ。

じっと見ていたアイカが発言。

「‥‥正確に30度置きですね‥‥一周すれば12ヶ所、大陸側にしぼっても6ヶ所に式を置いているのでしょう‥‥まあ、こちらもしていることです」

見つけたポイントとして、高度的には静止軌道で綺麗に赤道上空だ。

「かなり高度な幻術でした‥‥何もなければ発見できなかったでしょう」

アイカは悔しそうにそう告げる。

こちらの静止軌道に置いている式からは一万km以上離れていたが、同じ高さにあったのだ。

「まあ‥‥あちらも隠れていたのです。仕方ないですよ‥‥それに、こちらが移動しなければあちらも見えていない可能性が高いです」

リーベがアイカをなだめるように補足した。

じっと考えていたジュノも発言する。

「これはオリジナルの監視装置?なのかな‥‥式なの?」

これにはリーベもマナミも慎重に考え答えられない。

「大きさはわかりませんが、1000m以下だと考えられます‥‥逆に言うとそれくらいしか判らないのです」

アイカはふうと肩の力を抜いた。

「こちらから調べに行かなければこれ以上は推論の域をでません」

にっこりと笑い、マナミとリーベを労う視線。

現状はそうしてオリジナルも互いに隠れ合ったままだった。

「‥‥帝国側の動きを待つしか無いですね」

最後に結論のようにヴェスタがまとめる。

背筋を伸ばしたその姿に、皆は頼もしい想いを感じる。

意識不明から復帰したヴェスタに、特に変化はなく、心情としても落ち着いていた。

「提案した世界会議への動きで、真意は見取れると思うの」

にっこりとヴェスタが告げて、一旦食後の打ち合わせを終えた。

明日にはラカン・ラマン沖まで戻り、明後日にはルーディアに入港予定だった。




 操艦はスパイラルアークⅡチームに一旦任せたまま、スパイラルアークチームは船内で休んだ。

まだヴェスタも心配だからとリステル達が言ってくれたのだ。

ゆっくりとお風呂ユニットで入浴して、環境マッピングで久しぶりに南山脈の洞窟温泉風味を味わう3人。

ユーリアやルクール達年少組は先に入って寝てしまった。

「ルーディアの港からわりと近いんだよ」

囁くように小声でジュノが言う。

お風呂全体を内側から彩る洞窟温泉の話題だ。

3人並んで湯船に浸かっていた。

高さ的にスパイラルアークを停めているこの船底は海面下なので、周囲は膨大な水に囲まれている。

その質量が守ってくれているように感じで、心理的に落ち着いている3人だった。

海上を高速で動いているとは察せられない静かさだった。

宇宙船でもあるアークの防音性能は高く、ヤオンスラウミナス自体も静粛性に優れている。

「‥‥うん。今度いってみようね」

にっこりとヴェスタも答える。

あのアストラル・プロジェクションの後には、特に3人の間でもヴェスタの過去を話題にしていなかった。

3人共まだ話をしたいと思えなかったから。

ジュノもアイカも聞きたいことは有るのだが、今すぐに挑みたいタスクではなかった。

今はこうして3人でいるのだと確認し、安心したいのだ。

「あの頃も隠れていた気がします」

アイカの声もひそめられ、なにかに遠慮する様子。

当時もアルドゥナの現地人に見つからないよう気をつけていた。

そこまでの接触はトラブルにしかならなかったから。

「そうだったね」

しんみりと当時を思い出すと色々あったなと思い出すジュノ。

ふいにヴェスタが両脇の2人を引き寄せる。

ぎゅっと少しだけ強い力だった。

むにゅっと柔らかさを感じながら上目遣いに見上げる2人。

そっと目を閉じていたヴェスタが告げる。

「ありがとう‥‥二人とも‥‥」

その感謝はアストラル・プロジェクションで迎えに来てくれたことなのか、当時のトラブルに向けたものか。

もしくは今もこうして傍らに在ってくれることに対するものか。

判断できる要素はなかった。

それでも同じように微笑んで目を閉じる2人。

言葉はそれ以上なかったが、静かな時間が流れていった。

3人の心には青空が広がっていく。

あの日、洞窟の温泉から見上げたどこまでも広がる青い空だった。


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