【第777話:想定外の事態になりました】
「さあ‥‥こちらに来るのですケイオ族の戦士ガルドよ‥‥」
宙から降り立った使徒が、慈愛の笑みを浮かべ戦士長の手を引く。
ふわりと宙に浮きそのまま天船に運ばれる。
「と‥‥飛んでいる」
くすくすと笑いをこぼす美しい使徒はアウレリア。
「これからは貴方も空を飛べるようにしてあげますよ‥‥」
おぉと笑みを広げる戦士長は30才になり、子はまもなく狩りにでられる歳になる。
その笑みには少年のような憧れと期待が溢れていた。
笑みのまま使徒は告げる。
「‥‥試練を乗り越えてくれたなら」
くすくすのまま告げられたその言葉を、直ぐに思い知らされることとなるのだった。
「ぐがあぁあああ?!!!?」
ガルドは全身で暴れ回る拷問のような苦痛にのたうち回る。
頑丈な天船の床は大柄なガルドがいくら暴れてもびくともしない。
「あらあら‥‥従うと言ったのに‥‥偽りでしたか?その痛みは貴方の持つ疑う心です」
ガルドには目を向ける余裕も無いが、アウレリアはにんまりと邪悪な笑みを浮かべる。
経口摂取でハルトマン軍曹達にも与えたものと違い、より強制力の強いナノマシンの改造薬を飲ませたのだ。
侵食してくる感覚に逆らえば苦痛を伴う。
本来ならナノマシンポッドに入り麻酔をして受ける施術だ。
この方式ならば時間をかけずに手駒を増やせるが、検体が耐えられるかは本人次第となる。
「さぁ‥‥女神様に身も心も捧げるのです」
うれしそうに苦しむガルドを見下ろすアウレリア。
ごろごろとガルドは転がるが、そんな事で全身の神経細胞を犯される痛みは引かない。
壁に当たりうずくまって痙攣していると、すうと痛みが和らぐ。
(い‥‥痛みが‥‥女神様、お許しを‥‥お許しを‥‥)
戦士長として身を立て、神事や祈りの技をおろそかにしてきた半生を悔やむガルド。
祈りこそが我が身を、ケイオを約束の地へいざなうのだと。
それは自分でも折々に口にした、ケイオの祈りの言葉だった。
祈りを思い出す度に痛みが引いていくように感じるガルドは、ちかちかとフラッシュする視界の果てに慈愛の女神が腕を広げる幻影を見るのだった。
ナノマシンが順応し、痛みが落ち着いていくのだとは思いもしなかった。
「な‥‥ガ‥‥ガーディアンだと?!」
次々と失われる式達から、最後の映像を取り出すアウレリア。
そこには空中でしゅるりと人型になり、プラズマソードを振るうジュノのスヴァーレイクの姿。
なにしろ地下神殿で見たガーディアンを模してアイカが設計した機体なので、アウレリアにはオリジナルの駆逐戦艦を次々に切り刻まれた悪夢を呼び起こす。
ふるふると震えたアウレリアが、モニターの並ぶエンジニア席のシートに倒れ込んだ。
姉妹たちの悲鳴を聞きながら、賢者ヴェルニアスの指示で逃げ延びた、遠い過去の戦場をフラッシュバックしていた。
それは女神たちがアナムノーシスの果てから振るう、この銀河における現実の剣。
広くはアニマロイドなどとも呼ばれる謎の機械生命と、人の世では認識されている。
その最上位の存在が、ルティナリウムとオレイカルコスで造られた白い巨人。
オリジナル達が”ガーディアン”と呼称するものたちだった。
「‥‥帝国艦隊に一発でいい‥‥攻撃を届かせるのよ!」
瞳を閉じ集中したアウレリア・エリオンが、もう12機まで減らされた式を操った。
片手間で済むはずの仕事が、不可能に近いミッションになった。
この戦闘機は万が一女神たちに鹵獲されても、オリジナルに繋がらないようにティアを制限して組み立ててある。
それでも帝国にアウレリアが与えた技術レベルの艦隊では対処不能なはずだった。
どぉぉん!!
ちょいちょいと加減速でソニックブームを伴う動きをするジュノ。
敵機の後ろから追いつき袈裟斬りに切り落とす。
(やっぱり柔らかいな‥‥)
ジュノが基準として見ているのは、惑星アウステラのセクターAやSの強敵たちだ。
このスヴァーレイクも当時のスヴァータイスを基準に、同等以上の性能に組んであった。
ヴェスタが掃射して制限し、帝国艦隊に向かおうとする航空機をジュノの前に追い込んでくる。
(ふふん、さすがのヴェスタだわ)
にんまりするジュノは、ヴェスタがこちらの意図まで読み取るので、とても動きやすい。
この敵機はエネルギーシールドを纏っているので、レールガン程度では弾かれてしまう。
チャージショットか、近接で振るうプラズマソードで仕留めていく。
しゅるんとまた飛行形態になり、加速するジュノ。
ヴェスタの面制圧ディフェンスを抜けようとする敵機に射線が通る。
チャージを終えたスマートライフルが俯角で撃ち込まれる。
ずばぁぁああん!!
長大な射撃炎を十字に吹いて、超々音速の弾頭が敵機を粉砕する。
「残り10機!ヴェスタ?!そっちは大丈夫?!」
ジュノはやっとヴェスタと話を出来る余裕までを取り戻した。
2機で10倍する敵機を封じ込めたのだ。
「うん!大丈夫!」
ヴェスタも元気な返事で、まだまだ余裕がある。
ジュノの機体より与し易いと、ヴェスタに群がる敵機。
そうヴェスタに仕向けられているとは気付けないようだ。
(そうか‥‥こいつら無人機だな?あのアウステラでよくいじめたヤツらに似ている!)
ジュノは最初から感じていた違和感に答えを出していた。
シンプルでロジカルな回避に見覚えが有ったのだ。
突然敵機の動きが変わる。
アウレリアが魔力リンクを本格的につなぎ、操作し始めたから。
「な?!」
トリッキーなロールで体当りされそうになり、体勢を崩すヴェスタ機。
「いけない!?ジュノぉ!!」
体当たりを回避した隙をつかれ、別の一機が抜け出してしまう。
敵機がどぉんと加速して艦隊を目指す。
「にがさぁん!!」
ずばぁあああん!!
フルチャージではないが、それなりに威力の乗ったスマートライフルの一撃。
ヴェスタのスヴァーレイクと、ニアミスでブレイクした敵機の隙間を抜いて、包囲を抜け出した機体を狙った。
10マッハを超える弾速は偏差撃ちを必要としない。
見えれば当たるのだ。
ずがぁん!
ジュノの狙撃を遮る影。
回り込んだ敵機が目の前を遮り、ジュノのチャージショットを止めてしまう。
「なあぁ?!自爆かあ?!」
ジュノは敵機のロジックじみた動きに慣れていたので、駒のように仲間を犠牲にして進む有機的連携を見せる敵機に対応が遅れた。
「まずいよっ!?」
どぉぉん!
一気に加速しながら飛行形態にもどしたジュノが高度を取る。
帝国艦隊まであと50㎞もなかった。
ジュノのスマートライフルなら届く距離なのだ。
じりじりと押し込まれてここまで来ていたのかと、ジュノは焦る。
ヴェスタが残りの敵機を相手取り牽制するなか、ジュノは全力で抜け出した敵を追う。
(おねがい!届いて!)
びりびりと限界の加速をかけるスヴァーレイクにムチを打ち、ジュノがターゲットに捉える。
ずばぁああん!!
敵機はジュノの射撃を予測していたように、くるりとロールしてかわす。
ジュノ達が想定し、AR表示に出していた阻止限界線を敵機が越えていく。
「あぁっ?!」
そこからなら敵機の武装が、海上の帝国艦隊に届いてしまうのだった。




