【第776話:ご心配無く】
きぃぃいいいん!!
アイカは高度4000m近辺を、1.4マッハを超える速度で飛行する。
先ほど打ったアクティブ探知の結果は、ヴェスタ達にも圧縮霊子通信で送った。
「聞こえますかヴェスタ!?もう通信封鎖とか言っていられません!一大事ですよ!」
アイカは慌てていた。
外装ではこの速度でいっぱいいっぱいだが、間に合うか微妙なラインだった。
『聞こえたし、こちらでもマークしたよ!うじゃうじゃいるね!』
元気なジュノの声。
『こっちも無事合流したよ!アイカは平気?!ケガしたりしてない??』
ヴェスタは操縦しながらだろうに、慌てて聞いてくる。
心配してくれたのだと、アイカはじわりと胸が暖かくなる。
「はいっ!傷一つ付いていませんよ!わたしを待たずに、そちらから接敵して下さい。このままでは非常に不味いです‥‥アイツらケイオ族の村で聖騎士と名乗ったのです!」
『!?』
驚いて見交わすヴェスタとジュノ。
それは全てラウメン聖王国になすりつける気でいるということだ。
『了解‥‥‥スヴァーレイクで出るよ』
ジュノが一転して冷静な宣言。
『アイカ!スパイラルアークをお願い!私もインターセプトに出る!』
ヴェスタもばたばたと出撃する気配。
アイカの式で遠隔でもアークは制御出来るので、二人とも出撃するつもりだ。
「急いで!!決して帝国艦隊に対して攻撃させないで!それは不味すぎるのです!」
アイカが霊子波で見つけたのは、帝国艦隊へ向かう航空機の編隊。
20機以上が密集陣形で飛んでいるのだ。
恐ろしいことに20m程の機体を、聖騎士隊の式神と同じ白紺のツートンに塗り分けている。
わざわざコンシールで聖アヴォリアに来て、そこから姿を現し戻って艦隊を攻撃する気なのだ。
このタイミングでは迎撃機も上がれないだろうし、帝国軍は直掩機など出していないのだ。
もし式神と同等の性能なら、20機もいれば帝国艦隊は海の藻屑となるだろう。
ラウメン聖王国に攻撃されたと認識しながら。
「タリホー!!ヤルよ!?」
ジュノが元気に敵機を発見。
純白の機体には鮮やかなオレンジのラインとグラデーション。
式神七式より一回り大きなスヴァーレイクだ。
青白いパルスジェットとUMSのプリズムを撒き散らし、見下ろした敵編隊へ急降下して行く。
『ジュノ!やっておしまいなさい!』
恐らく2~3㎞後ろを飛んでいるヴェスタが、姫モードで交戦許可を出す。
「まかせて!」
ジュノは叫ぶと同時に射撃を開始する。
どどどどどん!
まずは右肩と右手で固定している、スマートライフルから連射する。
飛行形態では機首にアライメントをそろえ、狙いは機体そのものでつける戦闘機の動き。
「敵機散開!」
ジュノの報告をヴェスタも目視で捉えた。
「インサイト!」
ジュノと交差するように戦場に入った、ヴェスタのスヴァーレイクも装甲にきらりと陽光を跳ね返す。
機体各部に引かれるラインはエメラルドグリーン。
ぶぅーん!!
ジュノと同じように右腕に固定しているカノンポットから、毎分8000発の20mmレールガンが放たれる。
銃身が短いので、この距離ではかなり着弾がばらつく。
左からそうして広範囲にばらまきながら被せて、ジュノの撃ちやすい位置に追い込むのだ。
先頭を飛んでいた敵機のシールドが弾け、きらきらとプリズムの破片をこぼしていく。
(エネルギーシールド方式ね!)
それは汎銀河連邦では標準的な戦闘機の仕様。
ジュノとヴェスタは、完全に敵編隊の頭を抑えたのだった。
(さすがヴェスタ!)
きゅぅぅ‥‥
スマートライフルがフルチャージになり、ジュノのスヴァーレイクがしゅるんと上空で人型に変形。
その眼下にはいい感じに逃げてくる敵機。
ずだぁぁああん!!
射線に複数の敵機が重なった瞬間射撃して、一撃で2機を粉砕したジュノ。
(なんだ?もろいな‥‥)
上手く貫通したらラッキーくらいで撃ったのだが、先頭の敵機は空中分解し、後ろも錐揉みで落下していった。
不審に思いつつも飛行形態に戻り、再チャージを始める。
そのままシールドに内蔵のカノンポッドからレールガンをばらまいて、再突撃した。
ヴェスタと2人で狩りのように獲物をコントロールしていく。
(‥‥なんだろう‥‥この動きどこかで‥‥)
ジュノを謎の既視感がゆすった。
アイカはようやくスパイラルアークに届き、空中でアーク下面の第一格納庫に飛び込んだ。
ジュノ達は出撃時に開けっ放しで行ったのだ。
ぼひゅっとジェットを一度吹いて、相対速度をあわせ足が着くと同時に外装を外す。
まだ戦場まで少し距離があるので、外装はラックに収め、燃料をチャージする。
たたたと艦内を走るアイカには、このアークを使ってしなくてはいけないことがあるのだ。
ヴェスタの代わりにコックピットに収まると、アークに本気のムチを入れる。
重力制御とパルスジェットでのんびり飛んでいたのを、気圏内での限界まで加速した。
びゅうぅ!!!
後端のスリットから機体の数倍ある長大な噴射炎を吹き出す。
カートリッジ式の固体燃料を燃やす、準光励起霊子ロケットだ。
本来宇宙空間での移動時にシフト航行の合間を埋め使用する、核パルスジェットとは桁がいくつか違う推力を叩きつけた。
機体の全面にはエネルギー変換シールドが消耗品の様に使われ、プリズムの破片を撒き散らし大気の壁をえぐりぬく。
UMSで船内を守りつつ瞬間最大15Gにもなる加速を、スパイラルアークは大気圏内で無理やり使用した。
元々亜音速まで加速してあったので、1秒かからずドーンとソニックブームを打ち鳴らす。
漏斗状の白い傘を残し、はるか彼方へ消えていった。
ジュノ達の交戦区域の横をすり抜け、帝国艦隊の上空に出て一気に減速。
180度転回し減速にも固体燃料ロケットを使う。
どぉぉん!
帝国艦隊の上空で再び音の壁を超え減速したスパイラルアーク。
ばらばらに成りそうなGを、重力制御でコントロールし、ぴたりと止めて見せるアイカ。
眼下に先ほど見つけていた帝国艦隊を収め、すぅと息を吸う。
『現在所属不明の戦闘機によって!‥‥ラウメン聖王国は攻撃を受けております!‥‥聖騎士達が制圧しますので!‥‥ご心配無く!‥繰り返します!‥‥』
拡声されたアイカの声がいんいんと木霊して響き渡る。
一瞬で現れた銀色の船体を、ぽかんと見上げた帝国軍人達は、さらに目も口も限界まで開くのだった。
3度同じ内容を叫びおろし、ぼひゅうと轟音を撒き散らしスパイラルアークが戦場へ向かう。
ばぁああんと大気を震わせ、白い雲をふわりと残して。
こうして先に宣言してしまえば、後にオリジナルが何を言おうと嘘と言い張れる。
それが今、アイカがしたかった急ぎの仕事だった。
ハーグリーブス大将も旗艦エルダヴァスカの艦橋で、デカいシートに収まりながら身を乗り出し、周りと同じ様にポカンとしていた。
『‥‥‥‥ご心配無く!‥‥以上です!』
どぉぉん
上空100mほどにショックコーンをくっきりと残し、その異常物体は来た時と同じ唐突さで飛び去った。
なんだか矢のようにとんでいったなぁと、ぼんやりと考えていたハーグリーブスだった。
なんだあの加速はと。
飛び去った先の空には彼方で戦闘中なのか、ぴかぴかとピンクに光ったりとか、ぱあっとオレンジに光ったりと花火のようで綺麗だなとも感じた。
あと10秒くらいはハーグリーブスも通常に復せないのだった。




