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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第22章
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【第781話:もう本気出しますよ】

 アイカはヴィクトルを知っていた。

アイトリースの戦闘記録から、娘に瀕死の大怪我をさせた相手として認識していた。

リステルからも対戦した経緯や戦闘中の様子を聞いていて、こいつは変態で女の子の敵だと定義済みだ。

その変態が愛しい娘たるアイトリースのほほをいやらしく(※観測者の主観です)なで上げていたので、怒りを撒き散らしていた。

それは胸を押しつぶしていた心配の裏返しで、今の遠慮をしないアイカにとってはリミットを越えてしまう要件だった。

ごうごうと抑えきれず溢れ出す真紅の魔力は、燃えるようにアイカを縁取っていた。

「ゆるしませんよ‥‥」

きりりと上げた眉に怒りを込めて睨みつけるアイカ。

敏感な嗅覚ももつのでくんくんとして、ヴィクトルのまとう血の気配を感じ、さらに怒りに油をそそいでいた。

「ほほぉ‥‥少し育ったバージョンだなぁ」

ヴィクトルは嬉しそうににんまりしてアイカの胸元から腰へのラインを舐めるように見る。

ちりりりと音を立ててサーベルを抜き出す。

それはうっすらと黄金を纏う危険な武器にして、ヴィクトルのカトラリー。

ぷらんぷらんとアイカの着地バーストで揺れているアイトリースがうめきを漏らす。

「ま‥ま‥‥逃げて‥‥オリ‥‥ジ‥‥」

アイトリースは体内を暴れまわるナノマシンに対抗しつつ、なんとか言葉を伝えようとする。

この敵は危険なのだと。

「すぐ助けるわアイトリース‥‥少し待ってね」

アイカは詠唱の手間すらかけず、周りに放っていた式神八式と両肩に浮いているオービットガンを照準し放つ。

ぴきゅきゅきゅきゅぅぅん!!!

ゆらり

アイカの荷電粒子は全て空を切り、ほんの数m下がった位置にゆらりとヴィクトルの金色の鎧が移動していた。

にんまりの表情に変化はなく、くいくいとサーベルで挑発する。

(よ‥‥よけた?!いえ外された?!)

高位の光魔法にそういった術式があったと思い出したアイカ。

キリィイン!!

どぉぉん

アイカのオービットガンが防御姿勢をとり、滑り込んできたサーベルを弾いた。

10マッハの弾丸やデブリを捉えるアイカが、直前まで察知出来ない攻撃。

(光学的欺瞞がありますね‥‥)

ヴィクトルの滑るような動きはソニックブームを伴う。

その音と光に惑わされ、アイカはヴィクトルを捉えきれずに居た。

ピュシュン

予想できない動きでサーベルが滑り込み、アイカの頬をかすめた。

そこはアイカフィールドが守り、戦車砲でも止めるバリアに守られていたはずだった。

目線を外さずすいと指先で拭えば、血糊も残さずナノマシンで止血される。

ぴちゃとサーベルを舐めあげるヴィクトル。

にんまりしたその笑みに生理的嫌悪を覚えるアイカはぞくりと背筋が凍る。

「これはこれは‥‥たまらぬ‥若くしなやかだが青みがない‥」

くんくんと匂いも嗅いで、アイカの血を堪能するヴィクトル。

アイカは覚えた不快感の中に恐怖も含んでいたと自覚し、マイナス感情を怒りに変える。

「むぅぅ!!」

ふくれたアイカをニンマリと見ていて、はっとヴィクトルは膨大な殺気を感知し、上空を見る。

そこには幻術を解いて宙に浮かぶスヴァーレイクが、ごうごう燃える太陽を両手で抱えて直上に浮かんでいた。

ヴィクトルの視線が切れた瞬間に、アイカは瞬間移動の様にアイトリースを袋ごと抱きかかえ飛び去る。

真夏の太陽と変わらない光度をもつ、巨大な玉がヴィクトルに迫る。

多少位置情報を欺瞞した所で、この広範囲破壊魔法は防ぎようがなかった。

「ちょ、ちょぉ?!冗談だろ?!」

この村にはまだケイオ族の生き残りも多数いるので、こういった攻撃はないと読んでいたヴィクトルは慌てる。


ずごぉぉぉおおおおうう!!!

立ち上るのは3重に螺旋を描く白き炎。

高度10000mに待機していたアウレリアの頭上まで炎を伸ばしていた。

「‥‥ずいぶんやってくれるわね」

式を放ちアイトリースを体内からいまだ弄り回しながら、にんまりとするアウレリアのほほもオレンジ色に染めた。

本来ならば村ごとすべて焼き尽くす熱量が制御され、螺旋を描いて宙に立ち上ったのだ。

その先端は成層圏に届き、竜巻のような暴風を伴い数秒燃えた。

スヴァーレイクの演算領域も使い、超制御された核融合の炎が互いを封じるように巻き付き立ち上り消えていく。

もう用は済んだとばかりに移動を始める黄金の砲艦は、アイカの魔法で揺らがせた幻術を改めて纏う。

この幻術はアイカですら見破れない欺瞞が伴うものだった。

移動を開始するアウレリアの艦に、ほうほうのていでたどり着くヴィクトル。

非常ハッチに取り付いた姿は、あちこち焼け焦げて先端を失っていた。

「くそぉ‥‥剣もおとしちまった」

苦痛とともに漏らすヴィクトルは、四肢を焼かれる激痛の中でエアロックに滑り込んで扉を締めた。

この高空の低温に対抗できるだけのナノマシンも残っていなかったから。

アイカの魔法に捕らわれつつ、その螺旋の中を上空まで飛んで逃げたのだ。

温度耐性に特化した防御結界すら消し飛ぶ熱量は、すっかりヴィクトルを焼き焦がしていた。

あと一歩でこの魔人を消し去る手前まで。




「アイちゃん!しっかりして?!」

スヴァーレイクのコックピットに戻ったアイカが、袋を破いてアイトリースを取り出そうとするが、思ったより頑丈で、ぐらぐらと苦しそうにしているアイトリースが動いただけだった。

「グラフェン‥‥カーボンナノチューブ?か?!」

強度から予想し破壊をあきらめ、原始的に紐をほどいて脱がせていくアイカ。

「なっ?!」

中からはナノマシン保護スーツを侵食する、おぞましい黒いヘビに巻かれた、半裸のアイトリースがでてきた。

「いやぁ!アイちゃん」

アイカは対抗術式を高速詠唱し綱をほどいていく。

黒い綱はすでにアイトリースの肌に食い込み、直接肌を犯していた。

「アイちゃん我慢してね!痛いよ!」

「ああぁぁあ!?」

ばりばりと音を立てて剥ぎ取ると、アイトリースが悲鳴を上げ、アイカの手のひらの中で燃え尽きるように綱は消えていく。

「もう触媒を使い切っている?!」

次々とはぎ進めると、やっとアイトリースは呼吸が出来たのか、血糊とともに息を吐いた。

「かはっ」

アイカは瞬間的に状態を理解し、アイトリースを強制パージする。

伝統のぱっかん方式で頭が割れ、頭蓋の中にまで伸びてきた黒い触手に絡め取られているミニアイの義体を救い出す。

「あいちゃぁん!!」

ぎゅうっと胸に抱きしめて、解除術式とともに魔力と心を注ぎ込む。

「ああ‥‥ま‥まぁ‥‥」

うっすらと開いた小さな瞳は朱色の光をにじませる。

アイカの流し込んだ魔力が溢れているのだ。

「あったかい‥‥ママごめんなさい‥‥言いつけどおり何も飲んだりしなければよかった‥‥」

アイトリースはかろうじて通常に復したのだった。

ぐりぐりとアイカの柔らかさを全身で堪能しながら。

「よかった‥‥あいちゃん‥‥くすん」

すりすりと頬ずりもしてアイカもやっと気持ちが落ち着くのだった。

足元にはあまりの高温にガラス状のすりばちに変わってしまったケイオ族の村を見下ろしながら。


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