【第780話:そこに届いたもの】
聖王都ラウミナスへの帰り道は高高度まであがり、地上を精査しながら戻ることにした。
なにしろアイカが全力のアクティブ霊子波まで使った後なので、遠慮しない索敵だ。
今まではオリジナルの目を恐れて、高度を上げる飛行すら控えてきたのだ。
「なんだか久しぶりだね、この高度は」
12000m近辺まで上がると空気抵抗がずっと低く速度も出しやすい。
「まもなくアヴォリア上空です」
アイカの報告で、少し緊張が高まる。
最初に見つけた飛行物体は、その後一度も検知されていない。
「おそらく‥‥誘い出されたのです。あの異常検知は罠だった可能性が高いのです」
くやしそうにアイカは言う。
うーんと考えたジュノがたずねる。
「でも‥‥誰を誘い出したの?オリジナルは私たちがいるかもと解っていたのかな?」
むーんとアイカも答えられずにいると、ヴェスタが考えを述べた。
「たぶん聖王国を探りたかったんじゃない?かつて警告してきた女神ノア様が、何処まで手を出してくるのかとか‥‥私たちが居る可能性を考えたなら、もっとなりふり構わず捕まえにくるわ‥‥きっと」
むずかしい顔は、過去のオリジナル達の干渉を思い出し顔色を悪くする。
この星にくるずっと前からそれは始まっていたのだと、今では確信していたから。
心配そうに見てくるジュノとアイカに気付いたヴェスタは、ニコッと不器用な笑みを浮かべる。
「でも、今時点で反応が無いのだから、現在は疑ってもいない‥‥私たちも女神様の遣わしたものと思っているのよきっと」
それはヴェスタが意図的に作る笑みで、不自然なのだが、2人が大好きな笑顔でもあった。
自分たちのために浮かべる笑顔なのだと。
聖アヴォリアは完全に真円のオアシスだ。
水辺はいびつな円だし、オアシスの中央に在るわけでもない。
少し東寄りにズレていた。
中心点はアイカ達の見つけたプレートで、緑化されていて水が届く範囲は一定の距離までだった。
湖底にあるクリスタルのモノリスがそのように定めているから。
モノリスは一定の範囲に、実りの幽子を出しているのだった。
(これ以上近づくと、ヤツらの出すアイテルに触れてしまう‥‥ヴェルニアスはこういった技術では本当に優秀ね)
アイテルを捉え可視化する装置は、賢者ヴェルニアスの考案したもの。
賢者は嫌いだが、装置は便利なので使っている。
アウレリアは村の上空で重力制御によって停止している、純白の航空機ゲイルセフィラの中にいた。
捕らえたアイトリースを式で封じ込めている最中だ。
ガーディアンタイプのアニマロイドを従えていたが、これとの魔力リンクは早々と切断した。
もう一つ強固な魔力リンクがあり、これは遠方とつながっていると読み解けた。
この娘の根幹に仕込まれたリンクを、慎重に切断しようと攻撃しているのだ。
おそらく単純に切れば自壊したり、最悪は広範囲を巻き込む自爆が仕込まれている恐れもある。
そう考えて慎重に扱っていた。
自分だったらそのように作るから。
せっかく手に入れた検体を失うわけには行かないのだと。
眼下ではケイオ族の戦士が、新たに来た子どもをあしらっている。
あれも戦って倒しなさいと、同じ武器まで準備して与えたのだ。
アウレリアの目から見ればあくびの出るような速度だが、相手も保護スーツを着ているようで常人では観戦すらむずかしいレベルだ。
(ふふ、そうよ‥‥獲物を喰らい育ってちょうだい‥‥私の手駒としてね!)
アウレリアはガルドを気に入っていた。
自分を本当に女神の使徒だと信じているから。
ハルトマン軍曹達は、嘘だと解っているので、ああいった敬意は受け取れない。
先ほどのガルドの視線から敬虔な信徒の気配を感じ取り、アウレリアはとても気分が良かったのだ。
女神達を出し抜いて、その信徒を奪ったのだと。
(よし‥‥届いた。さあ‥‥接続が落ちるわよ?どうするのかしら?女神さまは)
ついにアイトリースに施された強固な結界も、構造的強靭さも越えてアウレリアのナノマシンと式がアイカとのリンクに届く。
アウレリアはそのリンクを女神達とのリンクだと思っているのだった。
「!いやあぁ?!」
アイカが突然さけぶ。
「どど、どうしたのアイカ?!」
ジュノが慌ててコパイ席から飛び出しアイカを揺する。
宙を睨んでがくがくと震えているのだ。
「あ‥‥アイトリースの接続が‥‥」
『ええっ?!』
アイカのつぶやきにジュノもヴェスタも悲鳴のように声をあげた。
「接続が‥切れました‥‥」
それはあの惑星アウステラでも切れなかった、アイカと娘たちの絆。
式として魔力を結んだつながりだった。
「大丈夫!きっと何か通信障害だよ!」
ジュノが咄嗟にフォローを入れてぎゅっと抱きしめる。
アイカはがたがたと震えだしていた。
それはかつてアイディビィが失われたと考えられた、あの事件以来の恐怖だった。
ヴェスタも後ろに来てアイカの肩に手を添える。
「そうだよ、アイカはここで降りて確認しに行って!真下に居るはずでしょ?」
励ますような2人の声に、調子を取り戻すアイカ。
「う、うん!わかった。すぐ行ってみる!」
行くと決めたらアイカは早かった。
走り慣れたスパイラルアークの艦内をダッシュして第一格納庫に向かった。
「どうしよう‥‥」
ジュノが心配そうにヴェスタの隣に来て聞く。
気持ちとしてはアイカと一緒に行きたいが、ヴェスタを一人にするのも嫌なのだ。
「‥‥そうね。心配だけどここはアイカに任せましょう。大至急で対応しないと不味いとリステルも言ってたしね」
少しだけ考えてヴェスタは本音も告げる。
「なんだか嫌な予感もするの‥‥あのアイカが見つけた飛行物体も見つけていないでしょ?戻りたいよりもそっちを探して、ここにはもう居ないのだと確信したいのよ」
眉を下げるヴェスタは、弱気な視線をセンサー画面に向けている。
オリジナルは今まで直接戦力を出してきたことがない。
あのファレチフ達の時にも、リーベとスパイラルアークⅡしか投入していない。
帝国軍にも皇帝にも自分たちで作れる範囲のものしか与えていない。
ティアでいえばかろうじて6に届くかどうか程度の技術だった。
あの飛行物体はアイカの宇宙からの索敵を越えて隠れたのだ。
おそらくスパイラルアークと同等以上の宇宙船だと想像した。
この船と違い、最初から戦うための船。
戦闘艦ではないかとヴェスタは想像したのだった。
「わかった‥‥ヴェスタは戻って‥‥わたしがスヴァーレイクで索敵を続けるわ」
はっと振り仰ぐヴェスタ。
「でも‥‥」
ぎゅっとヴェスタの頭を抱きしめるジュノ。
「任せておいて!ヴェスタはあちらを頼んだわ!」
すっとはなれるジュノに、淋しそうな目を向けるヴェスタだった。
また3人ばらばらになってしまうのだと。




