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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第22章
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【閑話:騎士ナロンと悪い魔女】

 意識を失ったまま拉致されたナロンは、今も昏睡し続けている。

傷はナノマシンの治療があり、塞がっているがそのナノマシンにはアウレリアの悪意が塗り込められていたから。

精神支配の式はナロンの体内に含まされていたナノマシンに阻まれた。

正面がガラスになっている縦型ナノマシンポッドの正面から、ぷかりと浮いたナロンを白衣のアウレリアが眺める。

(‥‥ふん、気に入らないわね)

リングごと保護スーツは取り去ったが、すでにナロンの体内には生命維持以上の性能を持つナノマシンが巡っていた。

これは保護スーツを操り、ひいては試作量産型式神も操る補助をしていたもの。

ナロンには決して存在を悟らせない潜み方で全身を守っている。

(強引には手に入らないみたいね‥‥いいわ楽しめそうね)

くつくつと笑うアウレリアは楽しそうな笑みを浮かべる。

散々アズラントで好き勝手されて鬱憤が溜まっていた。

女神の気配を放つ幽子の揺らぎは、見通すことが出来ない。

アイカと同じように、アウレリアには黄金の光として感じる。

ラウメン大陸の中央部と同じで、見えないので手出しのしようがないのだ。

(さぁ‥‥捕らわれの姫のために差し出しなさい‥‥その女神にむけた祈りの心を‥‥)

 直接的精神支配をあきらめたアウレリアは、ねちねちといたぶりナロンに受け入れさせたいのだ。

新たに送り込まれたアウレリアのナノマシンたちを。

そうして支配的な状況を作れれば、容易く精神誘導程度の式は通るだろう。

小さいながらも女神ラウマへ向けた祈りを持つ限り、アウレリアの注ぎ込む悪意に屈することはないのだった。

ほんのひとひらの揺らぎだが、心の奥に女神への祈りによる幽子(アイテル)の揺らぎがあるから。

(いつまで耐えられるかしらボウヤ‥‥うふふ、かわいい顔ね‥‥苦痛にゆがめちゃって‥‥)

肉体ではなく、心の痛みによってナロンは顔を歪める。


ヴィクトルに刺され倒れるアイトリース。

 

黒い袋に捕らわれて苦しそうにするアイトリース。


――また何も出来なかった‥‥

そうして力の足りない自分を、ナロンは責め続ける。

愛おしいアイトリースを守りたいのに。

そのために傷ついたり苦しいのは、むしろ喜びですら有った。

アイトリースのために何かをしたのだと感じられるから。


――アイトリース‥‥どうなってしまったの?近くにいるの?


ナロンはアイトリースを求め続ける。

暗闇の中でさまよい続けるナロンが、手の届かないアイトリースの映像を追いかける。

それは笑顔だったり、怒っていたりと様々だが確かにアイトリースだと感じられる姿だった。

中には血に塗れ青ざめた顔のアイトリースや、苦痛に眉をひそめる顔もある。

それらは笑顔以上にナロンを引きつけるのだった。


――アイトリース‥‥


暗闇には果てなど無く、ナロンが何処かにたどり着くこともないのだった。

これはアウレリアの見せる悪夢なのだから。




 ばんと激しい音を鳴らしドアを閉めた、白衣のアウレリアが戻る。

ナロンをいたぶりつつ、始まった皇帝と使徒の会見に集中するため離れていたのだ。

きりりと眉があがる厳しい顔つき。

先程まで上司とも言える、賢者ヴェルニアスと話してきたのだ。

とても嬉しそうなのを隠しきれない賢者の微笑みの無表情に、気分を損なってきた。

指示された作戦指示(コマンド)は納得の行くものだし、アウレリアも望むところだったが、ヴェルニアスに従うのはとても気に入らない。

その背後に尊敬する兄や、心を捧げた主君が居るからと耐えている。

「にやけおって‥‥腹が立つ‥‥」

言葉にもしてみたが、それでどうなるものでもなかった。

じろりとナロンの浮かぶナノマシンポッドを睨む。

にんまりとその表情が歪む。

「別に八つ当たりではないけど‥‥そろそろ良い返事をもらわないとね」


Magic.System: ArcaneCore — Online

        Parameter.SealBreak()


小声で式を紡ぎ、ナロンのポッドに干渉していくアウレリア。

果てのない悪夢の中にアウレリア自身を忍ばせる。


―――力がほしいですか?


出口のない探索を続けるナロンに投げかけられたその声は、黄金の気配を持つ。

ナロンには女神の救いとも感じられるのだった。


―――わたくしに心を開くのですナロン‥‥祈りを捧げるのならば聖騎士としての力を授けましょう‥‥


甘い囁きは、ナロンのもっとも欲しかったタイミングで、欲しいものを提示する。

眼の前には何度も繰り返し見てきたアイトリースの苦しむ顔。

手の届かない実力差は、聖騎士というクラスに定義される。

どうゆう仕様なのか、アイカが救い出した半裸のアイトリースが映し出され苦鳴をあげている。


――あぁ‥‥アイトリース‥‥あんなに苦しそうに‥‥


囁く声にはナロンが受け取りたくない気配がする。

同じ金色なのに、慈悲の女神ラウマを否定するこころが込められているから。


―――さぁ応えることのない古い祈りは捨てるのです‥‥この手を取れば新たな聖騎士となれるのですよ


甘い囁きに手を伸ばしそうになるナロン。

映像の中では苦しみ悶えるアイトリースを何度も見せられるから。

それは悪意を持って、そうなってほしくないとナロンが思う変化を見せてくる。

アイトリースは悶え苦しみの中、ナロンに手を伸ばしてくる。


―――助けて‥‥


映像の苦しげなアイトリースが苦鳴の合間にもらす。

くうと胸を押さえてうずくまるナロン。

そこには父母とともに祈りを捧げた女神の気配があった。

その温もりを手放すのは自分の半生を、育ててくれた優しい父母を否定することになると、直感的に察する。


―――ああぁ‥‥ナロン助けて‥‥


そんなことは実際には一度も言われたことがないが、言われてみたい言葉ではあった。

ナロンに手をのばすアイトリースは涙を流し苦痛に悶える。


胸に灯る温もりとは似ても似つかない黄金の光に手を伸ばすナロン。


――アイトリースを救いたいんだ‥‥


ただそれだけを心に残し、ついにナロンは黄金の光(アウレリア)に手を伸ばした。

そうして受け入れてしまえば、アイカ達の施した防御をすり抜けてアウレリアはナロンの心に触れられるのだ。

たっぷりと毒の染み込んだ指先で。







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