【第784話:たのしい時間】
アズラント国際ホテルのインペリアルスイートに、再びヴェスタは宿泊していた。
「すごーい!豪華だね!」
「わぁ結構ひろいよ!こっちまである」
わあわあと騒がしいのは年少組の聖騎士達。
湯船にちゃぽんとくつろぐのはヴェスタ達年長組だ。
今回は巫女たちや聖礼士達は伴っていないので、本当に姉妹だけといった雰囲気。
マナミもあまり怒らないので、メーナ達は調子に乗っていた。
「‥‥明日はパーティーだっけ?どうするの?」
皇帝との会見は明後日の夜に予定されていて、今夜は身内でゆっくりしてとホテルの最上階を貸し切ってくれた。
この浴室でかつて皇帝アストレアと言葉を交わしたことのあるヴェスタだった。
「ルクールとルニーアにユーリアも付けて出します」
アイカがスケジュールを説明。
「残りは作戦通りに護衛だよ!」
ジュノはにんまりと嬉しそうにヴェスタの腕を取る。
自分の作戦が採用になり、明日はみんなでお出かけだからだ。
「聖騎士の護衛に聖騎士ってどうなの?」
マナミが首をかしげる。
矛盾があるわといった顔。
「ふふ、ルクール達だけじゃ心配だからね」
そういってなでなでとするリステル。
考え事をするマナミは眉がよって目も少しより目でかわいい。
なんでなでるのよと、ぺしっと払うマナミ。
じゃれあう2人を置いておいて話を進めるリーベ。
「メーナやアイちゃん達はどうするの?」
リーベは困ったなといった顔。
「ふふ、二桁の子達は別の用事を頼みます。ちょっと買い出しですね」
アイカの言う二桁とは聖騎士No.だ。
メーナが10番で、アイヴィエンス以降も11、12と続く。
「じゃあ明日は9人で出撃だね」
リステルがマナミに撫でられながら言う。
いちゃいちゃの果てに立場は逆転していた。
マナミ敵には歯には歯をなのだ。
「そそ。アウステラでもばらばらだったし、久しぶりね共闘は」
ジュノがにっこりとリステルに答える。
「戦いにいくんじゃないよ?!護衛だよ」
ヴェスタが慌てて訂正する。
もちろん護衛なので武装はして行こうと話し合っていた。
「やぁん!」
ざばぁあん!!
かわいい悲鳴とともに湯船に投げ込まれるアイディビィ。
「とう!」
元気に飛び込むのはアイトリースだ。
すっかり新しいアンドロイドボディにも馴染んだようだ。
どぼんどぼんと次々奥の方で飛び込んでいるアイ達にメーナとユーリアまで続いた。
だぶんだぶんと波が押し寄せてくるが、湯船はとても広いので被害は少ない。
「飛び込みはダメよ!!」
ざばっと立ち上がったマナミがついに怒って声を上げる。
飛び込みはダメならなげこめばいいとか、そうだそうだ横暴だと一緒になって騒ぐメーナ。
「なんだとぉ!!」
ばしゃばしゃと一番大きな波をたてるマナミが怒って叱りに行くが、波しぶきで濡らされた残りの年長組も、あはははと笑いだしてしまった。
そこには大家族と成った姉妹たちが居るのだった。
別室には皇帝アストレアの次女フローラ・ユスティシアが潜んでいた。
他の侍女や間者にまかせてしまうには、少し重要度が高いと思ったから自分で乗り込んでいた。
一つ下のフロアにこっそり陣取り、ホテル側の全面強力を強要し隠しマイクを仕掛けていた。
相手は女子ばかりだったので、カメラは流石に仕掛けていない。
「な‥‥なんだかとても楽しそうね‥‥」
音だけでもハーグリーブスやヴァレリー宰相に任せるわけにも行かないので、フローラが対処しに来ていた。
アストレアも実はアズラントで別のホテルに宿泊しているが、会見までは缶詰としていた。
少しでも事前に聖王国側の情報が欲しいなと、ヴァレリー宰相が言い出し、じゃあ俺が覗きに行くとハーグリーブスがニンマリしたので、ダメです私が対処しますとフローラが引き受けた。
冗談抜きでハーグリーブスは聖騎士を襲いかねないとぞくりとした。
それだけの戦闘力と度胸を持っているからと。
ハーグリーブスの奔放な噂はフローラの耳にも入っていたから。
「思っていたよりずっと若い子ばかり?あの時のお供も少女だった‥‥」
フローラはお風呂を一緒にしたユーリアを思い出していた。
素朴そうな可愛らしい子だったなと。
脱衣所以降はカメラがないが、部屋の出口から廊下全てが監視カメラの画角に入っていた。
ユーリアの顔も確認済みだが、背の高い年上の女たちは仮面を付けていて顔を見ていない。
髪の毛と肌の色合いであれがヴェスタだろうと想像しただけだった。
「‥‥ということはヴェスタさんもユーリアさんも聖騎士だったということ?」
会見の同行者には使徒一名、聖騎士8名と書いてあった。
彼女たちの口ぶりでは誰が使徒なのか判明しない。
参加リストに名前は書いていなかったから。
「あのユーリアさんが使徒?ではないわよねえ‥‥」
まあ想像しても無駄と、耳に集中するフローラは、結局何の情報も得ることはできなかった。
部屋に戻ったアイカは術式を放つ。
探知術式と情報遮断の結界だ。
「いいですよ。これでもう覗けません」
にっこりとアイカが言う。
インペリアルスイートには寝室が4つもあり、そのうちの一つをアイカ達3人で使っている。
マナミとリステルにリーベとメーナで一室。
ルクールとルニーアにユーリアで一室。
アイ達で一室の配置だ。
残りの3室には普通に振る舞ってと指示してあった。
「わかったの?」
ジュノが真剣な顔。
「もちろん。すでにカウンターで式が追跡しています。映像だしますね」
ARに表示した2Dの画面では、フローラが迎えの車に乗り込むところが映っている。
透明化した式神八式にはかつて式神幻術を操っていた式達が込めてある。
隠密性能としても同等以上のものだ。
「‥‥これフローラさんだわ。皇帝アストレアの侍女だと名乗った」
ヴェスタが抜け目無く判定する。
2人にもかつてここで皇帝と会った話はしてある。
ヴェスタの説明で顔を見交わすアイカとジュノ。
きりっとアイカも引き締める。
「なるほど‥‥覗き魔さんは皇帝陛下の手のものですか‥‥」
少し真剣に考えるジュノ。
「何処かに泊まっている?追える?アイカ」
ジュノは侍女が皇帝の元に帰るのではないかと推察した。
「もちろん追跡中です。逆に丸裸にしてやりましょう!」
むっふんと気合の入るアイカだった。
「の‥‥覗きはダメだよぉ」
ヴェスタはふるふると悲しそうに言う。
「先にやったのはあちらです!目には目を!」
「そうだそうだ!」
アイカとジュノはふるふる程度では止まらなかった。
やり返す気まんまんで鼻息も荒い。
「もう‥‥」
ヴェスタもそれ以上は止めず、しかたないかとも考えた。
そもそもアストレアがその後どうしていたのか、こちらをどう思っているのかは、ヴェスタも知りたいことだったから。




