【第779話:ヴァルサール帝国の扱い】
戦場から少しラウメン大陸よりに動いて、スパイラルアークの中で相談していた。
「どどど、どうしよう‥‥見られちゃったかな?帝国に」
本来接触させず、接触せずに終わる予定だった。
帝国にはこの争いを他人事と思っていてほしかったのだ。
可能であれば見せずに済ませたかったが、あの交戦位置ではそれも叶わずアイカが警告に行った。
緊急対応を終えて今、どうしたらいいかを慌てて相談しているのだ。
「それはみえたよね。ビームもレールガンもばんばん撃ったし‥‥あの位置まで敵機に侵入されちゃったしね」
ジュノはばんばんの当事者として、少し居心地が悪そうにする。
「でも仕方なかったよ。あの戦闘機の性能も分からなかったのだし‥‥霊子爆弾でも積んでいたら艦隊ごと消し飛ばされたよ‥‥ファレチフの時みたいに世界中に影響した可能性すらあった」
ヴェスタが自分で言い出しておいて、ジュノをよしよしして弁護もする。
しょんぼりして、うつむいてしまったから。
腕くみしてうーんと考えていたアイカが、はっと思いつく。
「もうこうなったからには、はっきりと帝国に釘を差しちゃいましょう」
ぽんと手を打って、にっこりとアイカが言う。
「シナリオ6でいいですね!」
「おぉ!」
「おぉ‥」
アイカの提案に、ぱぁっと笑顔になるジュノと、眉を下げすごく嫌そうな顔のヴェスタ。
それはかつて、最初に帝国艦隊を止めた作戦。
ヴェスタが考えた、ヴェスタ以外が大喜びした脚本だった。
あーしようこうしようと、テキパキと決めて、演出まで詰めていくと早速透明化したスパイラルアークごと帝国艦隊に行く。
戦闘が収まって10分も経っていないので、帝国艦隊ではまだ大騒ぎして収集の付かない様子だった。
「あの真ん中のデカいのにしよう!」
ジュノが楽しそうに言う。
「そうですね他の空母より大きいので旗艦なのでしょう。えらい人が乗っていそうです」
このセリフも実はかつて数年前に一度交わしたものだった。
シャラハ将軍率いる帝国艦隊を従わせるために行った作戦。
着陸先は帆船から空母に変わっていたが。
ずばぁあん!!
はるか上空でコンシールを解き、超音速で降下してきたジュノのスヴァーレイクが超減速でソニックブームを撒き散らした。
白いショックコーンを突風がちらし収まると、飛行甲板の上に純白の人型が仁王立ちしている。
UMSに物を言わせた瞬間移動にも見える着地だが、一筋も空母を揺らしたりはしない完璧な制御。
右手には長大な槍を持ち、そこからこれも純白のバナーが吹き流されている。
バナーは白地を黄金が縁取り、掲げた本体と同じ色使い。
どういった仕組みか帝国側にはわからないが、グラデーションするオレンジ色のラインが全身に引かれていた。
『おい!一番偉いやつ!出てこい!空母沈めるぞ!』
わんわんとエコーを伴った大音声。
電気的に拡声しているので、びりびりと大気までふるわすのは帝国への隠すこと無い恫喝だった。
きぃぃぃん‥‥ずばぁああん!!
ソニックブームが再度打ち鳴らされると、そこには2機目の純白人型。
同じ姿勢で同じバナーを掲げるが、ラインは真っ赤にグラデーションしている。
アイカのスヴァーレイクだ。
わいわいと大騒ぎになっているが、まだ偉そうな人間はでてこない。
『騒がしいですね!無駄口を叩かず責任者を出しなさい!2~3隻沈めてみせましょうか?』
アイカの機体から、ふわんとオービットガンが浮き上がる。
両肩に止められていた巨大なバインダーはそのままアイカの式として動かせる。
自在に動く盾にして、必中の剣ともなる。
そうして恫喝すると、やっと偉そうな男がまろびでてきた。
士官数人に押し出されたハーグリーブス将軍である。
ととっと出てきて、足元から首が痛くなるまで振り仰ぎ、20mもあるスヴァーレイクを見上げるハーグリーブス。
(こ‥‥これは反則だろ?!)
かつて聖騎士なんて俺がやっつけてやるとかのたまっていた将軍の成れの果てだった。
どぉん!
『頭が高い!』
槍の石突で甲板をたたいたジュノの、いらっとした声は半分演技だ。
「ひぃ?!」
実は帝国の軍学校では士官以上の者に、極秘の知識が与えられる。
ラウメン聖王国の聖騎士に出会ってしまった時の、緊急対応マニュアルだ。
シャラハ将軍とガヴィール元帥により監修されたテキストが配られる。
3時間におよぶ必須にして秘密の講義によって、うろ覚えだったハーグリーブスは、やっと拝礼の姿勢になった。
ふわんとアイカのオービットガンが銃口を向けたから。
その人間が入れそうな穴は真っ黒で、十分にハーグリーブスの心胆を寒からしめた。
『只今より使徒様のお言葉がある。そのまま拝聴せよ!』
びりびりとジュノの声は大気と共に、ハーグリーブスの体もふるわせた。
もちろん艦内でも飛行甲板の上でも帝国軍の人間は等しくひれ伏すのだった。
ぱぁああっと黄金の光が透明化したスパイラルアークから舞い降り、その光のなかしずしずと3機目のスヴァーレイクが降りてくるのだった。
急遽ふわふわの使徒様衣装っぽく飾られた20mの人型が両手をあわせたポーズで舞い降りた。
アイカとジュノの掲げるバナー付きプラズマランスの間にふわふわと浮いたままヴェスタの声が響き渡る。
「ご機嫌ようヴァルサール帝国の方々‥‥」
おもったよりも優しい声で、癒された帝国軍では、聖騎士の恐ろしさと合わせて使徒の慈悲深さが伝えられるようになるのだった。
撤収して透明化したままラウメン大陸へと向かうスパイラルアーク。
「いやぁたのしかったぁ♪”ははぁ”させてやったね!」
ジュノはにんまりとご機嫌だった。
「本当です、帝国に思い知らせてやりました!」
アイカもくすくすと機嫌よく答えた。
一人ヴェスタはパイロットシートで膝を抱えていた。
恥ずかしかったのよりも、前回のシャラハ達に振るった言葉と表情をおもいだして真っ赤になっていた。
ぴーぴーぴー
突然通信の通知。
3回鳴るのは緊急と定めているもので、慌ててヴェスタが受けた。
「ヴェスタよ!どうしたの?」
通信はエゼリア基地のリステルからだった。
「まずいね‥‥帝国からメッセンジャーが来ていたよ。聖騎士隊の士官が待たせていたみたい。さっき報告が来て、私も慌てて戻ってきたの」
どうやら聖騎士隊の隊士への外交教育が不十分だったようで、偉そうな相手じゃなかったから、待たせていたらしい。
ちゃんと上司たるセイラシュへ書面で報告していたのだが、リステルの耳に入るまで4日も経ってしまっていたらしい。
「これ以上待たせると色々と不味いから、こちらで受け取ってもいいかな?内容は確認後そちらにも送るけど‥‥できればヴェスタ達も一旦聖王都に戻って。これは緊急だよ」
リステルとしてはこれ以上待たせるのは不味いと判断したようだ。
「そうね‥‥ラウミナスに戻って、セルジュさん達五賢人にも相談するから、ひとまずマナミかリーベ辺りで対応して!」
ヴェスタもあまり好ましくない状況だとは理解できた。
なにしろさっき艦隊に釘を差してきたのだ。
使者を待たせてそんな事していたと知れたら、非常にまずいなと。
時系列をごまかして、先に使者から案件をもらっていたことにしなくてはならない。
「急いでもどろう!」
『ラジャー!』
そうして聖王都ラウミナスへ向けて、コンシールしたままスパイラルアークで戻ることとしたのだった。
リシュアナやアイトリース達をアヴォリアに残したまま。




