【第782話:みんなで相談しました】
今回はちょっと難しい案件となるので、リモート会議では決めきれないよとリステルとヴェスタの意見は一致した。
ヴェスタの指示で全員にヴァルサール帝国アストレア皇帝の手紙と、その取り巻きたちの怪文書を共有していた。
各地に聖騎士隊の長距離偵察機で迎えに行って、ミラサネルのイーシヤンや、特務に着いていたシャラハとサーラインまで呼び寄せている。
そうして主要メンバーを聖王都ラウミナスの食堂に集め、お茶の時間を取った。
つまりラウメン聖王国全体会議だった。
「小賢しいですな」
腕を組んだシャラハは、かつての同胞に対して辛辣に切って捨てた。
「巧妙にアストレア陛下の言葉まで誤解させようとする意思が読み取れますが、陛下は争いを望んでいません」
シャラハは何度もアストレアとも面談している。
皇帝となる前の、若いアストレアとも話したことがあったので、その人となりには詳しい。
くいと丸メガネを持ち上げて、セルジュが五賢人を代表して答える。
「‥‥そうですな。陛下は”ご足労お願いできないでしょうか”と結んでいますしね。ただ立場上こちらに訪問するのは難しいので、何処かでお会いしたい‥‥そう読み取れます」
さすがに皇帝直筆の親書を改変することはしなかったようだが、中身を熟読し聖王国の使徒が帝国にこいという意味だと匂わせ、添付の書簡に日時と場所の指示があった。
その書簡を読めば皇帝の親書すら、別の意味に取れてしまう悪意が見られる。
「‥‥サンガマラ辺りに会場を設定して、皇帝にもご足労願いましょう。使徒様からの親書としてしたためれば、さすがに改変することはしないでしょう」
セイラシュも遠慮がちにだがサーラインの横から意見を出した。
シャラハや五賢人と違い、元アヤンタ王国側の人間としての言葉は少しアストレアに冷たい響き。
「帝国という国に信頼で答えるのは危険かと愚考します‥‥」
静かな声だったが、イーシヤンの瞳にはミラサネル共和国の民達を代表する意思がこもった。
そうして概ね意見が出揃うと、自然と視線は上座のヴェスタに向かう。
左右にジュノとアイカを従えて座るヴェスタは、目を伏せて上品に紅茶を嗜んでいる。
そうしてヴェスタが緊張を示さないので、配下の者達も意見を出しやすい。
ふんわりした笑みは消さず、すっと視線を上げたヴェスタ。
「お招きいただいたのですから、謹んでお受けしましょう。場所は重要ではないのです」
にっこりと、最後に見間違いようのない笑みを浮かべたヴェスタは美しく、含むところはなかった。
しんと静まったお茶会に、柔らかなジュノの言葉が染みる。
「わたしとアイカも同行するから、危ないことにはならないよ」
ニコっと小さい笑みを浮かべるジュノと、こくんとうなずくアイカも微笑んだ。
「わたしも行く!」
すっと立ち上がるルクールにルニーアも従い、次々と席を立つ聖騎士達。
ヴェスタに倣って微笑みを浮かべる少女達には国としての建前や権威などは関係ないのだ。
ただヴェスタを信じる心だけがそこにあった。
我らのキャプテンに従うのだと。
そうしてまとまりかけたが、では私も私もとシャラハやサーラインまで立ち上がるので、お待ちくださいと五賢人やセイラシュ達が止めに入り、意見は百出する。
警備だけでもと食い下がるサーラインに、大丈夫だよとジュノがぽんぽんする。
おかわりもってきたよ!とメーナとアイ達がリーベの焼いたお菓子を持って来ると、甘い匂いとともにわいわいと和やかに話し合いは続いた。
これがスパイラルアーク流。
ラウメン聖王国流なのだと。
意見を出し終えたが、結局ヴェスタに反対するものは居なく成る。
心配するものは多いが、それは間違いだと言うものはいないのだった。
そうしてお茶を終える頃、そっとヴェスタが合図してジュノとアイカがこそこそと準備を始める。
ルクルニ達年少の聖騎士達も一緒に裏に回り、何かを背に隠して戻ってきた。
すっとヴェスタが立ち上がり、声をかける。
「シャラハ、サーライン。それにイーシヤンこちらに」
ヴェスタは聖騎士とおそろいの軍服なのだが、気品あふれる立ち姿に全員の背が伸びる。
腰の前で両手を揃える立ち姿にはプリンセスの気品。
申し合わせていたわけでもないのに、3人の将達がヴェスタの前にひざまずく。
ヴェスタの左右からにこにこの聖騎士達が現れる。
「ふふ。歓迎するよサーライン。まだわたしたちからお礼を言っていなかったから‥‥ありがとうヴェスタの味方をしてくれて」
そういってジュノは小さな白い花束をサーラインにわたした。
シャラハにはアイカが、イーシヤンにはリステルが同じ花束を渡す。
「ふふ、いい匂いでしょ?オアシスの神殿に咲いた最初の花なんだよ!」
リステルの説明にイーシヤンはつんと鼻の奥が辛くなる。
「も‥‥もったいなきはからいです」
うつむきそうになるイーシヤンの腕を取ったリステルが立たせる。
シャラハとサーラインもジュノ達に立たされた。
すっと表情を正してヴェスタも前に出て、アイカから受け取り一本の剣を差し出す。
見た目は実用ではなく儀礼用の豪華なサーベルだ。
もちろん展開すればプラズマソードになる超兵器ではある。
「シャラハ・ホーク‥‥聖王国聖騎士隊の将として迎えます。これを」
そういって差し出す。
進み出たシャラハが謹んでと両手で受け取った。
「サーライン・サルディア‥‥聖王国聖騎士隊の将として迎えます。聖王国には貴族位は設けませんので略称を許してください」
シャラハの横にひざまずいたサーラインは、とんでも御座いません鋭意尽力いたしますと受け取った。
「イーシヤン・サマルヴァハン‥‥同胞の将としてこれを」
ははっと受け取るイーシヤンは恐れながらとほんの少し両将軍より後ろに控えた。
受け取ったイーシヤンの肩にヴェスタは手を添える。
「‥‥本当は聖王国にお迎えしたいのですが、リステルの希望もありますから、今後もミラサネルをお守りくださいね。共和国は大切な仲間だと私達は考えております」
はっと短く答えたイーシヤンは、もう目を真っ赤にして、言葉はでてこなかった。
リステルもそっとマナミの肩に顔を寄せ、嬉しそうに涙を落とした。
「お立ちなさい頼もしきはらからよ」
にっこりと笑ったヴェスタが3人を立たせる。
「これからは身内ですからね。拝礼は不要ですよ!」
いたずらっぽい年齢らしい笑みは、いつもの作った笑顔とは破壊力がちがった。
エネルギーシールド貫通属性持ちだった。
ぱぁんぱぁあんとメーナとユーリアがクラッカーを鳴らし、運び込まれた横断幕がアイ達によって広げられた。
『ようこそ!聖王国へ!!』
少女達の揃った宣言と同じ言葉が書かれた幕には、サーラインやシャラハの名前だけではなく、イーシヤンやシャイラ達、五賢人やセイラシュ・スフィーア達の名前までが小さく下に書かれている。
「ここからは歓迎会ですよ!」
そういってヴェスタがグラスを掲げた。
わーっと全体が湧き上がり、感極まりスフィーラとミシェリが抱き合い、うつむきふるえるセイラシュを、サーラインがぽんぽんと肩を叩いたりとする。
開け放たれた両開きの扉をくぐり、今聖王国を支えている全ての人々が招かれる。
巫女のサフィア達が、オンディーヌから来ているミスティア達がと、次々と会場を埋め尽くしていった。
忙しかった建国からの作業の中、思いがけず集まることが出来たので、ジュノの提案でサプライズの歓迎会を企画していたのだった。
もちろんリステルもヴェスタも大賛成で、リーベ達は裏方で豪華な料理まで準備していた。
午後遅くまで続いた会議は、早めの晩餐へと進む。
それも聖王国流なのだと。




