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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第22章
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【第790話:手のひらが触れ合った時】

 アストレアも手を伸ばし、ヴェスタの手のひらに重ね握手をしようとした。

自分とそっくりな腕と手に、不思議だなと少し思いながら触れた瞬間に世界が変わった。

触れ合う寸前に2つの手のひらは吸い寄せられるように重なった。


パシィ


何かが切り替わった気配を残し、静寂が包みこんだ。

漆黒の空が広がり、緑色の硬質な大地が何処までも広がっていた。

黒いだけで星1つ見えない夜空には、上弦の三日月になった巨大な月が固定されている。

そして眼の前には閉ざされた城門とめぐらされた白く高い城壁。

彼方には高い塔がいくつも連なる、白亜の天守も見えていた。

「えぇ?!なに??」

慌てたアストレアは、手のひらに温かな感触を感じて、その先にヴェスタを確認した。

「ヴェスタさま?!いったい何事ですか?」

同じ状態のヴェスタが説明できるはずもないのだが、たずねずにはいられなかった。

じっとアストレアを見つめるヴェスタは、物静かな声で応える。

「‥‥ここは恐らく精神世界‥‥わたくしの物にとても良く似ております」

すんと背筋の伸びたヴェスタが応える。

先程までのおろおろした所はなく、スッキリと背を伸ばし見つめてくる。

ここは空を真昼の青空にすれば、鏡写しのようにヴェスタの最新世界と同じ景色だった。

「おそらく貴女の‥‥セシーの精神世界です」

じっと見つめたまま視線を動かさず、ヴェスタはそう告げた。

ふわふわした所の全くなくなったヴェスタは、正しく姫君の立ち姿で所作だった。

「‥‥ヴェスタさま?」

アストレアはとてもうろたえていた心が、すっと静まるのを感じる。

セシーと名を呼ばれて、なんの違和感もなくそれが自分の名前だとも感じられた。

アストレアの瞳を捉え続けていたヴェスタが、ふいに涙を落とす。

こらえきれずくしゃと表情をゆがめ、雫をこぼし目を赤くする。

「もう‥‥‥二度とは会えないと思っていました‥‥‥セシー、もう一度言葉を交わせるとは‥‥‥」

すんと鼻をすすると、りんと表情を引き締めた。

「あなたは大切な姉妹‥‥トリースとチェトリ、そしてわたくしピアチェの妹セシーなのですよ」

ああとアストレアは納得する。

初めてヴェスタを見た時も、2度目に浴室で出会った時も何故か年下に感じなかった。

肉体年齢的には恐らく自分の方が歳上なのに、眼の前のヴェスタをどこか目上に感じていた。

甘えたい気持ちがいつも生まれたのだ。

「わたくしはヴェスタの中に生まれたもう一人のヴェスタ‥‥今は忘れている全ての記憶を持つ者です」

ふわりと笑みを広げるヴェスタは姫ヴェスタ。

気品あふれる所作に、肉親への情感が込められる。

「セシーは失われてしまったのだと悲しみました‥‥‥当時のピアツェ達は記憶まで改変されセシーを忘れてしまいましたが、わたくしはずっと悲しんでいたのです」

反対の手のひらも重ねてその温かさをもっと感じようとするヴェスタ。

「四人の姉妹だったものが、いつの間にか三人姉妹となり誰も不思議に思わず受け入れていた‥‥わたくしはずっと忘れたりなどしませんでしたよ」

ふたたび雫を落とした姫ヴェスタ。

「‥‥トリースが失われ、チェトリも奪われて‥‥全て失ってしまったと嘆いたのです」

今度はにこりと上品な微笑みを浮かべた。

「貴女だけがわたくしに残された最後の姉妹(ぶんしん)なのです」

アストレアも同じように記憶を失っているのだが、ヴェスタが呼びかけるセシーが自分の事だと感じ取れる。

度々感じていたヴェスタへの親しみや懐かしさは、嘘ではなかったのだと、嬉しくも感じていた。

「理解できます‥‥不思議ですがヴェスタさまがとても身近に感じる‥‥」

すっと重なり合うヴェスタとアストレア。

ヴェスタが引き寄せ抱きしめると、耳元にささやく。

「セシー‥‥アストレア、敬称など止めて‥‥私達は同じ血を持つ姉妹なのですから」

ふんわりと抱きしめた体は、思いがけず暖かく、アストレアも知らず涙をこぼしていた。

「あぁ‥‥ヴェスタ‥‥‥」

そうして漆黒に浮かぶ三日月の見下ろすエメラルドの地平に立つ2人は、いつまでも互いの体温に酔いしれていた。

二度と味わうことは出来ないとあきらめていた、肉親の温もりを。




 アイカが遠隔操作した大型車両が帝国ホテルに横付けされる。

港のヤオンスラウミナスから発進してきたのだ。

先行してリステル達スパイラルアークⅡチームの4人で車両を迎え入れた。

ハンドサインでリステルが指示を出し、4人で四方を警戒する。

姿を消したままだがマナミとリーベの式も宙を舞い警戒中。

 受け入れ準備をした所に、ジュノに抱かれたヴェスタが運び込まれてくる。

後部座席にヴェスタを寝かせて、フロアに横座りで弱々しくすがりつくジュノ。

「いやよ‥‥ヴェスタ‥‥」

先ほどの空気をゆるがす殺気を放った聖騎士は既に去っていた。

ただのか弱い少女に戻り、ヴェスタにすがりふるえるジュノの背中は年相応に見える。

痛ましいと思いつつ、リステルは油断無く周囲を探っていた。

「アイカ‥‥早く戻って‥‥イヤな予感がするよ」

ついつい言葉に漏らしてしまうリステルは、油断無く愛用の槍をかざしている。

ここは敵陣なのだと。


「いいでしょう‥‥そちらの言い分を認めましょう。オリジナルを知らない貴方達ではこの計略(はかりごと)は企めないです」

瞳の赤光を収め、鳶色にもどしたアイカは表情を消したままそう告げる。

何が起きたのかこちらでも把握していないとヴァレリー宰相に回答され、アイカが受け入れたのだ。

先に行ってとアイ達だけを従えて残ったアイカが、ヴァレリー宰相とハーグリーブスを睨みつけて尋問していたのだ。

アイ達は油断無く外装もシフトしてまとい、抜剣し式を従えた戦場の姿。

魔力のこもったアイカの視線には、対抗する(すべ)のない者を金縛りにする力すらある。

先程のような闇属性の魔力ならば、さらに踏み込み誘導したり、果ては操ったりも出来るという。

アイカの魔力は全てを焼き尽くす、浄化の炎。

その気配はちりちりと消し去られる恐怖を2人に刻み込んだ。

アストレアもフローラに付き添われ去ったので、この恐怖を味わったのはハーグリーブスとヴァレリーだけだった。

「ヴェスタが目覚めることを祈るとよいです‥‥怒り狂ったジュノをわたしでは止められませんよ」

アイカの言葉にハーグリーブスは、自分の正面に立っていたあの怒れる聖騎士を思い浮かべる。

近隣に恐怖を振りまいていた悪竜を退治し、何も求めず去ったのだと伝説はうたう。

ジュノとはあの伝説にあるドラゴンスレイヤーの名前だと、ハーグリーブスは知っていた。

少年のころに真っ直ぐに憧れた、最強の聖騎士として記憶していたから。

美しい騎士なのだと。


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