【第778話:都合よく解釈するもの】
先ほどアイカに警告された帝国艦隊は、やっとパニックになり始めていた。
格艦艇の指揮をとる士官・将官たちから、やんやと問い合わせが来ていた。
「何度も言わせるな!そのまま待機と伝えろ!」
あちらからこちらからと通信を取り次ぐオペレーター達に、怒鳴り返すハーグリーブス将軍は、先程の出来事を理解しようと考えていた。
(伝説にあった聖王国は本物?!今まで見せてきたものなど片鱗ですら無いのか?!)
見たものをそのまま評価すればそうなるのだ。
そしてそれはハーグリーブスの望む、丁度良い敵ではない。
決して手を出してはいけない、異次元の存在だと認めることとなる。
(ちがう‥‥なにかトリックがあったはず‥‥魔法による幻術は我々も使いこなしているじゃないか‥‥)
そうして帝国にとって都合が良い、ハーグリーブスが扱える範囲にラウメン聖王国を収めようと思考を重ねていた。
キィィィン!
アウレリアの操る偽装戦闘機が帝国艦隊を視界に収め、機首に内蔵されたレールガンをチャージする。
ジュノのスマートガンほどの威力ではないが、チャージショットを撃てる仕様なのだ。
フルチャージで撃てばシールドのない艦艇など一発で貫通し沈めてしまう。
(ふふ。これで王手よ!!)
にんまりのアウレリアが引き金を引かせた。
ズバァアアン!!
狙ったのは中央に鎮座する大きな目標。
空母にして旗艦エルダヴァスカの巨大な飛行甲板。
ぱきぃいん!!
発射直後に艦隊の前に多重展開されていた防御結界が作動し、これを弾いた。
「させません!!」
ぴきゅきゅぅん!
どぉぉん!!
頼もしい宣言とともに艦隊を背にして、幻術を解いたスパイラルアークが姿を表す。
アイカの防御結界が展開されていたのだ。
中央に開いたスリットの奥から、スヴァーレイクとは桁の違う出力の荷電粒子砲が放たれ、抜け出してきた敵機は粉砕された。
『ナイス!アイカぁ!』
ジュノとヴェスタの声がそろい、うれしそうに叫んだ。
「ふふん!さあ殲滅してしまいましょう!」
アイカも嬉しそうに答え、アークを戦場へと進める。
そうしてスパイラルアークチームの3人が揃えば、怖いものなど無いのだった。
わきあがる頼もしさに笑みを浮かべ、ジュノは機体を切り返す。
残してきた敵を片付けるために。
戦場はこうして終息へと向かう。
アウレリアの狙いをすべて防いでしまうのだった。
アヴォリアオアシスから少しだけ離れた位置にあるケイオ族の村。
この西側には海岸までの間にいくつもケイオの村がある。
大陸の西海岸から侵入しても、真っ先にケイオ族に見つかり捕縛されるよう村が配置されている。
ケイオにも伝わる水探しの技により、希望する辺りに小さいながらもオアシスを作る技術が伝わっているのだ。
その奥まった一つに今アウレリア達が来ていた。
村の上空に音もなく重力制御で留まっているのは、真っ白な船体。
皇帝専用機ミスティアリアの姉妹機、アウレリアの本当の姉妹から名を取ったゲイルセフィラ。
見た目は似ているが中身は別物で、シフト収納まで備える先進技術の塊。
スパイラルアークと同等のティアに当たる、アウレリア専用機だ。
(‥‥全滅‥‥まぁガーディアンが相手ではあのティアの機体で何かさせてもらえるはずもない)
せっかく準備した火種だったが、別にあの程度の仕掛けは何度でも作れるので痛くはないアウレリア。
先日の鎮魂祭襲撃で失った、強化された部下たちのほうが惜しかった。
ちらと部屋の片隅を見れば、痛みを乗り越えたのか拝礼の姿勢を取り続けるケイオ族の戦士ガルド。
照明のひかえられた薄暗い室内にアウレリアのやわらかな声が流れる。
「試練を超えし選ばれた戦士よ‥‥まもなくそなたの村に悪魔が現れる。これを捕らえて力を証明しなさい」
ふんわりとかけられた声に、ガルドは短く答える。
「お任せ下さい」
拝礼し床を見つめながらの返答には、アウレリアへの敬意が滲む。
ひいてはその後ろに感じられる女神の気配に捧げる、敬虔な心があった。
痛みを越えた戦士は信心深い信徒と成っていた。
「‥‥衣服を全て脱ぎなさい。これを授けます」
アウレリアの手にはナノマシン保護スーツを収めた金色のリング。
ハルトマン達にも与えているティア9の保護スーツだった。
一瞬だけとまどったが、真剣な顔のまま儀式を受け入れるようにガルドは服を脱ぎ捨てた。
アウレリアが予想したとおりにアイトリースが現れ、これを村人達が授けた作戦で捉えてしまう。
アウレリアは巻き付けた触媒たる、オレイカルコスを編み込んだ呪具に式を重ね魔法を発動する。
あらゆる魔力活動を阻害する、魔封じの呪文だ。
術式に必須となる魔力子の動きを阻害し、AIのあやつる式を行使しづらくする式だ。
それを触媒を使い強力に行使した。
これだけでは通常はあまり効果がない。
こういった式に対するカウンタースペルもまた一般化してきているので、通常は無意識に発動する防御式が防いでしまう。
今のアイトリースには体内にアウレリア支配のナノマシンがいるため、その防御式をも阻害し式を通してしまう。
「くくくっついに捕らえたわ‥‥この『聖騎士』というやつらは何かおかしいのよね‥‥私の式が見通せないし‥‥」
アウレリアは帝国が把握した情報を全て持っている。
それ以上を持っているとも言えた。
帝国軍には必ず透明化した式を同行させていたし、必要に応じて宇宙からも監視の目を向けている。
ただし、このラウメン大陸だけは避けていた。
近づかぬよう、視線すら向けないように。
それは賢者からの指示でもあったので、女神たちにこれ以上悟られないようにと注意をしてきた。
怯えていたといってもいい。
その中で帝国軍のすぐ近くで活動したものは徹底的に観察した。
のこのこと帝国軍の中にまで来たルクールやメーナ。
変装したマナミやリーベも見たが、この2人は体内を全く覗けないほど強固な式が組まれていた。
ちょっとでも探ると感知される、針山のような防御術式に隠れていたのだ。
そこで比較的ガードのゆるいルクールとルニーアを、アヤンタ王国などでも監視し探っていたが、読み解け無い式が多数使われているとしか分からなかった。
メーナはまだ分かりやすく、おそらく式として造られたAIだなと読み解いていた。
読み解いたが、メーナは大したことは知らなかった。
今捕らえたアイトリースも、アイカが強力なカウンタースペルで守っていたが、体内は守っていないので今は式が通る。
「落ち着いたらたっぷり可愛がってあげるわ‥‥くすくすくす」
アウレリアは今までの鬱憤を晴らすあれこれを想像し、たのしそうに笑みをこぼすのだった。




