【第787話:謁見する気はありませんよ】
授業参観のようなパーティーを終えて、やっと緊張をといたルクール達3人はアイ達とお風呂に入って先に休ませた。
労って寝かしつけてきたヴェスタとアイカが最後に戻ると、ジュノとリーベが全員分のお茶を準備して待っていた。
「ねちゃった?」
ジュノがにっこり尋ねる。
うんうんと笑顔のヴェスタも座って皆を見回す。
どことなく明るい雰囲気は、今夜色々と成果を得たから。
ヴェスタのとなりに座ったアイカも、お茶の香気にニコっと小さく笑った。
ジュノのお茶はいつもいい香りだなと。
「これでアイカの推論が一つは証明されたね」
すうと熱いカップから立ち上る香りを楽しんでから、リステルが告げた。
うんうんと横でマナミも納得顔。
おかわり用のティーポッドを持ってきたリーベもリステルの隣りに座った。
「そうなのです!あいつらは女神様のご機嫌をうかがっています!」
ラウメン大陸には、今まで物理的なオリジナルの介入はなかった。
以前オレイカルコスを求めてあの神殿にたどり着いたヴェスタ達の行動すら、誘導された先にあった。
自分たちで直接あの遺跡に行ったりはしない。
「きっと逆らうことは出来ないのです!」
えっへんとアイカが偉そうに言う。
にんまりの笑顔は喜色も示す。
こてんとするジュノはよく判らない様子。
「なんでそうなるの?」
そのまま疑問をぶつけてくる。
「ええとね‥‥ヴァルサール帝国はオリジナルがずっと手を入れてきた国でしょ?」
ヴェスタが自分の理解度に不安があったので、ちらちらとアイカを見ながらジュノに説明。
間違っていたら教えてくれるだろうと、話しだしたのだ。
「うんうん?」
さっぱりピンとこないジュノ。
「そこに来て好き勝手されたら、怒って出てくるはずじゃない?」
むむっとひっかかりだけ持ったのか、ジュノは眉根をよせアイカも見る。
「アイ達小さい子だけを空母の回りに置いて隙をみせたり、主催者側を配慮しない動きを見せたことです!わかりやすい変装で街中も歩きました」
3方に別れた日中の行動中も、式を飛ばしアイカ達3姉妹は好き勝手にあちこち探りまで入れて回った。
アイカが神殿で祈りを捧げる時に、素顔を晒したのは最後の確認でもあったのだ。
見ているなら必ず接触してくると。
女神教の教会を出てからは、もとの変装に戻しアイカだと判らないようにしている。
「つまり‥‥アイカ達も感じるあの女神さまの気配は、オリジナルに特効なのです!」
アイカに補足され、ふむうと納得はできないが理解は示すジュノ。
「あのバナーに聖句を書いているでしょ?」
ヴェスタが引き続き説明する。
くるんとヴェスタをみるジュノはうんうん。
「あの文字を書くとね‥‥ふんわりと温かい女神様の気配をまとうのよ。聖騎士のマントも同じよ」
聖王国の文字で書かれた女神の名前には文字だけでも幽子を揺るがす磁場のようなものが出来る。
それをアイカは黄金の光と見て、ヴェスタは温かな感触と捕らえる。
あっと理解を示すジュノ。
「あの文字を書いているとオリジナルは嫌がるの?!」
うんうんとアイカが肯定。
「そうだと今夜はっきりしたわ‥‥教会でもそうだったけど、女神様の気配と共にあればオリジナルは手出しできないの」
きりっと引き締まった顔にもどすヴェスタ。
「明日は最後の探りを入れます‥‥油断しないでね」
こくりと全員が頷いて決意の表情を確認して宣言。
「もう隠れるのは止めにしましょう」
にっこりとヴェスタは微笑むのだった。
鬱屈した何かを脱ぎ捨てるように。
翌日の午後までホテルで大人しくしていたメンバーは、昨夜と同じ布陣で会場に来た。
違いはルクルニユーリアもミニスカートの制服で、ヴェスタ達は外装を付けていない。
全員が帯剣しており、困りますと言う入口の警備は今日も無視だ。
外装が無いと細身のヴェスタ達だが、ごつい男の警備たちを無視してずんずんと入っていく。
ヴェスタの腕を取ろうと手を伸ばした男は、いつの間にか抜剣され眼の前に突き出されたジュノの剣先に麻痺したように固まった。
「無礼な‥‥使徒さまに手を触れるなど許されぬぞ‥‥」
押し殺した声と殺気が仮面の奥から漏れ出し、先頭の聖騎士が使徒なのだとやっと帝国側も理解する。
そして気配すら捉えられなかったジュノの動きに、伝説にある聖騎士の力は、誇張ではないのだと警備の男は震えた。
ジュノの殺気には自分どころか、この街が無くなるかと感じる迫力があったから。
帝国側はいつもの謁見スタイルを予定していたようで、奥に一段あがった豪華な椅子があり、室内は透ける御簾で区切られている。
手前側に椅子はなく、座らせる気も無いようだった。
これはアイカ達も予想していたので、シフト収納から材料を出し、アイ達がテキパキと組み立てる。
あっという間に同じくらいの高さにした全員が並べる大きさの段を作り、中央に豪華な椅子まで出てきた。
椅子にはしっとりとヴェスタが一人座る。
その背後に守るようにジュノ達が整列した。
鏡写しのように御簾をはさんだ状態を作り出してしまう。
すんと上品に座ったヴェスタも、並んだジュノ達ものっぺらぼうの白い仮面のままだった。
素顔を晒しているのはルクール達3人だけだ。
両端に分かれて並ぶアイ達もメーナも、少し小さな同じ仮面で顔を隠す。
そうして皇帝が来るのをゆるりと待つのだった。
相変わらず霊子リンクのチャットは賑やかに盛り上がっていた。
『くくく、びびってたね!ざまあみろだわ!』
嬉しそうなジュノに、アイカがたしなめる。
『もう、やりすぎですよジュノ。視線だけで位相変化して護衛さんが死にそうでしたよ?』
あははと姿勢を乱さず全員がアイカのジョークに笑う。
和気あいあいとして待っているのだ。
ヴァルサール帝国の皇帝を。
混乱しまくった開催側の帝国だったが、ハーグリーブスが強行する意見を出す。
「かまうもんか!堂々と対面してやろうじゃないか‥‥聖王国の使徒さまとやらとな!」
空母でのやり取りもあったので、内心少しだけ怯えがあるのを隠すように強がる。
「‥‥そうだな。外部に情報は出さない予定だし。形式は気に入らないが話を進めよう‥‥アストレア?いいかい?」
ヴァレリー宰相もしぶしぶ了承。
「かまいません。そもそも足労願っているのです。こちらが押し付けるわけには行かないのです」
皇帝の佇まいに身を包むアストレアは、りんとして迫力もある。
豪華な黄金の衣装も見て、これならば見劣りすることもないだろうと、ヴァレリーもフローラも頷いた。
「行きましょう。あまりお待たせしてもいけません」
最後はアストレアが言い切り、ぞろぞろとヴァレリー派閥の議員を数人だけ従え会場へ向かった。
いよいよヴァルサール帝国の皇帝と、ラウメン聖王国の使徒が顔を合わせる。
それはお風呂以来の再会。
アヤンタ王国マヤカランから数えたら、三度目の対面だった。




